第二十歩

約束通りキッチンでお茶を淹れながら、俺は必死で考えていた。
うちに呼んだはいいものの、どうやって五十嵐をチームに誘おうか。
出来るだけ自然に話を持っていきたいんだけれど、やっぱり具体的な方法は思いつかない。
考えているうちにお茶が入ってしまったので、しょうがなく五十嵐の待つリビングへと運ぶ。
俺を悩ませている少女は、ソファにちょこんと座り物珍しそうに周りを見ている。
「はい、お待たせ」
俺は五十嵐の前にカップの取っ手を取りやすいよう左側にして置き、テーブルを挟んだ向かいの椅子に座る。
「わあ、かわいいカップだね。三浦君が買ったの?」
ティーカップには繊細なタッチでリンゴの絵がいくつか描かれている、多分だけど北欧製だ。
「いや、お袋の趣味。そういうの集めるの好きでさ、三人家族なのにティーカップとか皿だけやたらあるんだよね」
「すごいセンスいいね、お母さん。お部屋もかわいいし」
もう一度五十嵐が辺りを見回して言う。
「そうか?俺としてはちょっと女っぽ過ぎるかな。家具とか時計とか変えたいんだけど、勝手にやるわけにはいかないから放置してるんだ。第一そんなことしだしたら金がいくらあっても足らないしね。」
 五十嵐が同意する。
「インテリアって凝りだすとすごいお金かかるよね。雑誌とか見て憧れるんだけど、自分ではルームシューズ買ったり小さなサボテン買うので精一杯。洋服だって欲しいし、美容院にも行かなきゃだし。頑張って頼めばお父さんとお母さんも特別にお金をくれることもあるんだけれど、やっぱりいつもいつもってわけにはいかないしね」
「まあそうだよな。バイトでもすればいいんだろうけど」
「しないの?バイト」
「めんどくさいからしない。それよりお茶、飲んでよ。冷めちゃうよ?」
「あっ、ごめんなさい。いただきます」 両手でカップを持ちながら、目を閉じてゆっくりカモミールティーを飲む五十嵐。
「すっごくおいしい、さすが自分で言うだけあるね!それにすごくいい香りがする」
「いい匂いするよな、なんかクセになる匂いっていうか」
 二口目を飲んだ後、五十嵐がカップを静かにテーブルへ置く。
「何て言うハーブなの?」
「カモミール。リラックス作用があるんだって」
「へー、初めて飲んだ。私これ好きかも」
「だから言ったろ、五十嵐の好みぐらいお見通しさ」
 俺は冗談ぽくかっこつけて五十嵐を見つめる。
「ふーん、そうなんだ。じゃあ三浦君には嘘つけないね、全部バレちゃうから」
 五十嵐が白い歯をこぼしながらながら言う。
「バレるよ、全部バレちゃうよ。だから俺と話す時は気をつけたほうがいいよ」
「わかった、気をつける」
 五十嵐は素直に頷いて、大事そうにハーブティーを飲む。
 改めて見るとやっぱりかわいいな、この子。
「さっきのバイトの話なんだけどね」
 五十嵐が会話を再開する。
「三浦君てバーテンダーとか似合いそう。なんかかっこつけてシャカシャカやってるの。それで『お美しいお客様には、こちらのカクテルがお似合いです』とか言うの」
 バーテンダー?
 突拍子もない発想に、俺は苦笑する。
「俺のイメージって、そんなかんじなのかよ。こう、夜の街でかっこつけてシャカシャカやってそうなかんじ?」
「うん、そんなかんじ。それでそのお客さんにはフラれちゃうの。けど懲りずにすぐまた違う人に声をかけるの。バーテンダーの三浦君は立ち直りが早くて、すぐ次の女の人にいくの」
「なんかすごいイメージだな。けど俺そんなにかるくないぜ?わりと一途だし」
 五十嵐は片手を顎に当て、ちょっと考えてる風の仕草。
「うーん。私は三浦君みたいに他の人の嘘を見抜けないから、言われたままを信じるしかしょうがないよね、とりあえず」
あまりにも心外な五十嵐の発言に、俺はちょっと腹が立った。
 いや、腹が立ったと言うより、かるく傷ついてしまったのだ。
「もういいよ、俺学校辞めてバーを開くよ。それで店に来る女の人に片っ端から声かけて、フラれまくればいいんだろ?お望み通りそうするよ」
「あら、いじけちゃった?」
「別に」
 だって今の五十嵐の言葉だと、俺はかるくて気が多いってことになるのだ。
 当然俺は少しだけ不機嫌になる。
「あーあ、いじけちゃったねー、三浦君ねー。三浦君が……いじけ……」
五十嵐は愉快そうに笑った。
むー、意外なイジり方をしてくるな、この子。

寝太郎
この作品の作者

寝太郎

作品目次
作者の作品一覧 クリエイターページ ツイート 違反報告
{"id":"nov141216014626179","category":["cat0002","cat0004","cat0008","cat0010","cat0016"],"title":"\u604b\u3068\u8e74\u7403","copy":"\u4e8b\u6545\u3067\u8db3\u3092\u5931\u3063\u305f\u5143\u5929\u624d\u30b5\u30c3\u30ab\u30fc\u5c11\u5973\u304c\u3001\u30d5\u30c3\u30c8\u30b5\u30eb\u3067\u8f1d\u304d\u3092\u53d6\u308a\u623b\u3059\uff01","color":"deeppink"}