order16. ウェスタン・カウボーイ

<邸内・庭園>


 "HK416"と"コルトパイソン"が同時に火を噴き、襲撃者を屠る。
いずれにせよこのままベンチを陰にして隠れるだけなら、人数の差でやられてしまう。

「おい! お前他に武器はねぇのかよ!? 」
「生憎スタングレネードとスモークだけだ。どうすんだ? 」

「どうするも何もそいつを使えっての! 一ニの三で行くぞ! いいな? 」
「あいよ、1! 2! 3! 」

合図を数えたキッドはスタングレネードを投げ、爆発したと同時に二人はベンチを飛び越えた。
目をくらませた襲撃者達はその場で立ちすくみ、その大きな体を露わにする。

グレイが"HK416"で先行し、その後ろをキッドがカバーする形で進む。
邸内へ戻るのには庭園を出ていかなければならない。

「やれやれ……。連中は俺たちを狙ってるのか? 」
「だとしたら全員ぶっ殺せばいいじゃねえの」

大きな木の陰に隠れた二人は邸内へ戻るルートを確かめるが、生憎快く通してはくれなさそうだ。
隠れながら襲撃者達を殺して戻るしかない。


「ここから見えるか? 」
「数は10……いや12。見つからずに行けば半分殺りゃ済む。こっちには地の利があるぜ」
「オーライ。伝説の傭兵顔負けのスニーキングミッションと行こうや」


トリガーを指に掛けながらグレイは身を屈め進んでいく。
消音器が欲しいところだが、この状況で贅沢は言ってられない。

「俺が撃ったら進め! 」

バッと木陰から飛び出し、"HK416"のマガジンにあった銃弾を全て撃ち切る。
後方にいたキッドがグレイの横を通り抜け、奥へと進んだ。

「派手にやるねぇ! 」

身を屈めてから空になった弾倉を地面に落とすと、腰に装備してあるサイドアームから新しい弾倉を押し込み、ハンドルを下げて弾を装填する。
相変わらず銃声が鳴り止まない庭園を二人は草陰に隠れながら進んでいった。

「いたぞぉ!! 」
「うげっ、どこから!? 」
「走れ!! 」

草陰を抜けた先に邸内への入り口が見え、クリアリングしてから入ろうとした瞬間、彼らの背後から叫び声が聞こえる。
先行するキッドを先に邸内へ押し込み、グレイもそれに続いた。

「おい! 後ろだ! 」
「なっ――――」

キッドの注意を促す声と共に振り向くと、黒ずくめの男が彼にハンドガン"USP"を向けている。
本能的に両手にあった"HK416"を向けようとするが、既に銃口を向けている奴の方が確実に速い。

――――しかし。

銃声は鳴ったものの、やけに時間が経つのが遅いと彼は感じた。
おそるおそる目を開けると、そこには額に穴が空いている黒ずくめの男の姿が。

「間一髪、ってとこかい? あぶねぇ真似するなぁ、兄ちゃんよ」

振り向くとキッドの隣にもう一人の髭面の中年男性が立っている。
カウボーイハットを被り、右手には"コルトSAA"が握られていた。
彼は指でSAAを一回転させると腰のホルスターに素早く仕舞い、突っ立っているグレイの手を引く。

「た、助かった……サンキュー、あ、えーと」
「"デイビッド"だ。まあ気にしなさんな、お互い様だぜ」

「ありがとな、デイビッド。俺はグレイだ。この目つきの悪い奴はキッド」
「名乗らなくても分かる。"死の芳香"に"ワイルドバンチ"だろ? アンタらの悪名は俺たちの世界じゃ有名さ」

「そりゃあ嬉しいこったな。なあカウボーイ、現状はどうなってやがる? 」
「負傷した奴が何人かいるが、死人は幸いでちゃいない。これから出るだろうがな」

帽子をくるくる回しながら、デイビッドはニヤリとした笑顔を二人に向けた。

「面白れぇおっさんだな。一度殺り合いてぇぐらいに」
「勘弁してくれよ、俺はそっちの気はないんだ。ヤるならスタイル抜群のクールビューティーが理想だぜ」
「賑やかだな、全くよぉ。ま、楽しい方がいいんだが」

二人はデイビッドと同じような不敵な笑みを浮かべる。

「じゃ、反撃といきますか。ここに来たことを後悔させてやる」
「女は殺すなよ? 美人が死んじゃあ勿体ない」
「下半身が脳に直結でもしてんのかよ」

毒を吐きながら、三人は大広間へと向かった。
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<大広間>


 「グレイ! 」
「ようシノ。調子はどうだ? 」

「調子もクソもない。庭園の方から銃声が聞こえたかと思ったら、大広間にこの黒ずくめの連中が襲撃してきてな。ここにいる全員と協力して撃退した」
「クライアントの方はどうなってやがる? 」

