大和撫子の胸 
 天王寺のりは生け花と日本舞踊が趣味でありしかも得意としている。尚且つ料理上手で優しい性格から数少ない大和撫子とさえ言われている。だが。
 友人達はのりの童顔とツインテールの髪型だけでなくその胸を見てだ、こんなことを言うのだった。
「顔と髪型は大和撫子じゃないし」
「特に胸はね」
「何よその西瓜入れたみたいな胸」
「物凄い爆乳じゃない」
「胸をことを言われたら」 
 困った顔になってだ、のりは友人達に言い返すばかりだった。
「私だってね」
「仕方ない?」
「そう言うの?」
「今だって」
 今は体育の授業中だ、上は白い体操服で下は赤い半ズボンという通っている学校の体操服の恰好だ。
「身体動かす邪魔になって」
「その邪魔ってのは何なのよ」
「邪魔になる位大きいって」
「それ自体がもう信じられない」
「巨乳はそれだけで宝よ」
「巨乳は七難隠すってね」 
 中にはこんな造語を出す者もいた、とかくのりのその胸は周囲の羨望の的だった。だが。
 本人はその胸についてだ、こう言うばかりだった。
「大きいと着物着た時もね」
「苦しい?」
「そう言うの?」
「そうなんだけれど」
 こう周囲にも言うのだった。
「日舞やる時も生け花の時にも着物着る時あるのに」
「何度も言うけれど羨ましい悩みっていうの」
「のりちゃんみたいに胸大きい娘滅多にいないから」
「一五八センチの背で九二センチの胸って何よ」
「凄い過ぎるでしょ」
「そう言われても」
 やはり困った顔で返すのだった。
「胸は自然に大きくなったから」
「大きくなって欲しいと思ってなくても」
「自然にっていうのね」
「大きくなったって」
「そう言うのね」
「そうなんだけれど」 
 実際にその童顔を困ったものにさせて言う。
「私としては」
「それで小さくなって欲しいっていうの?」
「ひょっとしてだけれど」
「そう言うの?」
「そうしたことは思わないけれど」
 あるものがなくなって欲しいとまでは思わないというのだ。
「けれど重いから肩も凝るし」
「いや、肩凝るって」
「重りになってるっていうのはわかるけれど」
「つまりそこまで大きいってことじゃない」
「それもびっくりだけれど」
「とにかく大きくても」
 その胸の持ち主としてはというのだ。
「そんなにいいものじゃないから」
「そんなもの?」
「どうにかなって欲しい」
「そうなの」
「ええ、揺れなくて着物の邪魔にならなくて肩凝りもない」
 全て巨乳であるが故ののりの悩みだ。
「そういうのないかしら」
「難しいところね」
「そうよね」
「そう言われても」
「何かね」
 友人達も返答に困った、それは何故かというと誰ものり程巨乳ではないからだ。だがこの胸のせいで。
 普段はおおらかで天然なのりも困っていた、それでどうしたらこの悩みが解決されるのかと考えていると。
 ネットで相談してみるとだ、こう答えが来た。
「矯正ブラしてみたらどうですか?」
「あれなら問題ないですよ」
「胸の悩みも解決出来ますよ」
「それじゃあ」
 のりはその返事を聞いてすぐにランジェリーショップに向かった、事前に母にそのことを話すと笑顔で言ってくれた。
「いいんじゃない?お金出すから」
「そうしたブラ買っていいの」
「胸が邪魔になるっていうのはね」
 見れば母もかなりの胸だ、つまり遺伝である。
「お母さんもわかるから」
「それでなのね」
「ブラ次第で変わるから」
「そうしたことも」
「そう、お母さんだってね」
 かく言う自分自身もというのだ。
「胸には困ってきたから」
「大きいからいいでしょって言われるけれど」
「それが、よね」
「身られることはともかく」 
 のりは夏でも服は露出が少なめなのでえその心配はあまりなかった。
「それでもね」
「色々とあるでしょ」
「正直なところ」
