第二章:血の契約――7

          ☆  ☆  ☆

〝黎明学園儀式科〟の補習は、予定通り今日も行われる。
 だから本来、政は二〇分ばかし自転車を漕いで、教室まで向かわねばならず、〝生活区画三番地〟にいる現状は、サボりと呼べた。

 だが、仕方ないことだろう。追われる立場のドグマを一人にするのは、余りにもリスキーなのだ。
 かといって、何も手を打たないのは愚策である。彼女の身辺を何らかの方法で偽らねばならない。
 行動から、政の考えを代弁すると、まずは身だしなみから、だろう。

 政とドグマは、本土にある〝原宿〟に似た町並みを、二人して歩んでいた。

「政! これは、デートですか? デートですね? デートなんです!」
「一人で問うて、一人で答えて、一人で納得しないでくれないか?」
「何を言いますか! 年頃の男女が二人で街を散策。そして、お買物ですよ? これをデートと言わずして何と言いますか!」
「はいはい。分かりましたよ。降参ですよ。これはデートですよ」
「勝った! えへへへへ……」

 思い返せば、本日のドグマはやたら子供っぽい。
 果たして、孤独から解放されたためか、契約者に出会えたからか、それとも初めてのデート(?)に浮かれているのか、あるいはその全てか。

 そんなドグマを、苦笑気味に政が眺めていた。

「政? あの変わった樹木は何ですか? 黎明島の固有種ですか?」

 本日、政はパーカーにチノパンと言うコーディネートだ。そんな彼の私服の裾を、クイクイと引っ張り、ドグマが尋ねる。
 指の先にあるのは、大きな金色の球体をぶら下げた、確かに変わった街路樹だった。

「〝自然魔術〟で生み出された、〝人工扶桑(じんこうふそう)〟って言う樹木だよ」
「人工扶桑?」
「伝説上の樹木〝扶桑〟をモチーフにした、〝太陽光発電〟を行う樹木さ。街路樹として、都市中に植えられてるよ。法陣都市の電力需要は半端じゃないからな」

 法陣都市の近代儀式は、魔力の代わりに電力を使用する。
〝魔導回線〟により、絶え間なく流れ続ける電力。その全ては、人工扶桑によるものであった。

 何しろ、法陣都市は魔術の街であり、必然、電力が消費され続ける。
 都市の基盤である〝黎明島〟自体が、〝錬金工業〟によって支えられているのだから、半端な発電源では心許ない。

 そこで、無尽蔵なエネルギーとして太陽光に着目され、発電所代わりに生み出されたのが人工扶桑だった。
 街路樹として植樹された人工の樹木には、〝蓄電器官〟も存在し、黎明島全土の電力を賄っている。

「へえ……、流石は魔術の街ですね」
「ああ。魔術が生み出し、魔術が支え、魔術を使用するための街だからね。……と、着いたぞ」

 二人の眼前にあったのは、

「〝TeenagerS(ティーンエイジャーズ)〟? ファッションブランド店ですか?」
「ずっと、その服装が気になってたんだ。黒のローブじゃ地味すぎて、逆に目立つんじゃないかって」

 確かに、ドグマの服装は、質素にも程がある。
 着用者のドグマ自身が華々しすぎて、プラスマイナスで調和が取れていると言えなくもないが……。

 だが、特徴的すぎる格好であるがゆえ、七柱軍にマークされているかもしれない。
 ともすれば、着替えることで、潜伏が楽になる可能性はある。

「資金のことは気にしなくて良いから、好きな服を選んだら良いよ。美人なんだから、それに見合った格好をしないとな」

 言いながら、政がドグマの方へ目を遣ると、彼女は顔を赤くさせて目線を逸らし、モジモジとしながら、

「政のそういう所は、時々ズルいと思います」

 必死に照れ隠しをしていた。

blackletter
グループ名

blackletter

作者

虹元喜多朗

作品目次
作者の作品一覧 クリエイターページ ツイート 違反報告
{"id":"nov14874583703942","category":["cat0001","cat0002","cat0004","cat0006","cat0009","cat0011","cat0012","cat0016"],"title":"\u6cd5\u9663\u90fd\u5e02\u3068\u7406\u306e\u53f8\u66f8","copy":"\u301d\u91cf\u5b50\u30b3\u30f3\u30d4\u30e5\u30fc\u30bf\u301f\u3068\u96fb\u6c17\u56de\u7dda\u304c\u8a18\u3059\u3001\u301d\u9b54\u6cd5\u9663\u301f\u306e\u5185\u5074\u306b\u5b58\u5728\u3059\u308b\u301d\u6cd5\u9663\u90fd\u5e02\u301f\u3002\n\u3000\u5c0f\u7b20\u539f\u8af8\u5cf6\u306b\u6240\u5728\u3092\u7f6e\u304f\u4eba\u5de5\u5cf6\u301d\u9ece\u660e\u5cf6\u301f\u3002\u305d\u306e\u4e0a\u306b\u9020\u3089\u308c\u305f\u8857\u3067\u66ae\u3089\u3059\u301d\u6708\u8a60\u653f\u301f\u306f\u3001\u301d\u8fd1\u4ee3\u5100\u5f0f\u301f\u306e\u7ba1\u7406\u8005\u3092\u76ee\u6307\u3057\u3066\u3044\u305f\u3002\n\u3000\u3042\u308b\u65e5\u3001\u5f7c\u306f\u4e00\u4eba\u306e\u5c11\u5973\u3068\u51fa\u4f1a\u3046\u3002\n\u3000\u5f7c\u5973\u306e\u540d\u524d\u306f\u301d\u30c9\u30b0\u30de\u301f\u3002\u301d\u9b54\u5c0e\u53f8\u66f8\u301f\u3068\u8a00\u3046\u301d\u9b54\u5c0e\u66f8\u301f\u306e\u4fdd\u6709\u8005\u3060\u3002","color":"#4fcbb8"}