order7.相棒探し

<夕方・"なんでも屋アールグレイ"事務所>


シノとソフィアがやって来た客の応対に追われていると、息を切らして身体中が汚れているグレイが帰って来るのが視界に入った。
電話先の相手に待ってもらい、よろめくグレイをシノがソファに座らせる。

普段の彼とは偉く違っていたのか、ソフィアが二人に気を取られて電話の相手の応対が遅れていたので、シノが急いで応対させるよう合図をした。


「グレイ。何があった? 」
「……ちょっとシエラと追いかけっこしてな。いやぁ、やっぱ逃げ足だけは速いと人生色々と役に立つもんだねぇ」

「冗談は後にしろ。どうした? 誰かに襲われたのか? 」
「ご名答。シエラとデートしてたら俺の狙う奴がいてな。早めに食事を切り上げてからあいつを帰らせた後にその刺客とやらと戦ってこのザマだ。こりゃあシエラの奴カンカンだろうな」


水と救急箱を持ってきたシノは、彼にペットボトルを手渡す。
彼が抑えている腕を解いてからコートを脱がすと、身体の各部分から擦り傷が出来ており消毒液をガーゼに浸してから傷の場所へ当て始めた。

ソフィアの方も応対を終えたようで、彼の元へと駆けつける。
消毒液を当てた痛みで悶絶する声を上げるも、なんとか患部に絆創膏を貼ることで治療は完了した。


「ってぇ〜! もうちょい優しくしてくれっての! 」
「痛みを感じるのは健康な証拠だ。良かったな 」

「よくねぇよ! 俺は痛いのが大嫌いなんだ! 」
「あらあら~? 痛くて大騒ぎするなんて子供ですね~? 」


大声でわめき散らす彼を見て、ほっと安堵のため息を内心吐く二人。
彼の治療を終えると、電話相手を待たせていたシノは再び受話器を手に取り話し始める。


「それで。グレイさん、あなたを襲ったのはどんな人でした? 特徴は? 」
「黒ずくめだったな。黒髪に、黒いコートに黒いズボンを履いてた」

「……判別がつきませんね……。もっと他にありません? 」
「んなこと言われたって……。いや、待て。あるぞ、銃だ。あいつは黒い6インチの"コルトパイソン"を持ってた」

「"コルトパイソン"? なんですかそれ? 」
「リボルバーだよ。俺の相棒と同じ形をした銃なんだが、それを奴は持っていた。しかもあれはかなり高価でな、普通の奴じゃ高くて手を出せない」

当然ソフィアは話が理解できずに首を傾げているが、"同じ形状の銃を持っていた"という特徴は分かってくれたようだ。

「けど、もし今後依頼の最中に狙われるとしたら危険ですよね……。しかも依頼者の人にも被害が及ぶ可能性も否定できませんし」
「あぁ、俺達が飯を食えなくなっちまうからな。どうにかして対処しねぇとまずいぜ」

「ヘルガに頼むか? 彼女ならもう少し収集してくれるだろうが」
「いや、止めておく。もしヘルガが踏み込み過ぎて人質にでも取られたら厄介だ」

幾ら隠密行動が得意なヘルガと言えど、敵に見つかってしまえば元も子もない。

「了解した。とりあえず今夜依頼がある。内容は"ターゲットの暗殺"だ。今回は新入りであるソフィアも連れていくぞ。いいか、ソフィア? 」
「は、はい! 覚悟は出来てます……」

「了解。武器は……持ってるはずないよな。シノ、おやっさんの所に行ってやれるか? 俺は少し休んでから現地で合流する」
「任せろ。深夜0時にダウンタウン地区の"ミレニアム"という酒場で落ち合おう。分からなくなったら俺の携帯に連絡してくれ」

「あいよ。じゃ、またな」
「あぁ。じゃあな」
「また後でー! 」

ソファで横になりつつ事務所を出て行く二人に別れを告げると、数秒も経たずにグレイは眠り始める。
ソフィアとシノはその光景を見て苦笑いすると事務所の駐車場に停めてあった車に乗り、目的のガンショップへ進路を進めた。
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<ウエッソン鉄砲店・夕方>

近くにあった駐車場に車を停め、シノとソフィアは鉄砲店の入り口へと向かう。
閉まっている店の扉の前に立つと店員が中から鍵を開け、二人は招かれるまま店内へと足を進めていった。