「僕とヘルガさんで安全な場所へ避難させておきました。見張りも付けてね」

彼らの足元に転がっている死体をシノが指差し、全員は一瞥する。
ソフィアの方もようやく慣れてきたようだが、それでも嫌悪感を示した。

「そちらの方は? 」
「しがないカウボーイ、さ。偶然通りかかったんで襲撃されたこいつらを助けてやったわけ。別料金だぜ? 感謝しな、坊主ども」

「あーはいはい。ありがとうございました。後でお礼にスニッカーズでも買ってやるよ」
「それはそれは……ありがとうございます、カウボーイ」

「"デイビッド"だ。とりあえずこんなとこで立ち話してちゃ命がいくらあっても足りない。ちゃちゃっと作戦立てて奴ら全員に風穴空けてやろうや」

確かにデイビッドの言う通りである。
渋々彼らは従い、互いに散開することにした。

「作戦は簡単。見つけたらぶっ殺せ。サーチアンドデストロイだ、吸血鬼顔負けの殺戮劇を見せてやろう」
「オーライ、実にいい作戦だ。行くぜ、シノ。ソフィアはデイビッドの援護へ」

「任せておけ。ヘルガはどこにいる? 」
「私はここ。グレイ、私はハーヴェイたちと行動する」

「おっ、イイねぇ。じゃあ俺も一緒に行こうかなぁ」

グレイ・シノ・キッドは邸内の二階を探索する方針となり、ヘルガ・デイビッド・ソフィア・ハーヴェイは一階にまだ残っている敵を殲滅する事に。
既に大広間には彼らしかおらず、他の賞金稼ぎや同業者はそれぞれの配置について襲撃者たちを迎撃していた為、グレイ達は出遅れた形となる。


「出遅れた分を取り返すぞ、いいな。GO! 」


グレイの掛け声と共に彼らは左右の扉を開け、戦場を駆け抜ける。
依頼されたオーダーをこなす為、彼らの戦いが今始まりを告げた。
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<邸内一階・エントランス>


 長銃を持つヘルガが扉を開け、彼女らは即席のフォーメーションを組み、互いの背を守りながらエントランスを駆け抜ける。
前はヘルガとデイビッド、後ろはソフィアとハーヴェイがそれぞれ自分の愛用の得物を構え、周囲を警戒していた。

「待って」

ヘルガの一言により全員は進行を止め、エントランスからキッチンへ続く入り口の手前で止まる。
彼女は人差し指を口元に当てて音を立てないようにする合図を他の3人に示した。
私がやる、と言わんばかりに"M14"を構え、単身キッチンへ突入し、その後ろをハーヴェイが援護するかたちとなる。

「いっ、いた――――」

叫ぶ間もなくM14の銃口から放たれた銃弾によって脳天を貫かれる襲撃者。
銃声に気付いたのか襲撃者の死体の後ろから続々と増援がやってくるが、ヘルガの後ろにいたハーヴェイが両手の"モーゼルM712"を連射し、先頭にいた増援の一人を穴だらけにした。
その穴だらけの死体を地面に倒れる前に蹴り飛ばし、後方にいた4・5人の増援の体制をまとめて崩す。

「嬢ちゃん! 手伝いなぁっ! 」
「は、はい! 」

二人をカバーするようにデイビッドとソフィアは別方向からやってくる増援に向けて"SAA"と"MP7"の弾薬を吐き出す。
弾倉内の弾を全て撃ち切る時には、既に増援は全滅していた。

「や、やっちゃった……。ついにわたしやっちゃった……あぁ……」
「なんだ嬢ちゃん、殺しに慣れてないのか? もっともらしい反応だがいつまでもそう引きずっちゃあいつか自分の身体に穴が空く羽目になるぜ? 」

「分かってます……分かってますけど……。なるべく殺したくないっていうか……」
「……そうかい。けどまぁ、今は守ってやるから安心しな? 」

彼女の意思を尊重したのかデイビッドは愛用の"SAA"に弾を込めながらニッとした笑顔をソフィアに見せ、彼女の肩を優しく叩く。
ヘルガたちの方も事が済んだようで、埃を払いながら座り込むソフィアの元へ歩いてきた。

「大丈夫? ソフィア」
「へ、ヘルガさん……すいません。いっつもこんな調子で……」

「気にしなくていい。ソフィアは、私たちの大切な人」
「……ふふっ、ありがとうございます」

ヘルガの手を引いて彼女は立ち上がる。

「私も、覚悟を決めます。皆さん、すみませんでした」
「謝らなくていいさ。嬢ちゃんは生き残ることだけ考えてればいい」
「お気になさらず。ソフィアさん、僕は貴女に背中を預けます」

