夜のパトロール
 園前静香は犬も猫も大好きだ、とかく無類の動物好きだ。それは彼女の趣味にも出ていて。
 猫のアクセサリー、髪飾りを付けている彼女を見てだ。友人達は感心した様な顔になって言った。
「いや、本当にね」
「静香ちゃん猫好きよね」
「犬も好きだけれど」
「猫が一番好きよね」
「ええ、やっぱり猫がね」
 何といってもとだ、静香もクラスメイト達に答える。その猫の髪飾りを自分の手で触りながら。
「一番好きよ」
「そうよね」
「静香ちゃんは猫が一番好きよね」
「何といっても」
「猫大好きでね」
「一番よね」
「動物の中ではね、あとね」
 静香は友人達にこうも話した、これまで明るかった表情が変わって怪訝するものになっていた。
「最近何か変な人いるみたいね」
「あっ、不審者ね」
「何か学校に忍び込んで悪戯してるらしいわね」
「あちこちの学校の理科室とか入って」
「それでそこを使ってね」
「どんちゃん騒ぎしたりあちこち落書きしてたりしてるらしいわね」
「若しもよ」
 静香は顔を顰めさせてこうも言った。
「若しその悪戯が学校の生きものに向かったら」
「ああ、まずいわね」
「そう言う奴いるわよね」
「学校の鶏とか兎とか遊びで殺す奴」
「自分より弱い、抵抗出来ない相手だからね」
「いじめて殺すのよね」
「最低な奴よね」
 クラスメイト達もそうした輩には口々に汚物を語る口調で話した、実際にこうした輩もいるのが世の中だ。
「そんなことしだしたらね」
「とんでもないから」
「早いうちに捕まって欲しいわね」
「本当にね」
「そうよね、だからね」
 静香はクラスメイト達に今度は穏やかな性格の彼女が滅多にしない強い顔と声で言ってみせた。
「その不審者ね」
「早く見つけてっていうのね」
「警察に突き出す」
「そうしないとっていうのね」
「そう思ったけれど」
 こう言うのだった。
「ここは」
「ううん、気持ちはわかるしね」
「何とかしないといけないのは事実だけれど」
「静香ちゃん合気道初段だけれどね」
「他の格闘技使えないし」
「それによ」
 クラスメイト達は静香がどうやら不審者を見付けてやっつけて警察に突き出そうと考えていると見て止めた。
「若し不審者がナイフとか持ってたら」
「スタンガンとかね」
「一人とは限らないし」
「そうだったら危ないわよ」
「捕まったりしたら何されるか」
「かなり危ないわよ」
「ううん、じゃあどうしたらいいの?」
 静香は自分の考えが否定されたと見て友人達にあらためて尋ねた。
「不審者は」
「そう言われてもね」
「具体的にはね」
「どうしたらいいかしら」
「困るわね」
「そうよね」
「私一人でナイフとかスタンガンとか言ったから」
 静香は友人達の言葉から述べた。
「だったらね」
「だったら?」
「だったらっていうと?」
「どうなの?」
「いえ、ここはね」
 静香は友人達に自分が閃いたことを話した。
「皆で夜にパトロールしない?」
「それで不審者を探すの」
「そうするの」
「そう、皆が手に手に武器を持って」
 ナイフやスタンガンからの言葉だ。
「そうして不審者を探し出して」
「そうしてっていうの」
「不審者を見付けたらやっつける」
「そして警察に突き出すの」
「そうしましょう、バットや竹刀や木刀だったら誰でも持てるし」
 静香が考えた武器はこうしたものだった。
「何人かで見回っていたら」
「そうね、安全ね」
「一人じゃ危なくてもね」
「皆ならね」
「大丈夫なのは事実ね」
「だからね」
 それでというのだ。
「いいかもって思ったけれどどうかしら」
「ええ、そうね」
「それならいいかもね」
「じゃあ皆で夜の街をパトロールして」
「そうして不審者を見付け出して警察に突き出しましょう」
