3ー2
「ストラ様」
屋敷に戻ってくると、再び箒を手にしてアインが口を開いた。
「ストラ様は、よく領民をお褒めになっていましたね」
「む?」
ストラが振り向く。アインはじっとストラを見つめてから微かに首を横に振った。
「いえ、仲がよろしいことで。魔族ではない者にも優しくなさるのですね」
何かが引っかかったのだが、彼女が何を言いたいのかがわからない。もう一度目が合って、ストラは大きく咳払いをした。
「俺の領地にいる限り、平和は保証されるよう努めているのだ」
平和。
ストラの元に来てから、何度もその単語を耳にした。アインは目を伏せて「そうですか」とほんのり笑い、箒の手を動かし始める。
ストラは、また静かに書庫のある地下へと降りて行った。
カツカツと、大理石の階段に小刻みに歩が響く。窓の隙間から差し込む月明かりがどこか切ない。
「わからんな…」
意図して仲良くなるのは自分にとっては難しいことなのかと、ストラは頭を掻いた。