第二章:血の契約――2

          ☆  ☆  ☆

〝近代儀式〟は、本来の儀式を近代技術により高速化する。

 古来より、魔術を使用するためには、天使や悪魔こと〝霊体〟の召喚が必須とされていた。
 これは、霊体を召喚し契約を行うことで、〝理(ことわり)〟を書き換えるためだ。

 だが、霊体の召喚。――今で言うところの〝儀式〟には、膨大な時間を要する。何故ならば、節制や断食などの準備期間が、最低でも一〇日掛かるからだ。

 しかし、現代になって、霊体の召喚が情報処理にすぎないことが判明し、状況は一転する。
 情報処理を行うだけならば、別の方法でもっと迅速に儀式を完遂できる、との提案がされたからだ。
 情報を処理するならば、超高速の演算機器があればこと足りる、と。

 折しも、時代は二十一世紀の半ば。代替の演算機器は、既に現実のものとなっていた。〝量子〟をビットとし、超高速計算を行う〝量子コンピュータ〟が。

 こうして、〝量子ビット〟を用いる〝量子コンピュータ〟を霊体召喚の代役とした、近代儀式が確立したのだ。

「なるほど。魔導司書が、DNAコンピュータの機能を持っているのは、そんな理由もあったんだな」

 時代のバックグラウンドを知り、かつ、日々の努力により、雑学を蓄えていた政には、ドグマたち魔導司書の存在意義も手に取るように分かった。

「DNAコンピュータは、処理速度に優れている。それが、近代儀式での量子コンピュータの役割を担っているってことか」

 魔導司書は、魔導書の保管を目的としているらしい。そのために、DNAをビットとして扱う、DNAコンピュータとしての機能を持っている訳だ。
 そしてDNAコンピュータは、現代社会においてさえ、高速演算器として通用するほどの、処理機能も持っている。

 よって、量子コンピュータ同様、霊体の召喚を省くことで、儀式の高速化が実現できるのだろう。
 魔導司書とは、上手く名付けたものだ。政は正直に思う。魔導書の取扱いに、これ程長けたものはいないと。

「ワタシが狙われる理由も、お分かりですか?」
「ああ。キミが、魔導書を一冊完全に保管してあるならば、狙われない方がおかしいと思うよ」
 何しろ、
「魔術社会は魔導書の発見から始まったんだからね」

 魔術社会の代名詞。法陣都市の存在を考えれば、否が応でも認めなくてはならないだろう。
 そもそも、法陣都市は一冊の魔導書〝七霊の書〟が生み出したと言っても、過言ではないのだから。

 たった一冊の書物が、何もないところに最先端都市を一つ創り出す。魔導書とはそんな存在なのだ。
 ならば、一冊の魔導書を丸々保存された存在がいたならば、どうなるだろう? その答えは、目の前の少女と彼女の現状が教えてくれた。

 軍の一隊に追われる、ドグマ・ルイ・コンスタンスと言う名の、魔導司書が。

「ところで、キミはどうして法陣都市まで来たんだ? 見たところ、元から住民だったようには見えないけれど……」

 尋ねると、ドグマは困った表情を浮かべる。
 苦笑と自嘲が混じったような、眉の寝た笑みだ。

「そうですね。偏に、正体がバレてしまったからとしか言えません」

blackletter
グループ名

blackletter

作者

虹元喜多朗

作品目次
作者の作品一覧 クリエイターページ ツイート 違反報告
{"id":"nov14874583703942","category":["cat0001","cat0002","cat0004","cat0006","cat0009","cat0011","cat0012","cat0016"],"title":"\u6cd5\u9663\u90fd\u5e02\u3068\u7406\u306e\u53f8\u66f8","copy":"\u301d\u91cf\u5b50\u30b3\u30f3\u30d4\u30e5\u30fc\u30bf\u301f\u3068\u96fb\u6c17\u56de\u7dda\u304c\u8a18\u3059\u3001\u301d\u9b54\u6cd5\u9663\u301f\u306e\u5185\u5074\u306b\u5b58\u5728\u3059\u308b\u301d\u6cd5\u9663\u90fd\u5e02\u301f\u3002\n\u3000\u5c0f\u7b20\u539f\u8af8\u5cf6\u306b\u6240\u5728\u3092\u7f6e\u304f\u4eba\u5de5\u5cf6\u301d\u9ece\u660e\u5cf6\u301f\u3002\u305d\u306e\u4e0a\u306b\u9020\u3089\u308c\u305f\u8857\u3067\u66ae\u3089\u3059\u301d\u6708\u8a60\u653f\u301f\u306f\u3001\u301d\u8fd1\u4ee3\u5100\u5f0f\u301f\u306e\u7ba1\u7406\u8005\u3092\u76ee\u6307\u3057\u3066\u3044\u305f\u3002\n\u3000\u3042\u308b\u65e5\u3001\u5f7c\u306f\u4e00\u4eba\u306e\u5c11\u5973\u3068\u51fa\u4f1a\u3046\u3002\n\u3000\u5f7c\u5973\u306e\u540d\u524d\u306f\u301d\u30c9\u30b0\u30de\u301f\u3002\u301d\u9b54\u5c0e\u53f8\u66f8\u301f\u3068\u8a00\u3046\u301d\u9b54\u5c0e\u66f8\u301f\u306e\u4fdd\u6709\u8005\u3060\u3002","color":"#4fcbb8"}