浪速っ娘気質
 谷四妙子は代々の大阪生まれの大阪育ちだ、だがその気質はよく江戸っ子みたいだと言われている。
「私別にね」
「江戸っ子じゃないわよね」
「大阪人よね」
「それも生粋の」
「そうよ、何で江戸っ子なのよ」
 不愉快そうに言う妙子だった。
「ちゃきちゃきとか熱いお風呂入るとかお蕎麦噛まないとか」
「葛飾とかね」
「こっちはそれ言ったら西成よ」
「そっちなのにね」
「何でか妙子ちゃんそう言われるわね」
「江戸っ子みたいって」
「そういう風に」
「性格のせいだと思うけれど」
「というか性格を言ったらね」
 それこそと言う妙子だった。
「江戸っ子が映画や漫画みたいに誰もが気風がよくてからっとしてるか」
「違うわよね」
「性格悪い奴だっているわよね」
「うちの教頭の味噌田みたいなの」
「あいつ自分でちゃきちゃきの江戸っ子って言ってるけれどね」
 その教頭の性格はというと。
「ネチネチしてて自己中でね」
「嫉妬深いっていうし」
「嫌な奴よね」
「嫌味でね」
「そんな江戸っ子もいるわよ」
「何でか大阪にいるけれどね」 
 それも不平たらたらでだ。
「そういう奴もいるし」
「江戸っ子が皆からっとしてる訳でもないし」
「だから妙子ちゃんもよね」
「江戸っ子みたいって言われると」
「違うわよ」 
 そこはというのだ。
「私は私で、しかも江戸っ子って言われると」
「絶対に違うわね」
「生粋の大阪人」
「そうよね」
「そうよ、東京には興味がないし」
 即ち江戸にはだ。
「大阪にずっといたいわ」
「大阪大好きだしね、妙子ちゃん」
「それにたこ焼きもいか焼きももね」
「どっちも好きだしね」
「大阪から離れるつもりないわよね」
「そうよ、私はずっと大阪にいるわよ」
 生まれ育っていて大好きな、というのだ。
「ここから離れるつもりないから」
「これからも」
「そうだっていうのね」
「そうよ、絶対にね」
 こう断言する妙子だった、とにかく妙子は大阪が好きでこの街から離れるつもりはなかった。それで大阪のあちこちを歩くことも好きだった。
 だがある日だ、妙子は大阪の上本町を友人達と共に歩いている時に通りがかりの人にこんなことを聞かれた。
「あの、鶴橋には何処に行けば」
「鶴橋ですか?」
「はい、そっちには」
 こう妙子達に聞いてきたのだ。
「どうしていけば」
「鶴橋の駅の方に行きたいんですか?」
 妙子はその人に聞き返した、見れば旅行客らしくその右手にはトランクがある。
「そちらに」
「はい、そうです」
 その人は妙子の問いに答えた。
「そちらに」
「それならです」
 妙子は今自分達がいる上本町のことから答えた。
「近鉄の上本町に駅に行って電車で隣です」
「あっ、隣ですか」
「そうなんです、近鉄ですと」
 この私鉄を使えばというのだ。
「上本町の隣です」
「じゃあすぐですね」
「はい、鶴橋は」
「あそこの駅の市場が凄いって聞いてまして」
「あそこは確かに凄いですね」
「大阪への旅行がてらに行って見たいと思いまして」
 それでというのだ。
「こちらに来ました」
「そうだったんですね」
「それじゃあ近鉄の上本町に駅に行けば」
「はい、そこから近鉄の電車に乗れば」
 それでというのだ。
「すぐですよ」
「有り難うございます、それじゃあ」
「あっ、上本町の駅の場所わからないですよね」 
 すぐにだ、妙子はその人が大阪とは縁のない観光客であり大阪の地理に暗いと思ってこのことを聞いた。
「そうですよね」
「地図持ってますけれど」
「いえ、それじゃあわかりにくいと思います」
 ここまで気を使っての言葉だ。
「ですから上本町の駅まで案内させてもらいます」
「いいんですか?」
「はい、私ここは地元ですから」 
 大阪の中でもだ。
「ですから案内させてもらいます」
「すいません、それじゃあ」
「こっちです」
 妙子はその人を自分から動いてその上で近鉄の上本町駅まで案内した、友人達もその彼女に無言で一緒にいてその人を妙子と一緒に案内した。