「だからよ、お母さんも同じだったから」
「矯正ブラいいのね」
「お店の人とよく相談してね」
 そのうえでというのだ。
「選んでね」
「わかったわ」
 こうしてだ、のりはランジェリーショップに向かいそこで矯正ブラを買った、そうして着けるとだった。
「揺れないし凝らないしね」
「いいっていうのね」
「矯正ブラ付けたら」
「そうなの」
「揺れないで固定されて」
「着物の邪魔にもならないのね」
「そうなの、これが」
 こう笑顔で言う、しかし。
 友人の一人が怪訝な顔になってだ、のりに尋ねた、
「そのブラどういったブラなの?」
「矯正ブラでも?」
「そんないいブラあるの?」 
 のりに首を傾げさせながら尋ねるのだった。
「一体」
「あるの、それがね」
「今も着けてるのよね」
「ええ、そうよ」
 その通りだとだ、のりはその友人ににこりと笑って答えた。
「今もね」
「じゃあ今日体育だから」
「着替えの時になのね」
「見せてくれる?」
 こうのりに頼んだ。
「そうしてくれる?」
「ええ、それじゃあね」
 こうしてだった、友人達はのりのその矯正ブラを体育の着替えの時に見るもっと言えば見せてもらうことになった。
 そして実際にだ、そのブラを見ると。
「あっ、それブラなの?」
「それがのりちゃんの言ってたブラだったの」
「そうだったの」
「ええ、そうなの」
 その通りだというのだ、見ればそのブラはさらしだった。のりは胸のところにそれを巻いているのだ。
 のりはさらし姿になって皆に話した、上はさらし一枚だが下はスカートである。
「お母さんもこれでね」
「着物の邪魔にならなくて」
「肩も凝らなくなった」
「揺れなくもなったの」
「いいわよ、あと型崩れしない様に気をつけてるから」
 そうして巻いてるからだというのだ。
「そっちも大丈夫だし」
「そうなのね」
「矯正ブラって何かと思ったら」
「日本古来のさらし」
「それだったの」
「いいわよ。ブラの肩のラインも見えないし」
 袖や脇からだ。
「汗も吸ってくれし」
「そうなの」
「さらしね」
「そんなにいいのね」
「そうよ、本当にいいから」
 また言ったのりだった。
「皆もしてみたら?」
「いや、ちょっとね」
「のりちゃん大和撫子だからいいけれど」
「私達はね」
 友人達は少し苦笑いになってのりに答えた。
「さらしはね」
「少し抵抗あるから」
「遠慮するわ」
「そうなの、揺れないし凝らないし着物の邪魔にもならないのに」
 胸をそう矯正してくれるというのだ。
「それでもなのね」
「まあのりちゃんに合ってるならいいんじゃない?」
「それじゃあね」
「それでいいんじゃない?」
「のりちゃんがいいのなら」
「それじゃあ私はこれからもね」
 そのさらし姿のまま皆に応えた。
「着けていくわね」
「ええ、そうしたらいいわ」
「のりちゃんに合ってるなら」
「それでね」
 友人達はこう言うだけだった、そしてのりはというと。
 さらしの上から体操服を着た、それからスカートを脱いでだった。
 半ズボンを穿いた、そうしてまた言った。
「じゃあ今からね」
「ええ、体育ね」
「私達も着替えて」
「それでグラウンドに出ましょう」
「揺れないから」
 体操服姿で言った、今度は。
「もう安心よ」
「ううん、どんな矯正ブラかって思ってたら」
「まさかのさらしで」
「しかもそのさらしがいい」
「思わぬことだったわね」
 友人達も体操服に着替えつつ言う、そしてだった。全員体操服のりと同じ服装になってだった。
 授業に出た、そうしてのりは揺れない胸を見てさらしに感謝した。


大和撫子の胸   完


               2017・6・26
 

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