1ー1
のどかな町。
その言葉に相応しい景色が目の前に広がっている。
人々はにこやかに言葉を交わし合い、暖かな風が木の葉をゆらしている。
魔王の命令でこの地に派遣されたアイン・ソフは、そのあまりに穏やかな風景に驚きと困惑の入り交じった、複雑な念を抱いた。
「ここは魔王様のご子息、ストラ・サタン様のお治めになっている土地であるはず…」
噂には聞いていたが、なんて平和な土地だろう。
魔王城の暗く、湿った環境との差もあるのか、アインはあまりの違いに面食らってしまった。
「領主のストラ様のお人柄がうかがえる…」
通りすがりの老婆から挨拶をかわされ軽く会釈をすると、アインは目の先にある この土地とは少し不似合いの邸宅を見上げる。
ーーサタン邸。
「ひとまず、張り切って向かうとしよう」
赤いマントに、長い銀の髪は高く右にくくられ、その双方が吹き抜く風になびいた。
アインは短く息を吐くと、改まった表情でストラの元へ歩き始めた。