名キャッチャー
 八尾彩はソフトボール部のレギュラーでポジションはキャッチャーだ、そのポジション故かよく皆に頼られている。
「打つのも守るのもね」
「やっぱり彩ちゃんがいてこそよ」
「ピッチャーの投球も考えてくれるし」
「作戦もね」
「私としてはね」 
 その彩も言う。
「ほら、キャッチャーっていうと古田さんでしょ」
「元ヤクルトのね」
「眼鏡かけてた人ね」
「あの人凄かったらしいわね」
「名キャッチャーだったのよね」
「阪神ファンでも」
 古田の現役時代のヤクルトに散々負けたチームを応援していてもというのだ、彩も周りも大阪にいるので阪神ファンなのだ。
「それでもね」
「あの人凄かったっていうから」
「古田さんみたいになりたい」
「そう言うのね」
「そうなの」
 実際にというのだ。
「だからね」
「古田さんみたいにデータ集めて」
「それで守備もバッティングもなのね」
「どっちもなのね」
「頑張ってるの」
「そうなの、しかもね」
 ここでだ、彩は同じ部活の仲間達に笑ってこうも言った。部活の練習の後なのでその時にいつも着ている学校指定のジャージ姿だ。
「私この体型でしょ」
「あっ、体型言うの」
「それ言うの」
「うん、こんな体型だから」
 見れば如何にもボン、ボン、ボンというスタイルだ。出ているところは出ているがしっかりした体格だ。
「相手がホームに突っ込んできてもね」
「それでもっていうのね」
「ブロックが出来る」
「それも出来るっていうの」
「そう、だからね」
 ここでもだ、彩は笑って言った。
「余計にいいでしょ」
「いや、体型は関係ないんじゃ」
「要は頑丈さでしょ」
「ブロックについては」
「ホーム守ることは」
「それも技だしね」
 ソフトボールのテクニックだというのだ。
「だからね」
「また違うんじゃ」
「体型は」
「別に」
「そう?いや最近ね」
 彩は体型は然程問題ではないと言う友人達にこう返した。
「何か自分の体型がね」
「嫌になったとか?」
「そういうのじゃないでしょ」
「別に嫌じゃないけれど」
 それでもという口調で言うのだった。
「何か違うなって、皆と」
「違う?」
「そう?」
「そうは思わないけれど」
「着替える時とか」
 勿論後で着替える、そうして家に帰る。
「皆ウエスト引き締まってるじゃない」
「そうかしら」
「別によね」
「そうよね」
「私達も」
「彩ちゃん胸大きいし」
「お尻だっていいしね」
 大きいだけでなく形もいいというのだ。
「いいスタイルよ」
「グラドルでもいけるじゃない」
「いや、だからウエストが」
 それがというのだ。
「どうもね」
「キャッチャー向きだっていうの」
「そうだっていうの」
「そう、かえってね」
 どうもと思うが少なくともきゃっちゃーをするにはいいというのだ。
「いいのよね」
「じゃあそのままでいるの」
「ウエストも」
「そうだっていうの」
「ええ、ソフトボールをしていたら」
 つまりキャッチャーならというのだ、彩の場合は。
「これでいいわ」
「そうなのね」
「じゃあそのままね」
「ウエストは維持するの」
「その体型で」
「元々だし」
 そうした体型だというのだ。
「だからね」
「じゃあね」
「彩ちゃんがそうしたいなら」
「それでいってね」
 友人達も彩がいいならだった、これ以上は言わなかった。それで彩は実際にダイエット等を考えずにソフトボールをしていった。
 しかしだ、梅田の方を歩いている時にだ。
 ふとだ、一緒に歩いていた従姉にこんなことを言われた。
「彩ちゃんの顔とスタイルならね」
「どうしたの、急に」
「いや、もう少しウエスト引き締めたら」
 そうしたらというのだ。
「モデルになれそうなのに」
「いや、私背がね」
 それがとだ、彩はまずそちらから話しあt。
「低いから」
「それ位何でもないわよ」
「モデルなら」
「彩ちゃん位の背でもね、ただね」
「ウエストがっていうの」
「もう少しね」
「細いとなの」
「なれるって思ったけれど」
 今一緒に歩いている彼女を見てというのだ。
「そうね」
「ウエストなの」
「胸は大きいしお尻も大きくて形もよくて」
 つまりどちらも見栄えがいいというのだ。
「だからね」
「ウエストがもっと細いと」
「そう思ったけれど」
「けれど細くなったら」
 どうなるかとだ、彩は従姉に答えた。
「体力なるかるから」
「ダイエットしてっていうのね」
「それにそうしたらパワーもなくなって」
 それでというのだ。
「バッティングもスローイングにもね」
「体力必要で」
「特にブロック」
 従姉にもこれを話した。
「それに必要だから」
「ウエスト引き締めるつもりないの」
「ウエストもないと」
 それこそというのだ。
