2ー2
広間まで階段を一気に駆け上がってきて、アインは高い柱に勢いよくもたれかかった。
「つ、疲れた…」
まだ対面してろくな会話もしていないのに…と、アインは額を小突く。
魔王の支配下の土地。領地を広げるのに力を尽くしている魔王であるが、彼が悪の塊だとは言い切れない。
アインはかつて支配のために壊滅された土地に一人残され、魔王がそれを保護した。幼かったアインは導かれるままに、魔王の元に下った。
魔王城は、彼女にとって心地のいい場所ではなかったが、日々を過ごすことが困難というわけでもなかった。
階段の近くの渡場の窓から、外を見るのが好きだった。
城内は騒がしく、息苦しいのも、この時は忘れられる。
ある時 窓からの風に吹かれて、アインの銀の髪が大きくゆれた。
「綺麗な髪……」
後ろから声がした。
振り向くと、アインよりも少し年上に見える少年が、はっとした様子で目をそらした。
彼は年のわりに難しい分厚い本を顔の前に抱えて、じっとアインを見た。そして笑んだ。
「ふっ…人を褒めたのは初めてだぞ」
どこか得意げに。
「いや、なんとも気分がいいものだな」
「初めて……?」
「そうだ。お前が俺の褒められ第一号だな」
びしっと指を差され、アインは首を傾げる。
「よーく覚えておけよ!」
パタパタと駆けて行ってしまったその後ろ姿を、とても偉い人なのだと知ったのは、もっとアインが大きくなってからだった。