歴女の苦労
 森ノ宮美帆は歴史好きである、所謂歴女で中学でも歴史研究会に所属していて毎日部活を楽しんでいる。
 しかしこの日部活に行ってだ、部室で同級生に笑って言われたのだった。
「あんたそんなことも知らないの」
「チャイコフスキーさんのことで?」
「そう、あの人実はホモでね」
 その同級生はロシアの有名な音楽家の話を美帆に笑って話した。
「女の人には凄く冷たかったのよ」
「そうだったの」
「こんなの有名よ」
「ロシアの歴史だと」
「音楽だとね」
 そうだというのだ。
「それを知らないあんたはまだまだね」
「最近うちの部活ロシアのことを勉強してるけれど」
「あんたイワン雷帝とかピョートル大帝ばかり調べているからよ」
「だって面白いから」
 口を尖らせてだ、美帆は同級生に反論した。
「だからよ」
「そうした人達のこと調べてるのね」
「あと女帝エカテリーナね」
 この歴史上の人物もというのだ。
「調べてるけれど」
「チャイコフスキーさんについてはなの」
「凄い音楽家なのは知ってるけれど」
 それでもというのだ。
「そんなことまで知らないわよ」
「じゃあ代表作は?」
「運命?」
「それベートーベンだから」
 全くの別人だというのだ。
「全然違うじゃない」
「名前位知っていてもっていうのね」
「駄目よ、駄目駄目」
 笑って言う同級生だった。
「ロシアは芸術も有名で音楽も凄いから」
「チャイコフスキーさんもなの」
「ちゃんと調べないと」
「駄目っていうのね」
「ロシアの文化とかのこともね」
 歴史のそうした分野もとだ、同級生は美帆に言うのだった。そして美帆もこの言葉と同級生の言った時のにやけ顔を悔しく思ってだ。
 ロシアの芸術、ここでは文学や音楽のことを調べていった。それは部活だけでなく昼休みや家でも行ってだった。
 二週間程してだ、美帆は同級生の前にきて彼女をきっと見たうえでそのうえで問うた。
「ドフトエフスキーの代表作は?」
「罪と罰?」
 すぐにこう返した同級生だった。
「それ?」
「他には?」
「悪霊とか?」
「まだ言える?」
「カラマーゾフの兄弟かしら」
「よく知ってるわね」
「だからね」
 それこそと返す同級生だった。
「こうしたことはね」
「調べたから」
「知ってるわよ、生没年から生い立ちまで言えるわよ」
 ドフトエフスキーのというのだ。
「作風もね」
「くっ、そこまでなのね」
「そうよ、一言で言うと暗いわよ」
「そう書いてあったわね」
 美帆が読んだその本にだ。
「確かに」
「はっきり言って読みたくないわ」
「調べてもなの」
「だって私暗い作品好きじゃないから」
「そういえばあんたそうよね」
「そんな人を殺しただの何だのってね」
 そうした作品はというのだ。
「それで罪悪感に悩んだりとか親殺しだの何だのってね」
「推理みたいっていうけれどね」
「推理でも暗い作品はね」
「私読んでるわよ、カラマーゾフの兄弟」
 その暗い作風が嫌いな同級生に怒った顔で言う美帆だった。
「そこまでしてるけれど」
「えっ、読んでるの」
「ドフトエフスキーのこと調べるうちにね」
「そこまでする?」
「あんたがロシアの芸術も調べないとって言ったからよ」
 やはり怒って言う美帆だった。
「それでなんだけれど」
「私そこまでしろとか言ってないわよ」
「あんたに馬鹿にされて火が点いたのよ」
「いや、そんなこと言われても」  
 同級生は美帆に困った顔で返した。
「ドフトエフスキーの暗い作品読めとか」
「言ってないの」
「歴史というかそこまでいくと」
 それこそと言う同級生だった。
「文学じゃない」
「ロシア文学ね」
「私達は歴史だから」
「じゃあ私の苦労は何なのよ」 
 カラマーゾフの兄弟を読んでいるそれはというのだ。
「長いし暗いし人間関係ドロドロだし」
「そんな作品なの」
「読んでいて沈むわよ」
「うわ、私は絶対に読めないわ」
「あんたが読めないその作品読んでるんだけれど」
「私そんなことしろとか言ってないし」
 あくまでこう返す同級生だった。
「だからそれ文学だから」
「じゃあチャイコフスキーさんは何なのよ」
「代表作言っただけでしょ」
「聴けとは言ってないの」
「そうよ」
 それを知っているかどうかを聞いただけだというのだ。
「そこまではね」
「じゃああんた聴いてないの」
「そうよ、ましてやそんな暗い作品とか」
「読まないのね」
「絶対にね」
「じゃあ私も?」
 また言う美帆だった。
「もう読んでもなの」
「読んで自分にとっていいと思うなら読んだら?」
「いや、読めば読む程暗くなるから」
 こう返す美帆だった。
「しかもやたら長いし」
「じゃあ読むの止める?」
「止めるわよ、まだ一巻の序盤だけれど」 
 長いその作品のだ。
「読む時間歴史の本を読むのにあてるわ」
「私もそうしてるし」
「全く、今度はスターリンのこと調べるわよ」
「その人は大概よね」
「粛清とか戦争とか滅茶苦茶よ」
 スターリンはと返す美帆だった。
「何かイワン雷帝みたいよ」
「滅茶苦茶過ぎて」
「そうよ、その人のこと調べるから」
「じゃあ私は今度はトルストイさん調べるわ」
「それで私に代表作とか聞いてくるのね」
「そうよ」
 美帆ににやりと笑って言ってきた。
「楽しみにしておいてね」
「じゃあ私もトルストイさんのこと調べるから、そしてね」
 負けじという言葉だった。
「あんたにスターリンのこと聞くからね」
「じゃあ私もスターリンのこと勉強するわね」
「それじゃあね」
 こうしたことを話してだ、美帆は同級生と共にロシアの歴史のことを学んでいった。そうしてロシアのことを言い合ってだった。
 部活のロシアの歴史を学ぶ期間を過ごした、それは振り返ると彼女にとって実に楽しい時間であった。


歴女の苦労   完


                  2017・10・29

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