メタモルフォーゼ
 小路陽菜は普段はかなり地味な格好をしている、学校でもそれは同じで丸眼鏡に何の飾りもない黒のロングヘアにしていて制服の着こなしも普通だ。スカートの丈も普通で本当に何の変哲もない感じだ。
 それでだ、人付き合いはあっても友人達にはこう言われていた。
「何かね」
「陽菜ちゃんって地味よね」
「どうにも」
「外見は」
「本当に」
「そうかしら」
 自覚のない返事で返した陽菜だった、友人達の指摘に。
「まあお洒落にはね」
「特になのね」
「興味ないの」
「そうなの」
「ええ、これといって」
 朴訥とした返事で返すばかりだった。
「ないの」
「だからその眼鏡で髪型で」
「服装もそうで」
「それでメイクもしてないの」
「アクセサリーも付けてないのね」
「そういうの興味ないから」
 本当にというのだ。
「別に」
「ううん、それだと地味過ぎてね」
「恋愛の一つもないから」
「ちょっとお洒落してみたら?」
「そうしてみたら?」
「お洒落ね」
 特に興味がないといった返事だった。
「あまりというか全然興味ないけれど」
「そこをしてみたら?」
「陽菜ちゃん素材は悪くない感じだから」
「お肌も白くて細かくて」
「顔立ちも悪くなさそうだし」
「スタイルも悪くないでしょ」
 体育の授業の時にスタイルはチェックされている、女の子同士でもこうしたチェックは忘れていないのだ。
「だったらね」
「それじゃあね」
「磨いたら?」
「お洒落したら?」
「本当に」
「そういえば家でお兄ちゃんと弟にもよく言われるわ」
 そうだというのだ。
「お洒落しろって」
「っていうか陽菜ちゃんお家でもそう?」
「地味娘なの?」
「家じゃいつも上下ジャージなの」
 その服で過ごしているというのだ。
「夏は膝までのズボンとティーシャツで」
「何か凄い地味ね」
「地味な格好ね」
「お家でも」
「それでお兄さんにも弟さんにも言われてるの」
「そうなの、もっと奇麗にしてみたらって」
 家族からも言われているというのだ。
「家族だから注意するんだって言われて」
「というか私達もだから」
「その外見じゃどうもよ」
「言わずにいられないわよ」
「サボテンみたいだから」
「あんまりにも地味過ぎるからよ」
「じゃあちょっとお店に行って来るわ」
 陽菜もここで遂に頷いた、周りのアドバイスに。とはいってもその朴訥な口調は変わってはいない。
「メイクのお店とかね」
「服とかアクセサリーとか髪型ね」
「もう全部ちょっと変えてみたらいいから」
「丸眼鏡も変えてみて」
「そうしてね」
「じゃあね」
 こう頷いてだ、そのうえでだった。
 陽菜はその日の放課後に難波に出て高島屋の中でそうした店に入っていった、幸い土曜日だったので時間はかなりあった。その話を携帯で家族に言うとすぐに母親も来て娘に厳しい顔でこう言ってきた。
「あんたのその地味娘にはお母さんも思ってたの」
「そうだったの」
「そうよ、もっと奇麗にしてみたらってね」
「お兄ちゃん達は言ってたのに」
「お母さんも思ってたの」 
 言わなかったがというのだ。
「服もメイクもよ」
「全部なの」
「髪型もね、じゃあ今から全力でね」
「奇麗になるの」
「そう、お金は出すから」
 それも出すと言ってだ、そしてだった。
 陽菜は母にお金と口も出されてそのうえで百貨店を巡った、そうしてこの日は服に髪型にメイクに専念した。
 それで次の日学校で話した友人達に昨日のことを話すとだった。すぐに会おうということになって待ち合わせ場所の駅前に行くと。
 すぐにだ、陽菜は友人達に驚きの声で言われた。
「何、その格好」
「もう別人じゃない」
「奇麗になるって思ってたけれど」
「もう別人じゃない」
「そう?」
 見れば外出の時もジャージのままではなかった、黒い半ズボンに赤いブラウスとコートにタイツ、ブーツに金や銀のネックレスにイヤリング、そして的確なメイクに。セットされた黒の長い髪にだった。眼鏡はコンタクトになっている。
 派手でかつ目立ちしかも奇麗だ、友人達はその陽菜を見て仰天して口々に言ったのだ。
「そうよ、もう別人過ぎてね」
「びっくりしてるのよ」
「何でそこまで変わるのよ」
「特撮の変身レベルよ」
「ううん、何か今までがこだわり過ぎじゃないってね」
