3

草木も眠る丑三つ時、とまでは遅くはない。まだ終電にも余裕のある、繁華街の路地裏だ。  電柱の陰に身をひそめてぼくたちは行き交う通行人を物色していた。
ひとつ目小僧は店のネオンや看板が光り輝いていることに驚いて、落ち着きなく辺りを見回している。
「こ、こんなに明るいとこで人なんかおどかせるだか?」
「仕方ないだろ、夜でも人のいるとこなんてこんなとこなんだから。ほら、あのおじさんとかどうだろう」
すっかり夜も更けた繁華街ではしらふで歩いている人の方が少ない。危なっかしい足どりで歩いてくる中年男性を指さすと、ひとつ目はひゃあ、と叫んでぼくの後ろに隠れてしまった。
「だだだだ、ダメだよ、あああああんなおっかなそうな人、おいらがとって食われちまう」
「は、なに言ってんだ、そんなわけ……」
ぼくが指したのは、いかにも仕事熱心などこにでもいそうなサラリーマン風のおじさんなのに、なにがおっかなそうなんだ。
背中で震えられることに軽くいらだちながらもぼくは通りに目を凝らす。
見れば、ぼくの指したおじさんの後ろに、鋲がたくさんついた革ジャンを羽織って髪が緑と赤とに染め分けられているすごくパンクな格好をしたお兄さんがいた。確かにお兄さんの方が上背があって、ちょうどおじさんの肩の上にお兄さんの頭が見えていたものだからぼくがそっちを指したのだと勘違いしたらしい。
いくらなんでもあの人に行けとは言わないよ。ぼくだっていやだ。
「違う違う、ぼくが言ったのは……」
訂正して教え直そうとしているうちに、標的にされかけたおじさんはぼくらの目の前を歩きすぎていった。小さく鼻歌なんか歌っててかなり上機嫌だった。
「ほら、この人」
「うう、大丈夫だかなー」
「いいから、実行あるのみ!」
それでもまだぐずぐず言うひとつ目の背中をぽんと押した。
「ひゃあ……っととと」
よろよろと押された勢いだけで歩いていき、おじさんの背中にぶつかった。しまらないことこの上ないけど、とりあえず気づかれることには成功したようだ。
「おお、なんだなんだ?」
「あっあの……おいら」
後ろからぶつかられて訝しげな顔で振り返る。かなり酔っているのか、動作はどうにも緩慢でひとつ目を見下ろす目は焦点があってない。
「あん? キミはどこかの店のゆるキャラってやつかな」
見た目がのんびりしているというか、コミカルなのがいけないのか、酔っぱらいの目にはそうとしか映らないのか、おじさんの反応は予想したものとはかなり違っていた。
「それにしても小さいね、中に入っているのは子どもじゃないだろうね、だめだよ子どもはもうおうちに帰らなきゃ」
「う、う、うらめしや」
「おい……」
それじゃ幽霊だろう。ひとつ目小僧の決め台詞としてはどうにもそぐわない。かといって他になんと言うのか。それは後々考えるとして、そもそもは見かけで驚いてもらわないことには始まらないのだ。
しかもひとつ目小僧の声は小さく、街の喧騒にかき消されてしまっておじさんの耳には届かなかったようだ。ぽんぽんと、頭を撫でられ続けている。
これはだめだな、とぼくは二人の前に出た。
「お騒がせしましたー」
ひとつ目小僧の手をとって立ち去ろうとすると、おじさんの表情がいきなりゆがんだ。
「ひぃっ。そ、その顔っ!」
「え?」
忘れていた。ぼくも今はひとつ目だっけ。外見はひとつ目小僧と違って普通の人間だから、知らずに見てしまったらよけいショッキングかもしれない。
「ひぃぃ」
案の定おじさんはその場にへたりこんでしまった。
「今のうちに行くぞ」
「あ、あわわ」
ひとつ目小僧の手を引いて走り出す。
幸いおじさんは座りこんで震えているだけで叫んだりしなかったから、ぼくらはすぐに角を曲がって姿をくらませることら成功した。