互いに励まし合う彼らを見て、ヘルガは一人微笑む。
準備の整ったところでキッチンとは違う方向にある応接室へ全員は向かった。

耳を澄まし、足音を確認する。
ガラスの破片を踏む音が聞こえ、彼らは得物を握り締めた。

「先行します。後から援護を」
「了解」

リロードを終えたハーヴェイが二挺の"モーゼルM712"を胸の前で構え、息を吐く。

「ふぅっ」

一呼吸する内に応接室へ飛び込み、モーゼルを連射するハーヴェイ。
それを合図にヘルガ、ソフィア、デイビッドが突入した。
敵は6人、気配に気づいていたのか約半数が既に迎撃態勢に入っている。

一番先頭にいるハーヴェイは近くにあったソファへダイブし、迫り来る銃弾を凌いでいた。
襲撃者達も素人ではない、部隊として分かれている分かなり厄介である。

「ちぃっ! 兄ちゃん、気をつけな! 連中の中に出来る奴がいる! 」
「分かっています! 」

それぞれ最適な隠れ場所を見つけた瞬間にそこへ飛び込んでいった。
敵も同じように隠れたようで、両者の間に緊張が生まれる。

その緊張を解くようにデイビッドがスライディングしながら前方へ躍り出て、飛んできたナイフを間一髪で躱しながら"SAA"で一人の襲撃者を射殺した。
残り5人。

「あーらよっ、とぉっ! 」
「ぐえぇっ!? 」

そのまま彼はハンドスプリングで立ち上がり、左手をリボルバーのハンマーに沿えながらもう一発銃弾を放つ。
見事命中したが、デイビッドは一瞬だけ隙を晒す事となった。
敵の中の一人が彼に"M4A1"の銃口を向けた瞬間、ヘルガの"M14"が唸りをあげてその襲撃者を屠る。

「助かったぜぇ、この恩はいつか必ず! 」
「デイビッドさん、後ろ!! 」

言われるがままデイビッドは後ろを振り向くと、指の間にスローディングナイフを仕込んだ男が単身彼へと接近していた。
思わず彼はたじろぎ、身体を硬直させてしまう。

舌打ちをしながらハーヴェイがデイビッドの身体をグイッと後方に引き、なんとか男の一撃を無理やり回避させ、代わりに得意の蹴りを男に向けて放った。

「せあァッ!! 」
「ッ!! 」

靴のつま先からナイフの刃を出したハーヴェイは思いっ切り右足を振りかざす。
しかしその攻撃は外れ、カウンターとして二本のナイフを投げられた。
しゃがむ事でなんとかナイフを回避し、彼の背後の壁にナイフは刺さる。

「しッ」

モーゼルをその男に向けて放つも、撃つ寸前で銃口を逸らされてすべての弾丸が当たらない。
内心焦りながらも、蹴りを交えた反撃で敵を後方に吹っ飛ばした。

「撤退するぞ」

だが受け身を取られていたせいかダメージはあまり与えていないらしく、男は後方に飛びながら牽制としてナイフを数本投げる。
生き残っていた3人の襲撃者たちもその男をカバーするように手に持った火器を連射した。

「伏せてっ! 」
「うおおおおおおっ!? 」

まるで軍の特殊部隊のような連携を見せて撤退する襲撃者達。
その猛攻に彼らは物陰に隠れる事しか出来ず、連中を逃がしてしまった。

「すいません、グレイさん達に連絡するのでしばらく辺りを警戒しておいてください」
「了解」

「……もしもし? グレイさんですか? 」
『よぉ、どうした? 俺が恋しくなったのか? 』

「敵を逃しました。申し訳ない」


耳に装着してある無線機を使って別行動をとっているグレイに連絡を送る。
無論のこと物陰に身を隠したままで、周囲にいるヘルガやソフィアが彼を護衛していた。
無線機からはアサルトライフルの銃声と悲鳴が聞こえ、ハーヴェイは思わず苦笑する。

『あぁ、なるほど。こっちに逃げてるかもしれねぇから殺してほしいわけか。ヒューッ、相変わらず殺し方がえげつねぇなシノ』
「話が早くて助かります。連中の使っていた武器は投げナイフと自動小銃、あとは散弾銃でした」

敵の特徴を述べた瞬間、グレイの様子が豹変した。

『……何? 他に特徴は? 』
「それ以上は分かりません。ただ、かなりの手練れでした」

『――――追ってみる価値はある、か』
「……グレイさん? 」

『あぁ、悪い。独り言だ。とりあえずそれらしき人物を見かけたら追う事にする』
「えぇ、ありがとうございます。それでは、ご無事で」

そう言いハーヴェイは無線機を切る。
通信している間に何もなかったのが幸いだが、彼は妙な胸騒ぎを覚えた。
何かを、追っているような。

「……終わったかい? こんなとこで立ち往生もよくねぇ、移動しようや」
「デイビッドの言うことは的確。動くべき」
「あ、あぁ。すいません、行きましょうか」


ここは二人に従って、まだ敵が残っていないかを確認しに行くことにした。
妙な胸騒ぎを抱きながら。

旗戦士
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旗戦士

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