第三歩

「航平は最近放課後も学校に残るよな、海外サッカー観戦はやめちゃったのか?あ、明日菜パンツ見せて」
「いや、今もサッカー観てるよ。ただここんところ前みたいな熱が入らないんだよなー、俺もやっぱりパンツ見たい」
明日菜の瞳の奥にマヒャドが宿る。
「ここが西部開拓時代だったら良かったのに。二人をリボルバーで心臓に遠いところから撃ち抜いていくの。段々急所に近づいていく中、無様に命乞いして欲しい。絶対許さないけど」 
 侑に言った通り、俺は海外サッカーをチェックすることが減ってきていた。
 中学の時には部活もやらずに時間を惜しんでCSの試合中継を観ていたのに。
遠因として、やはりあの(俺の中では伝説となった)スルーパスを目の当たりにしたことが挙げられるかもしれない。
そう、あの日からピッチでサッカーを体験、つまり自分でプレーしてみたくなったのだ。
 ただあの時中学二年の夏、今さらサッカー部に入る勇気もなく。
 高校から始めるという選択肢もあったのだが、俺が高校に入ると同時に父親が海外転勤、父親にだけハートマークのハンバーグを出す程夫を愛してやまない母親も一緒に行ってしまった為、ハウスキーピングを一人でこなさなきゃという事情もあり。
 第一ここの高校のサッカー部は全国大会常連の強豪、中学まで帰宅部だった俺に練習についていけるとはとても思えなかった。
 だって、割と運動センスのいい侑だって五軍どまりだったのだ。
 最も侑の場合はプレーにムラがありすぎて、監督に信頼されなかったというのが出世できなかった理由かも、とサッカー部の友達から聞いた。
 というわけで最近の放課後は帰宅部三人、空いた教室で暑い中青春してる運動部の皆さんを眺めている。
「ねえ、今日の晩御飯何?」
 明日菜が俺んちの夕食に探りを入れる。
「また食いに来んのかよ」
「いつもこうちゃんちで食べてから自分ちの晩御飯も食べてる」
「どんだけ食うんだよ、よく太んないな」
意外なことに、明日菜は、「学校一モテる女!」らしい。
十年以上一緒にいて、多分お互いのおねしょまで見たであろう関係の俺からしたら、ちょっと世間の目がおかしいと思わざるを得ない。
だって色気とか可愛げ、なんてものは前世でファンタジックなドラゴンに食われてきたような、遺伝子が縦に伸びることに集中して胸とお尻を忘れてしまったような女なのだ。
「んで侑はこれからどうすんだ? 勉強に命賭けるか?」
「それは無理」」
「じゃあ逆にナンパしまくるとか?」
「シャ、シャイな俺に、そ、そんなことが出来ると思うか? 街で噂のトゥーシャイシャイボーイの俺に! モテたい、しかし純情。はぐれ高校生純情派、ピュアなラブがフェイバリット」
 自分から聞いておいてなんだが、最初のシャ、シャイまでしか聞いてなかった。
ひとしきりボケ二人とツッコミひとりの変則トリオで会話したあと、誰からともなくゆるゆると帰り支度を始めた。
最後まで侑は「モテたい、彼女欲しい」と言い続けていた。
口にこそださないが、世界中の男子が共感する言葉だろう。
少なくとも俺は激しく同意。

寝太郎
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寝太郎

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