「い、今のはゴン太が脅かしたことになるだか?」
「さぁ……それでいいのかなぁ」
ビルとビルのすきまに潜りこんで息を整える。今のは成功とカウントしていいのか判断がつきかねた。
見越し入道に言われた通り、ぼくらは人間を驚かす修行を始めた。
人から恐れられる存在になるには、とにかく人を驚かせないといけないんだろうと考えたぼくは、渋るひとつ目を連れて、いつもの田んぼのあぜ道で通りかかる人を待つことにした。
夕暮れは自転車も通るし車の行き来はそれなりに多い。けれど自転車で通りかかるのはたいてい連れ立ったの学生なので、小さく声をかけたくらいでは気づかれない。挙げ句、近づきすぎたひとつ目小僧が自転車に引っかけられて田んぼにおっこちる始末だった。
それ以来自転車の学生はいやだというので、暗くなってから待機したのだけれど、そこには致命的な問題があった。田んぼが広がっているということは人家はまばらになる訳で、夜になるとぽつぽつ点在する街灯の間は真っ暗なため、徒歩や自転車で通りかかる人はほぼいない。車は通るけれど、フロントガラスに飛び乗ったりしたら大事故になりそうで、さすがにできなかった。
そこでぼくが思いついたのが、繁華街だ。
ここなら田舎の夜でもそこそこ人は歩いている。修行の場にはうってつけだと思った。
そして実行してみたのだ。が。
「お前、ちっとも驚かれないのな」
地面に座り、大きく息を吐いてぼやく。ひとつ目小僧も口をとがらせていた。
「おいらも、がんばってるだよ」
「それは判るけどさ」
そう、ひとつ目小僧はいくら人間の前に出てもまったく驚いてもらえないのだ。むしろ、ぼくの方が怖がられる確率は高かった。
「やっぱ見た目かなあ」
「可愛いのがいけないだかな?」
どこで覚えたのかそんなことを言うので、軽く腹が立って額を小突いた。
こいつが可愛いかどうかはさておき、現代はゆるキャラというものがあふれていて、ぱっと見ておかしなものがいる、と思ってもすぐに着ぐるみじゃないか、と考えてしまうのだろう。このままでは立派な妖怪ではなく、ゆるキャラとしてのひとつ目が定着してしまう。同じ場所でばかり出没するとそれこそ噂になりそうでもあるし。
「酔っぱらい相手なら多少は驚いてくれるかと思ったんだけど、これ以上はやってもむだかな。ターゲットを変えてみようか」
「蛙? ゲロゲロ」
「違う」
呑気なひとつ目小僧の顔を眺めながら、ぼくは次の手を考えていた。

公園で最後に残った女の子は、薄暗くなってきたというのにまだブランコに乗っていた。小学校低学年くらいだろうか。時々公園の時計を見ているが帰宅するそぶりはない。
いくら夏で陽が長いからって、こんな時間まで遊んでちゃダメだろう、親は何してるんだ。
「あの子をおどかしてくるだか?」
ぼくが見ず知らずの女の子の親に憤っていると、ひとつ目小僧がのんきに見上げてきた。
そう。大人がダメなら子どもをターゲットにしようとしたのだ。えげつないのは承知してるけど、こっちも必死だ。
それも、今時の中高生はいけない。生意気だし、群れていると逆に返り討ちにあってどんな目に遭うか知れたものじゃない。狙うならもっと小さい、小学生だ。
そこに思い至った時には膝をついてへたりこむくらい落ち込んでしまった。
子どもをおどかして一人前になろうだなんて、ぼくはもう人として終わりだ。
自己嫌悪に塗れていると、ひとつ目小僧が不思議そうに言った。
「ゴン太はもう死んでるし、人じゃないんだからいいじゃねぇか? なにを気にするだ?」
「……それもそうなんだけど」
 はっきり言いきられると、なんだか切ない。それに、ひとつ目小僧はぼくのことをすっかりゴン太と呼ぶことにしたようだ。
確かにもう生前の名前は思い出せないけど、それ、犬の名前みたいじゃないか。