 皆でこう話してだ、実際にそれぞれ家や部活からバットや竹刀や木刀挙句はスタンガンまで持ってだった。
 夜のパトロールに出た、しかし一日目でだった。
 たまたま通りがかった交番の前でだ、お巡りさんに呼び止められた。
「君達こんな夜に何をしているんだ」
「はい、パトロールです」
「最近不審者が出るって聞いたので」
「それで色々な学校を荒らしてるらしくて」
「学校の生きものをいじめだしたら大変なんで」
「そうならないうちに見付けてやっつけるんです」
「そうして警察に突き出します」
 こうお巡りさんに話した、すると。
 お巡りさんはすぐにだ、静香達に咎める顔で言った。
「その気持ちはいいけれど駄目だ」
「えっ、駄目ですか?」
「そうなんですか?」
「理由はどうあれ女の子が夜の街を出歩いたら危ないからね」
 だからだというのだ。
「例え何人いてもね」
「だからですか」
「パトロールしたら駄目ですか」
「そうなんですか」
「うん、君達がパトロールをするのなら」
 それならというのだ。
「私達がするよ」
「お巡りさんがですか」
「そうされるんですか」
「それが私達の仕事だからね」
 それでというのだ。
「ここは任せてくれるかな」
「不審者を掴まえてくれるんですか」
「そうしてくれるんですね」
「そうするよ、だから君達はすぐに家に帰るんだ」
 そうしろとだ、お巡りさんはまた静香達に言った。
「いいね」
「はい、わかりました」
「それじゃあ」
「パトロール止めて」
「お家に帰ります」
「不審者は必ず捕まえるからね」 
 こう言ってだ、お巡りさんは静香達を家に帰らせた。そしてだった。
 静香達はとりあえずはお巡りさんの言葉を信じることにした、幸いにしてこのお巡りさんは誠実で勤勉なまさに警官の鑑とも言うべき人だった。
 それでだ、不審者の情報提供を署を通じて掲示板やネットで大々的に頼みそのうえでパトロールを徹底させて。
 遂にある小学校に忍び込もうとしている一人の少年を見付けた、そしてその少年に声をかけて交番まで同行を願って話を聞くと。
 この少年がその不審者だった、愉快犯であちこちの学校に悪戯をしていたのだ。静香達にとって幸いなことに生きもの達には全く興味がなくそれはおそらくこれからもであった。
 少年は程なく然るべき処分を受けることになり事件は解決した、この顛末を聞いてだった。
 静香は学校で笑顔でだ、クラスメイト達に話した。
「よかったわね」
「ええ、事件が解決してね」
「お巡りさんが約束してくれた通りにね」
「そうなってね」
「本当に良かったわね」
「無事にね」
「活きもの達に何もなくてよかったわ」
 動物好きの静香はとにかくこのことを喜んでいた。
「本当にね」
「その通りよね」
「このことはね」
「学校の鶏とか兎とか」
「教室のお魚とかね」
 特に小学校で多い。
「何もなくてね」
「そうならないうちに掴まってね」
「そこまで悪い奴じゃなかったみたいだけれど」
「今からね」
「本当によかったわ、動物に何かあったら」
 静香は今日は猫の頭が付いたシャーペンを持って来ている、そのシャーペンを見ながら皆に話した。
「そう思うだけで辛いから」
「動物好きの静香ちゃんとしては」
「そうよね」
「今回これで終わってね」
 本当にというのだ。
「よかったわ、出来ればどの生きもの特に猫ちゃん達が」
「幸せに」
「そう思うのね」
「ええ、そう思うわ」
 実際にとだ、静香は友人達に言った、そうして自分で買って使っている猫のシャーペンを見て愛し気に笑ったのだった。大好きな猫達のことを思いながら。


夜のパトロール   完


                2017・7・30


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