「銃やナイフ、その他の武器を持ってるかい? 」
「……聞くのは野暮だぞ、ハリスさん」

「一応聞いておかなきゃいけない規定でな。勘弁してくれって、な? 」
「冗談だ。刀は車に置いてある。今日は俺とこいつの武器を買いに来た」

「そ、そのお嬢ちゃんがかい? 本当に成人してるのか? 」
「失礼なっ! 私ちゃんと23歳ですよ! 」

筋肉質な体をし、スキンヘッドの男性が笑顔を作りながら二人に話しかけてくる。
年齢的には中年で、背はシノより少し低いくらいだ。

彼の名は"ハリス・ウェッソン"。
ここの店主であり、シエラの父親でもある。

初対面の人間に子供に間違われる事は慣れているのか、ソフィアは素早く財布から免許証を取り出してハリスの目の前に突き付けた。


「おや、本当だ。そりゃあすまないことをしたね。いらっしゃい、ウェッソン鉄砲店へようこそ。今日は何をお探しで? 」
「SMGを1丁、ハンドガンを2丁探している。俺は何でもいいが、彼女には体格にあったものを見繕ってほしい。大丈夫か? 」

「ち、ちょっと! 私だってライフルぐらい撃てますよ! 」
「生き残りたいのなら自分に最適な武器を探すべきだ。俺たちは大切な従業員を失いたくない。だから言っている」

「……そこまで言うのなら。分かりました、私も死にたくありませんし」
「話は決まったようだね。ちょっと待っててな、今手当たり次第に見せていくよ」

そう言うとハリスは奥の方に二人を招き、多くのサブマシンガンやアサルトライフルが立て掛けてあるショーウインドウが視界に入る。

「とりあえずSMGと小さめのアサルトライフルも持ってきた。ハンドガンは下のショーケースにあるから存分に見ていくといい。何なら試し撃ちもいいよ」
「これは……"USP"に"P226"……豊富だな。お前は何にする? 」

「この"MP7"と"P2000"をお願いします。お金は……大丈夫ですよね? シノさん? 」
「グレイからは金の許可は得てある。俺はこの"グロック17"にしよう。ハリスさん、会計を頼む」

「……シノが銃を買うなんて珍しいね。なんかあるのかい? 」
「あまり詮索は止してほしい。プライバシーに関わる」

「そうだったね。すまない」
「いいや、気にしないでくれ」

二人が武器を購入するためカウンターへ向かうと、ソフィアに聞こえないようにハリスがシノの耳元で囁いた。
購入した銃を大きめなボストンバッグに仕舞い、予備マガジンと弾薬も一緒に詰め込んだ。


「あぁ、それと一つシエラに伝言だ。"今度何かお詫びにどこかに連れて行く"とグレイが言っていた。伝えておいてくれるか? 」
「はは、分かったよ。あの子が聞いたら喜ぶだろうね」

「助かる。それでは、また」
「あぁ。またのご来店をお待ちしてます」

そう言うとシノはボストンバッグを肩に提げ、ウェッソン鉄砲店を出る。
笑顔で彼らを送り出したハリスは、二階にいるシエラに先程の伝言を伝えることにした。

「シエラ! シノから伝言だ! "今度お詫びにどこかに連れて行く"ってグレイが言ってたそうだよー! 」
「えっ!? グレイが!? というか今来て……あっ、ちょっ、危な、きゃあっ!? 」

シエラの部屋から騒々しい物音が聞こえ、ハリスは苦笑する。

「あはは、好かれてるねぇ。全くグレイは幸せ者だ」

そう聞こえないように呟くと、ハリスは二階へと上がっていった。
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<ダウンタウン地区・酒場"ミレニアム">


時刻は既に深夜0時過ぎ。
冷風が身体を突き刺し、思わずグレイは震えるが構わずタバコを吹かす。 

一旦事務所で身体を休めてから目的の場所へ一足先に来ていたグレイは、寒さに震え上がっていた。

「うひーっ、アホみてえに寒いな。どうにもシカゴの冬は慣れないねぇ……。つーかどこで油を売ってんだあいつらは? 」
「待たせたな」

「うわぁっ!? ……ってシノとソフィアか。驚かすなよ、俺こわいのは苦手なんだって」
「驚かすも何も声を掛けただけだ。この中にターゲットがいるのか? 」

「あぁ。ばっちり尾行済みだぜ。んじゃ、行くとしますか」
「は、はい! 」

背後から声を掛けられ、振り向くと灰色のジャケットに身を包んだシノと紺色の防弾チョッキを着込んだソフィアの姿が突然視界に入る。
思わず声を上げてしまうが、顔色一つ変えずにシノは話を進めた。

「おいソフィア。あんまり緊張すんなって、な? 」
「わ、わかってますよ! 」

彼女からの返答が聞こえると眉を吊り上げ、グレイは酒場の扉に手を掛けた。
扉を開けると中には多くのゴロツキたちが酒を呑み交わしており、彼らが入った瞬間視線が集中する。