だがひとつ目小僧にぼくの抗議はまったく聞き入れる気がない。ぼくがターゲットにした少女をまじまじと見つめている。ぼくは思わずつぶやいていた。
「こんな時間までひとりで遊んでいるなんて、変質者に狙われでもしたらどうするんだ」
「だども、おらたちあの子おどかそうとしてるべな」
呑気に言うひとつ目小僧の足を軽く踏んづける。確かにそうなんだけど、それを言ったらおしまいじゃないか。
「考えようによっては、変質者と出くわすよりぼくたちにおどかされる方がまだましか。どっちもトラウマだろうけど」
「あの子がトラとウマだか?」
「……なんでもない」
まともに相手すると疲れるだけなので話を打ち切った。
とにかく、実行あるのみだ。ひとつ目を引っ張って、ブランコに近づいていく。西の空には夕焼けの残光があるけれど、桜の樹に囲まれた公園はすでにかなりうす暗い。
「ほら、行くぞ」
ひとつ目小僧を押し出すようにする。女の子は気づかないのかうつむいたままだ。
おかっぱ頭に赤いスカート。今時の小学生にしてはわりと素朴な格好だ。
「う、うらめしやー」
ひとつ目小僧は裏がえった声を上げた。相変わらず脅し文句がおかしい。だが女の子はそれを聞いても驚きも顔を上げようともしなかった。
「おにいさんたち、人間じゃないのね」
つま先で地面を蹴ってゆるゆるとブランコを揺らしながら女の子が言った。うつむいていて表情は判らない。
「そ、そうだだよ。お前さんに恨みはねぇがちょいと驚いてもらうだ」
言葉のわりに迫力がないことこの上ないけれど仕方ない。見た目からして怖そうな雰囲気がみじんもないのだ。
とん、と女の子がブランコから飛び降りた。そのままひとつ目小僧の前に近寄る。
「どんな風に?」
「そ、それは」
「じゃあ、こういうのはどう?」
ひとつ目小僧を見上げるように女の子が顔を上げた。真っ白な顔には、何もなかった。
「ひゃああああ」
情けない声を上げてしりもちをついたのはひとつ目小僧の方だった。
「……のっぺらぼう?」
ぼくがあぜんとつぶやくと、顔のパーツのない女の子はけけけっと笑い声を上げた。
「自分たちも妖怪のくせに、なんで驚くの? 変なの」
「だって、だって顔がないだ……ゴン太ぁ、おら怖い」
「お前がべそかいてどうするんだ。きみも、妖怪なのか」
「見ての通りよ。あんたたちがあんまりにもだらしないから、ダイダラボッチさまがあたしをよこしたの」
「ダ、ダイダラボッチさまだってぇ!」
ひとつ目小僧がすっとんきょうな声を上げて後ずさりした。なおもひぃひぃ言っている。騒がしいやつだ。
「ダイダラボッチさまって、見越し入道より偉いのか?」
「そりゃあそうよ。あたしたち里の妖怪の元締めみたいな存在なの。見越し入道さんはもう少し様子をみようって言ってたけど、こないだから見てればあんまりにも情けないからあたしが遣わされたのよ」
「あ、そう」
ぼくらの情けない修行の様子は、すべて見られていた訳だ。今までのことを思い返すと、恥ずかしくなってくる。
「まったく、あんたは生まれつきの妖怪のくせになんでそんなにヘタレなのかしら。しっかりしなさい」
のっぺらぼう少女に蹴られてきゃん、と犬のなくような声を上げるのが気の毒になってきて、手を差し伸べて立たせてやる。しっかりしろよ、と思ったけれど、彼女の言ったことにはかなり同意できたから慰めの言葉はかけなかった。
「それで、きみはぼくたちをどうする気?」
腰に手を当ててふんぞり返っているのっぺらぼう少女に聞くと、鼻でせせら笑われた気がした。目も口もないのに、こういう気配はちゃんと伝わるんだ、と妙な感心をしてしまう。
「あたしが立派な妖怪になれるように教育してあげるのよ! 人間をおどかすには気合いが第一、そして実践あるのみ! 行くわよ、夜は妖怪の時間なんだから」
