路上ライブ
 東京の話を大学のキャンバスの中でギターの練習をしようとしていた時にベンチで聞いてだ、肥後橋一恵はすぐに不機嫌な顔になってその話をした友人に対してこう言った。
「確かに私プロデビューするけれど」
「大阪は離れないのね」
「所属するのは大阪の事務所だし」
「東京に行くことはあっても」
「あくまで拠点はね」
 活動のそれはというと。
「ここよ」
「大阪なのね」
「大阪から離れないから」
「あんた大坂好きだからね」
「大好きよ、というか東京は子供の頃に行ったけれど」
「あまり好きになれかったの」
「どうもね」
 家族で旅行に行ったその時にというのだ。
「だから大学を卒業してもよ」
「プロでデビューしても」
「そう、働きながら活動するし」
 音楽だけで食べていけるとは思えないからだ、一恵はデビューしてもそうして生活をしていくつもりなのだ。
「難波の音楽のお店でね」
「御堂筋の」
「アルバイトしてるね」
「そのまま就職するつもりなの」
「店長さんもそう言ってくれてるし」
 このことを幸いとしてというのだ。
「それでよ」
「大阪で働いてそうして」
「大阪で活動していくから」
「本当に大阪から離れるつもりないのね」
「ないわ」
 実にはっきりとした返事だった。
「私はね」
「東京ってやっぱり人も多くて」
 友人は意固地なまでに言う一恵に返した。
「歌える場所もね」
「ステージも路上で歌える場所もよね」
「日本一多いのに」
「ひょっとしなくても世界屈指よね」
「それこそね。それでもなのね」
「私は東京嫌いだから」
 またこうしたことを言った一恵だった。
「だからよ」
「東京にはいかないで」
「ここで活動していくから」
「じゃあ路上ライブも」
 一恵が活動の一環としているそれもというのだ、他にはニコニコ動画でボカロとして活動してもいる。
「大阪でなの」
「してくわ、はっきり言って大阪で歌うこそがね」
 一恵にとってはというのだ。
「最高だから」
「それでなのね」
「私大阪から動かないから」
 拠点はあくまでこの街だというのだ。
「それは絶対だから」
「じゃあ今度の路上ライブは何処なの?」
「梅田よ」
 そこだというのだ。
「そこで歌うから」
「そうするの」
「そう、その次は京橋よ」
「大阪城でも歌うわよね」
「あそこでも難波でもね」
 そうした場所でもというのだ。
「住吉神社でも道頓堀でもね」
「本当に色々な場所で歌うわね」
「大阪のね」
「そんなに大阪の街で歌うのがいいの」
「いいわよ」
 ここでも即答で返した一恵だった。
「あんたも一回やってみたらいいのに」
「私はいいわよ」
 友人は笑ってギターを出して持った一恵に応えた。
「歌うのはカラオケだけだし」
「ライブとかしないから」
「ギターも弾かないから」
 だからだというのだ。
「別にいいわ」
「じゃあ今も」
「聴かせてもらうけれど」
 一恵の歌、そしてギターをというのだ。
「それでもね」
「歌わないのね」
「そうするわ」
「じゃあじっくり聴いてね」
 一恵はにこりと笑ってだった、そのうえで自分が作曲した曲を歌いはじめた。それはロックしかもカンロリーロックのものだった。
 一恵はこの時も他の時も大阪で歌い続けた、それはこの時も同じで大阪城で路上ライブを行ってだった。
 一曲歌い終わってからだ、聴いてくれた客達にギターを持ったままで満面の笑みでこう言ったのだった。
「今日も聴いてくれて有り難うね」
「こっちに来たの久し振りだよな」
「最近難波で歌うこと多いんだって?」
「またこっちにも来てくれよ」
「大阪城の方にも」
「ええ、今度もここで歌うから」
 ライブを行う場所はというのだ。
「聴いてね」
「おう、待ってるぜ」
「また来いよ」
「それでギターも聴かせてね」
 聴いていた者達は一恵に明るい声を送った、これはこの大阪城だけでなく他の場所でもそうだった。
 難波で歌った時もその暖かい声を受けた、そして周りを見回してからだった。一恵はこんなことも言った。
「ここで歌えるてね」
「いいんだな」
「そう言うのね」
「ええ、最高よ」
 本当にというのだ。
「大阪のあちこち、ここでだって」
「難波駅の前でも」
「そうなのね」
「大阪って何処にも人がいてくれて」
 そしてというのだ。
「馴染める場所だから」
「それはそうだな」
「この難波だってそうで」
「道頓堀もそうで」
「あと大阪城も京橋も」
「住吉さんだって」
 住吉大社を大阪人はこう愛着を込めて呼ぶのだ。
「何処だってね」
「暖かいよね、確かに」
「人情っていうかそれが感じられて」
「景色の一つ一つが」
「その中で歌えるからよ」
 それでというのだ。
「私大阪で歌いたいの」
「ずっとか」
「そうだっていうのね」
「そうなの、こうしてね」
 さっきまで歌っていた様にというのだ。
「暖かさも感じて歌えるから」
「だから大阪はいい」
「大阪で歌うことは」
「そうだっていうのね」
「そうなの、じゃあもう一曲ね」
 歌うと言って実際にだった、一恵はもう一曲歌った。この日の難波でも路上ライブも満喫した。その次の日は。
 大学の講義がない時にまたキャンバスの中で歌う、そこで友人にまた言われた。
「楽しそうに詠うわね」
「歌う場所がいいから」
「この大学もなのね」
「大阪自体がね」
「大阪がいいの」
「この街がね、よくお笑いの街って言われるけれど」
 この評価は日本全体で定着しているだろうか。
「人情があるでしょ、場所にすらね」
「その人情がある」
「大阪の何処もね」
「その人情の中で歌えるからなのね」
「私ここで歌いたいの」
 つまり活動の拠点にしたいというのだ。
「これからもね」
「そういうことなの」
「東京はどうもね」
 一恵としてはだ。
「それが感じらないっていうか」
「人情がないの」
「そうじゃない筈だけれど」
「つまりあんたには合わないのね」
「そうなの」
 要するにそうだとだ、一恵は友人に話した。
「結局は」
「東京はね、私もね」
「合わないでしょ」
「大阪人にはね」
「もっと言えば関西人にはね」
「合わないのよ」
 どうにもとだ、二人で話した。
「あそこは」
「だからなのよ」
「あんたは東京には行かないの」
「そう、ギターは大阪でも弾けるしね」
「大阪の事務所所属になったし」
「それでいいわ、ボカロもね」
 それもというのだ、一恵のもう一つの活動も。
「こっちでやるし」
「大阪で歌って弾いていくのね」
「そうするわ、じゃあ今からね」
「またなのね」
「弾いて歌うわね」
 こう言って実際にそうした、一恵は大阪で歌い弾き続けた。それは彼女にとって実に心地のいいものだった。


路上ライブ   完


                 2017・9・27

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