第三章:空の書、理の書――3

          ☆  ☆  ☆

 魔美の勧告に、まず反応したのは、フィロと哲也だった。

「あたしたちは、何もしてない」
「好い加減にしやがれってんだ! 何度も何度も何度も何度も言った筈だがなっ!! あえて、もう一度言ってやる! 俺たちは――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」

 哲也が怒り心頭に発しているところ、慌てふためいた様子で政が弁解する。
 それもそうだろう。彼はテロに荷担するつもりなどない。

「オレたちは、抗争を止めに来ただけなんだ!」

 飽くまで中立の立場を保ちながら、抗争それ自体を治めに来ただけなのだ。
 だと言うのに、何時の間にやら共犯者扱いされている。完全に厄介ごとに巻き込まれた状況だった。

「だから、何だと言う? 君は、我たちの行動を阻害したのだ。君たちが現れなければ、不穏因子は排除され、法陣都市に平和が訪れた」

 それを邪魔したのは誰だ? ――魔美が続ける。

「大方、同じ魔導司書と契約者として、七柱軍に不満を抱いていたのだろう? 不当な扱いを受けている、とね。それゆえ、テロに荷担した。我たちの邪魔をしたのだ」

 政が言葉を詰まらせ、だが、

「確かに、……確かに、七柱軍の行動は止めたよ。だけど、個人に対して神霊兵器――それも、大型武装が向けられて、無視できる訳がないだろう? それに、彼らがファレグ隊に対して魔術を使用した際も、キャンセルさせた!」

 彼の主張はもっともだ。
 人間ならば、たとえ犯罪者だろうと、目の前で兵器の矛先を向けられて、今にも排除されそうな状況を見て、止めなければ後悔に苛まれる。

 それに、反撃を行おうとした哲也とフィロの魔術から、ファレグ隊の隊員を守ったのは政とドグマだ。
 テロリスト側にも肩入れしたが、ファレグ隊への協力も行ったと言える。

「なるほど。良く分かった。君たちは、テロリストに荷担したことを認め、保身のために我々に恩を売ったのだな?」
「なっ……!?」
「全く以て狡猾なものだ。恐れ入ったよ」

 それでも、魔美は主張を曲げないつもりだ。それどころか、屁理屈のような曲解で、言質を取った。

「何と言おうと、君たち四人の罪は消えない。無駄な抵抗だ」
「待ってください」

 ドグマが最後に口を開く。

「確かに、彼ら二人とワタシには、狙われる理由があるでしょう」

 彼ら二人とはフィロと哲也だ。テロ活動を行った二人には、必然、罰が必要となる。

 そして、ドグマ自身は魔導司書。理不尽ながら、存在そのものが理由となるが、

「こちらの彼は民間人なのですよ? 七柱軍が守るべき筈の」

 政はどうか? 彼は、現在進行形で一般人だ。いちゃもんを付けてまで裁く必要はないし、何より、メリットがない。

 魔美が、屁理屈を駆使してでも取り押さえる必要性があるのは、咎人の二人と利用価値の高いドグマだ。
 政を捕らえる必要がどこにあるのか?

「民間人?」

 だが、魔美は鼻で笑って、

「罪を犯したものは、犯罪者だ。犯罪者を擁護する義務も責任も道理も必要もない。寧ろ、我には、君たち二人の方が、よほど危険に映るぞ?」

 紅の瞳を眇めた。

blackletter
グループ名

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作者

虹元喜多朗

作品目次
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