「はあ」
見た目よりは熱血キャラのようだ。
これからどうなるのか不安でしかないけど、これも自分の運命だと思って受け入れるしかない。ついて来い、と言わんばかりに手招きして歩き出したのっぺらぼう少女のあとをついて行きながら、ひとつ目小僧を振り返る。
「ほら、頑張ろうぜ、ひとつ目」
 巨大な一つの目を潤ませたひとつ目小僧がぼくの顔を見てうう、と唸った。
「ゴン太ぁ、見捨てねぇでけろ」
「だから、ゴン太はやめろ」
「さっさと来なさいよ、おちこぼれコンビ!」
暗がりからのっぺらぼう少女の鋭い呼び声がする。この先は厳しいことになりそうだなぁと苦笑しつつ、ぼくらはすっかり暗くなった公園を歩きだした。


 うす暗くなった公園には遊ぶ子どもの姿はない。ライト下のベンチに座るミオ以外には。うつむいて手で顔を覆っている様子は泣いているかのようだ。
 実際、耳を澄ませてみると、かすかにすすり泣きが聞こえる。
「はぁ、うまいもんだべなぁ。ホントに泣いてるみてぇだよ」
「しっ聞こえちゃうだろ」
 植えこみの陰に隠れて見ていたのだが、ひとつ目小僧が気の抜けた声を上げたから口を押さえた。
 ミオは人をおどかす手本を見せるといってぼくらを伴って別の公園にやってきた。さっきのところよりも街中にあって、距離も離れているのだけれど、妖怪であるぼくらにはあっという間に移動できる。おまけに疲れない。実体がないから当然だろうけど、これは妖怪になってよかったことのひとつかな。
 そんなことを考えていると、サラリーマンらしい男の人がやってきた。ミオに気づいてベンチに近づいていく。
「きみ、こんなところで一人でどうしたの? もう暗くなったし、家に帰らないとおうちの人が心配するよ」
 優しく声をかけられてもミオは顔を覆ったまま頭を振るだけだ。男の人は困った様子でさらに話しかける。
「迷子なのかな? 家が判らないなら交番に行こうか。おまわりさんなら探してくれるよ」
「帰るところは、ないの」
「え、なんだい?」
 すすり泣きに混じってとぎれとぎれに話す声がする。本当に悲しそうだ。
「おうちは、ないの」
「え?」
「だって、わたし、こんな顔だもの」
 突然ベンチの上で立ち上がり男の人に向かって顔を突きだす。真っ白の、目鼻も何もない顔がいきなり目の前に現れたのだから男の人はのけぞって驚いた。
「わ! わわわ」
「こんな顔じゃ、どこにも行けない……」
「ば……化け、物」
「ついていってもいい?」
「ひぃぃっ」
 それでも腰を抜かすことはなく、男の人は悲鳴をあげて去っていった。本人はきっと全速力のつもりなんだろうけど、その足どりはがくがくしていて走っているというには頼りないかっこうだった。
「どう?」
 ベンチの上で仁王立ちしたミオが誇らしげにぼくたちのいる方を見た。植えこみから這いだして彼女の方に近づいていく。
「うん、すごいよ。お見事」
「一発でおどかさなきゃダメなのよ。インパクトっていうの? それが大事。あたしのこの見た目だって、今時は着ぐるみだのゆるきゃらだの言われるんだから」
「はぁ、なるほど」
 ひとつ目小僧と違ってこの子は現代のことがよく判っているようだ。
「あっちと違ってあんたはけっこう見た目でおどかせるはずよ。相手を引きつけて一気にいけばいいんじゃない」
「そうか。いや、すごく参考になるよ」
「ところで、もうひとりは?」
「え?」
 てっきりついてきていると思っていたから、後ろに誰もいないことに驚いた。
 ぼくらが隠れていた植えこみの向こう側に複数の人影があり、声もする。いやな予感がして近づいてみると、男子高校生らしき集団が囃したてる声がはっきり聞こえてきた。