 陽菜はこう友人達に答えた。
「お店の人に言われて。何か私お肌がきめ細かくて化粧のりも映えもよくね」
「そのメイクになった」
「そうなのね」
「それでスタイルもいいって言われて」
 見ればタイツから見事な脚線美が、半ズボンからは腰と尻、上着からは程よい大きさと形の胸が見える。手足が長く胴が短く頭も小さい。
「それで服を買う時もね」
「お店の人に言われて」
「それでなの」
「こうした格好になってアクセサリーも似合うものを似合う風にね」
 つまり今の様にというのだ。
「ショップの人にしてもらって」
「髪型もなの」
「美容師の人にしてもらったの」
「そうなの、そうしたらね」
 ここまでしてもらってというのだ。
「こうなったのよ」
「いや、本当に凄いわよ」
「完全に別人になってるわよ」
「というか今までが地味過ぎた?」
「そうよね」
「これだと学校でもね」
「制服の着こなし次第でね」
「それもやってみるわね」 
 こう返した陽菜だった、そしてこの日は友人達とその姿で街を歩いたが見られるのは陽菜が一番多かった。
 学校でもだ。髪型とアクセサリーはそのままで眼鏡もしていない。そこにさらに制服をラフな感じに着てみてスカートもうんと短くするとだ。 
 今度は学校の男子生徒達が陽菜を見てびっくりした。
「誰だよあれ」
「小路ってマジか?」
「あの地味娘が何だよ」
「急に変わったな」
「別人じゃねえか」 
 こう言って驚くばかりだった、それで忽ち彼等の注目の的にもなった。
 陽菜はお洒落をする様になって注目され別人の様に奇麗になったと言われ彼女自身もお洒落に気を使う様になった、それは家も同じでジャージからお洒落な普段着になった。だがその彼女に母親は言うのだった。
「全く、前が酷過ぎたのよ」
「何もお洒落してなかったのが」
「そうよ、地味娘過ぎたのよ」
「自覚はしてるけれど」
「だったらね」
「もうなの」
「あんな風にはしないの」
 家でもジャージという何の愛想もない格好は駄目だというのだ。
「絶対にね」
「地味じゃ駄目なのね」
「折角素材はいいんだから」
「人は内面っていうけれど」
「内面も大事だけれど同じ位よ」
「お洒落もなの」
「そうよ、ましてやあんたは素材はいいんだから」 
 実の母が見てもだ。
「そこはしっかりしてね」
「注目されないと駄目なの?」
「それで寄って来る悪い虫はどけてね」
 そのうえでというのだ。
「やっていかないと駄目なのよ」
「そうしたものなの」
「女の子はね。というかあんたもお洒落してどう?」
「何か楽しいわ」
「そうでしょ、あれこれ考える様になって」
「服とか髪型とかメイクとか」
「自分の励みにもなるしね」
 このこともあってというのだ。
「いいのよ、じゃあこれからもよ」
「お洒落も忘れずに」
「そうしていきなさい、あんた自身の張り合いの為にもね」
「じゃあね、お金のこともあるけれど」
 お洒落にはお金も必要だ、それで言ったのだ。
「ちゃんとね」
「これからはお洒落もしてね」
「女の子としてやってくわ」
 こう母に言って娘は家でもお洒落に励む様になった、そうして学校のトイレの鏡でも自分の顔をチェックして一緒にトイレに入った友人達にこう言うのだった。
「もっとアイシャドー赤くした方がいいかしら?」
「ううん、そうね」
「陽菜ちゃん赤似合うしね」
「そっちの方がいいんじゃない?」
「そうするわね、こうしたことを考えるのも」
 アイシャドーの色、つまりメイクをというのだ。
「いいわね」
「面白いでしょ、本当に」
「あれこれと考えてやってみるのも」
「地味でいくのも一つの道かも知れないけれど」
「お洒落もいいものよ」
「そうよね、じゃあお金出来たら新しいアイシャドー買って」
 今も鏡で自分の顔をチェックしながら言った。
「それでメイク変えてみるわね」
「そうしてみたらいいわ」
「その時のメイクの具合見せてね」
「ええ、そうするわね」
 笑顔で答えた陽菜だった、そうして友人達と明るくトイレを出てクラスで今度はファッション雑誌を開いて服の話をした。


メタモルフォーゼ   完


                2017・9・28

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