そんな視線を無視してグレイは一人でカウンター席へと歩みを進める。
ソフィアは相変わらず怯えているが、なんとか彼の横に座ることができた。

「ウィスキーをロックで。3つ頼むよ」
「あいよ」

「いやぁ、今日も疲れたなぁ。あ、そういやよ、ここに"ベン・リックマン"って奴来てないか? 」
「……知らねぇな。どんな奴だ? 」

「俺も風の噂でしか聞いてねぇんだが、どうやらどっかの組織の金を持ち出して逃げた奴らしいぜ。そんで、今そいつを殺すと20万ドル貰えるんだとさ」

ゴロツキたちの視線は離れない。
むしろより一層強いものとなっており、今にも銃を抜きそうな勢いだ。
構わずグレイは続ける。

「んでさ。今日俺はそいつに用があってきたワケ。マスター何か知らない? 」
「こいつが答えだ」

グレイの眼前に現れたのはハンドガンの銃口。
思わずソフィアが驚嘆の声を上げた。
おそらくこの場にいる全員が"ベン・リックマン"の仲間なのだろう、酒場の店主が銃口を突き付けた瞬間に周りの人間も懐に手を入れている。

「消えな。テメェのような金に目が眩んだ馬鹿に鉛玉なんて使いたくねぇ」
「お前さん方には言われたくねぇなぁ? 」

眉間にハンドガンを突き付けられても、未だに不敵な笑みを崩さないグレイ。
シノも臨戦態勢に入り、刀を少し抜きつつ周囲を睨んでいる。
ソフィアも腹を決めたのか、腰のホルスターに隠してある"P2000"のグリップを握った。

「禊葉一刀流、"鳳輦"」
「あ? 何言って――――」

そうシノが背後で呟いた瞬間に抜刀音だけが酒場内に響き渡り、ベンの仲間たちは呆気に取られながらも銃を構え続けた。
しかし、手の感触がない。
既に、シノとソフィアを囲んでいた男たちの手は斬り落とされていた。

「ひ、ひぃぃ!? 腕が!? 」
「うッ……!? あッ!! う、腕が!? い、痛いぃぃぃぃぃッ!! 」
「どうするよ? 居場所を教えればアンタの腕はおさらばしないぜ? 」

「て、テメェ! 」
「撃ってみろよ。アンタより早く抜いて額にもう一個目玉作ってやるぜ? 」

阿鼻叫喚の光景と化しても、未だにグレイは不敵な笑みを崩さない。
形勢逆転した酒場のマスターは、額に汗を滲ませながら握ったハンドガン"Hk45"を震わせる。

まさか自分が酒場のマスターを装った"ベン・リックマン"本人だとは、言えるはずもないだろう。

「こ、こっちへ来い! 」
「え、ちょっ、きゃあっ!? 」

目に映ったのはシノの隣にいるソフィアの姿だ。
藁にも縋る思いで彼女の背後に回り、ソフィアの首を腕で絞めてこめかみに"Hk45"を突き付ける。

「こ、このガキがどうなってもいいのか!? あぁ!? 」
「うわ、古典的な方法で来たなオイ」

「ぐ、ぐぐぐぐグレイさん! わ、わわわ私の事はいいから早く!! 」
「オーライオーライ、どうすればいい? 」

「まずは武器を床に置け! 後ろに居るテメェもだ! 」
「はいはい。うるせぇ奴だなあ。シノ、言う通りにしよう」

渋々グレイは愛銃の"M586"を、シノは"グロック17"と刀を床に置いた。
その光景を見た瞬間にベンはニヤリと笑い、じりじりと後ろに下がっていく。
この状態のまま彼が逃げようとしたその時。

「忘れもんだぜ」
「あ? 何言って――――」

両手を上げた状態から右手だけ振り降ろし、ヒュッという軽い音と共に何かが刺さる音がする。
それが自分の額に刺さったナイフだと気付く頃には、目を剥いて倒れていた。

右腕の袖に隠し持っていたナイフ"178SBK"が刺さったベンは悲鳴を上げる間もなく死亡し、グレイは彼の額からナイフを引き抜く。

「いやー、ベンチメイドの"178SBK"はいいね。こうして隠し持てるし」
「ひ、ひひひひひ額にナイフが……。ち、血がぁ……」

「おーい、シノー。依頼完遂報告頼むわー」
「分かった。この場にいる全員はどうする? 」

「救急車だけ呼んでおこう。後は逃げるぞ」
「そうだな。さっさとずらかろうや。おい、ソフィア! 立てるか? 」

未だにガチガチと震えながらその場にうずくまるソフィアを見て、グレイはため息を吐いた。

「……ソフィア! しっかりしろ、行くぞ! 」
「え、えっ!? は、はい……! 」

「……大事になる前に急ごう。車を用意してある」
「話は後で聞いてやるから、な? 」

「わ、わかりました……」


大きく息を吐きながらソフィアは立ち上がる。
彼女も状況の把握が出来たのだろう、急いで裏口へと向かった。

所詮この世は弱肉強食。
誰かが言った言葉を脳裏を浮かべながら、グレイ達は酒場を出た。

旗戦士
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旗戦士

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