 まさか、とミオと顔を見合わせて植えこみ越しにのぞきこむと、地面に仰向けに転がったひとつ目小僧が彼らに小突きまわされていた。
「おい……なにやってんだ」
「まったく」
 ミオも呆れている。
「マヌケな顔だなー」
「どっかの店のゆるきゃらじゃね?」
「じゃー中に人がいるのか。聞こえますかぁ?」
「いててて、顔引っ張るなよー」
「なんか痛がってるぞ」
「後ろにファスナーついてんだろ」
「開けてみよーぜ」
「あわわわ、くすぐったいだよー、やめてー」
 げらげらと笑いながらいいようにもてあそばれている。これでは見越し入道が呆れるのも無理はないか。
「ちょうどいいわ、行ってみなさいよ」
 耳元でそんなことを言われて面食らう。
「え、ぼく?」
「そう、おどかして追っ払えばいいのよ、やってみて」
 有無を言わさぬ調子でうながされて仕方なく植えこみをすり抜ける。ぼくにはまったく気づいてない高校生たちのすぐ横に立つ。
 ぼくの顔でおどろいてくれるのか自信はないんだけどな。でも、やるしかないか。
 ひとつ大きく息を吸いこんで腹に力を入れた。
「おい」
「ん、なんだお前」
「そいつを放してやれ」
「はいぃ? なんですかー」
 なんだか、すごくなめられてる気がする。あきらかにぼくの方が年上なのにこれは問題ではないか。ちょっと腹が立ってきた。
「さもないと……」
「なんだ? やるのか?」
要するにこいつらを怖がらせればいいんだよな。怖い顔ってどうしていいか判らないから、まず目に気合いを入れて、と。
 一番近くにいた少年の肩をつかみ、顔を寄せる。思いきり低い声を作って前髪をかきあげた。
「お前らにとりついてやる」
 ぼくの顔を見たとたん、ニヤついてた彼らの顔が一斉にひきつった。
「うわ、バケモノ!」
 ひとりが叫ぶとそれをきっかけにみんなわれ先にと逃げだす。こういう時に友だち甲斐って出るもんだな。仲間たちはさっさと逃げていくのに、ぼくにつかまった少年は取り残されてパニックに陥っていた。
「みんな、待って……は、離せっ」
 気の毒に置いて行かれたショックもあってか、少年は半泣きだった。もうひと押しだ。
「夢の中までついていこうか?」
「ひっ、ひゃあっ」
 悲鳴を上げると腕をめちゃくちゃに振り回してぼくを振り払い、彼は走り去っていった。さっきのサラリーマンよりは逃げ足が速い。
「あれは若さだな」
 少年たちが完全に公園から出ていったのを見届けてから、まだ地面に転がっているひとつ目小僧を見おろした。
「おい、大丈夫?」
「ああーゴン太、助かっただ」
 大きなひとつ目に涙を浮かべている。どうしようもなく情けないけれど、どうしても憎めない。
「いい加減に起きろよ」
「腰、抜けた。ゴン太がおっかなくて」
「…………」
 妖怪としてのプライドはないのか、こいつ。
 呆れつつ手を差しのべてやると、よっこいしょ、とようやく起き上がった。
「まったく呆れてものも言えないわよ。妖怪が人間にいいように遊ばれて、その上同じ妖怪に怖がっててどうするのよ!」
 背後から、ぼくが言いたかったことそのままの言葉が厳しい口調で飛んできた。着物を手て払いながらミオをちらちらと見ている。目を合わせるのが怖いらしい。
「気づいたら転がっちまって。そしたらちょうど通りかかったあいつらに見つかっただよ」
「そこでおどかさなきゃダメじゃない」
 ごもっともである。
 ひとつ目小僧は袖をいじりながらぶつぶつと何か文句を言っている。そんな様子は無視して彼女は大きくため息をついた。
「まぁいいわ。今夜のことを踏まえて反省会よ」
 そういうと少女の身体はふわりと浮いた。

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