「キャッチャーになれないから」
「そうなのね」
「ええ、そうよ」
「私ソフト部じゃなかったから」
「バレー部だったわよね」
「ウエストはね」
 自分のウエストを見つつ彩に話した、見れば彩のそれよりも遥かにほっそりとしたものだ。
「いらないから」
「細くてもいいわよね」
「ええ、そうだったから」
「私は違うから」
「ソフトのキャッチャーだから」
「ウエストも必要なのよ」
「名キャッチャーになる為には」
 従姉も応えて言う。
「そちらもなの」
「古田さんみたいになる為にもね」
「古田さん太ってないけれど」
「痩せてもいないでしょ」
「そうね」
 古田の体型を思い出しつつ彩に答えた。
「別にね」
「だからね」
「痩せるつもりはないの」
「私はこのままでいいわ」
「そうなのね」
「ええ、本当に」
 従姉にあっさりと答えた。
「デブって言う奴もいるけれど」
「全然デブじゃないわよ」
 従姉は彩にこのことも話した。
「そこは安心して」
「それでも言う奴は昔からいるのよ」
「けれど太ってないから」
 このことは安心していいというのだ。
「全然ね」
「そうなの」
「もっと引き締めたらっては言ったわ」
 従姉もこの言葉は否定しなかった。
「けれどね」
「デブっていう程はなの」
「ないから、それもそも彩ちゃんそう言われてダイエットする?」
 彩にあらためて尋ねた。
「そうする?」
「そう言われたら」
「そうでしょ、しないでしょ」
「ええ、別にね」
「いいキャッチャーになりたいなら」
「痩せ過ぎたら」
 それこそというのだ。
「本末転倒だから、最低でも梨田さん位ないと」
「ああ、楽天の監督さんね」
「あの人位ないと」
「あの人も太ってないけれど」
「私の場合これがベストだから」
 それでというのだ。
「それでね」
「そう言われてもよね」
「痩せるつもりはないから」
 ダイエットはしないというのだ。
「本当にある程度体格ないとどうしようもないのよ」
「それどのスポーツでもそうね」
「そうでしょ、実際」
「ええ、私にしてもね」 
 従姉は自分がしていたバレーのことから話した、二人で梅田の阪急百貨店の方に入りながら。
「やっぱりね」
「体格がないと」
「体力がないし動きも合わなくて」
「それでよね」
「無理にダイエットをしても」
「意味がなかったわね」
「本当にね」
 こう彩に答えた。
「それで今乗馬してるけれど」
「そっちもでしょ」
「脚痩せようって思ったら」
 自分のその脚を見て言う、ズボンに包まれているその脚は実はかなり逞しくなっている。乗馬で鍛えられたが故になのは言うまでもない。
「乗馬なんてね」
「出来ないでしょ」
「乗馬は脚が大事だから」
「バランスも取るから」
「だからね」
「そうでしょ、そう考えたら」
 実際にというのだ。
「私も同じよ」
「キャッチャーだから」
「そうしたダイエットはしないわ」
 ウエストを引き締めて体重を落とす様なそれをというのだ、こう従姉に話しながら二人で梅田で遊んだ。
 そして次の日部活で腹筋に励んでいた、膝を曲げて仰向けに寝て両手を頭の後ろにやって熱心に腹筋をしていた。
 その彩にだ、部員達は言った。
「腹筋鍛えてるわね」
「そのウエスト」
「そしてよね」
「引き締まった身体にするのよね」
「そうなの、腹筋を鍛えて」
 そうしてというのだ。
「お腹から投げて打つ」
「そしてブロックもね」
「するのね」
「そうしていかないといけないから」
 キャッチャーとして、というのだ。
「だから今日もね」
「腹筋を鍛えて」
「それで逞しくなる」
「そうなっていくのね」
「そうなっていくわ、勿論足腰も他のところもよ」
 腹筋だけでなくというのだ。
「鍛えて鍛えて」
「そしてよね」
「相手の研究も作戦も考えていって」
「いいキャッチャーになる」
「そうなっていくのね」
「そうなっていくわ」
 実際にとだ、彩は部員達に腹筋をしつつ答えた。
「そうしていくから」
「じゃあ今から」
「腹筋を鍛えて」
「いいキャッチャーになる」
「そうしていくのね」
「そうなるわ、しっかりした腹筋があってこそ」
 まさにと言う彩だった。
「そうも思うから」
「それじゃあね」
「今日も頑張って部活しましょう」
「トレーニングね」
「鍛えていきましょう」
 こう言ってだ、そのうえで。
 彩は腹筋を鍛えそうしてだった、この日も部活に励んだ。そのウエストは実に逞しく彼女を支えていた。それもしっかりと。

 
名キャッチャー   完


                2017・7・30

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