 妙子と彼女の友人達はその人を程なくして近鉄の上本町駅まで案内した、妙子はそのうえでその人に話をした。
「もうここから電車に乗ればです」
「鶴橋までですね」
「はい、すぐで」
 妙子はさらに話した。
「鶴橋の駅のすぐ下がです」
「市場ですか」
「はい、物凄く広い市場ですよ」
 その鶴橋の市場のことも話した。
「お店が多くて道も入り組んでいるから迷わない様にして下さいね」
「わかりました、本当に案内までしてくれてすいません」
「いえいえ、気にしないで下さい」
 にこりと笑って返す妙子だった、そうしてその人を駅の中、改札口の方まで案内して笑顔で別れた。
 そのうえで上本町で遊ぶことを再開したがずっと一緒にいる友人達はその彼女に暖かい笑顔で言った。
「見てたわよ」
「いいことしたわね」
「ちゃんと案内してね」
「いいことしたわね」
「いいことって当然のことじゃないの?」
 妙子はその友人達にこう返した。
「困っている人を助けることは」
「いやいや、それがよ」
「そうしない人も結構いるじゃない」
「そうした人と比べたらね」
「妙子ちゃんいいことしたわ」
「そしてそれを当然って言うことも」
「だって困った時はお互い様じゃない」
 自分も困る時があるというのだ。
「そうしたことを思うとね」
「ちゃんとなのね」
「こうした時は助け合う」
「そうすべきなのね」
「そう思うから、というかそれがね」 
 困った時には助け合う、これこそがというのだ。
「大阪でしょ」
「人情の街っていうしね」
「浪花節とかね」
「つまり妙子ちゃんには浪花節がある」
「そうだっていうのね」
「そうなる?」
 近鉄の上本町駅から少し離れたところを歩きつつ友人達に返した、日差しに照らされているそこは中学生である妙子達にはまだ早いホテルも見えるし他の建物も見える。
「私って」
「ええ、困った時はお互い様っていうから」
「それが浪花節でしょ」
「妙子ちゃんにはそれがあるわね」
「大阪人の気質が」
「いい方向のがね」
「だといいけれどね、まあ私はずっと大阪にいるつもりだし」 
 この時もこう言う妙子だった。
「これからもね」
「じゃあその性格は大事にしていくのね」
「浪花節は」
「そうしてくのね」
「そうしていくわ」
 実際にと答えた妙子だった。
「これからもね」
「それ大事にしてね」
「江戸っ子みたいって言われてもね」
「それが浪花節なら」
「大事にしていってね」
「そうするわ、江戸っ子じゃなくて浪花節、大阪の女の気質よ」
 それだと言い切った妙子だった。
「私のはね」
「つまり浪速っ娘?」
「その気質?」
「江戸っ子気質じゃなくて」
「そっちよね」
「そっちよ、神田明神じゃなくて住吉明神」
 神様はそちらだった。
「朝倉寺じゃなくて四天王寺」
「大阪はそっちよね」
「誰がどう考えてもね」
「そっちになるわよね」
「そうよ、そっちでやってくわ」
 大阪に生まれ育って大阪にいるならというのだ。
「これからもね、じゃあ今度何処行く?」
「ハイハイタウン行く?」
「あそこの一階行く?」
「あそこのゲームセンターで遊ぶ?」
「そうする?」
「そうね、じゃああそこに行って」
 友人達の言葉に乗る妙子だった。
「皆で遊ぼうね」
「このまま道行くとお寺ばかりだけれどね」
「今そっち行ってもやることないし」
「お坊さんのお話聞きに行くんじゃないし」
「かくれんぼや鬼ごっこするんじゃないしね」
 全員でこうしたことも話した。
「それならね」
「ハイハイタウンよね」
「それかあの辺りで遊ぶか」
「近鉄百貨店行くとか」
「ひょっとしたらさっきの人いるかも」
 近鉄百貨店にとだ、友人の一人が言った。
「あそこにね」
「いや、あの人もう電車に乗ってるわよ」
 妙子は先程の観光客の名前を出した友人に返した。
「流石にね」
「それで今頃鶴橋かしら」
「あそこでチヂミ食べてるかもね」
「ああ、チヂミね」
「あそこよく売ってるからね」
「じゃあ私達もチヂミ食べる?」
 チヂミと聞いてだ、この友人はこうも言った。
「そうする?」
「いや、食べるならたこ焼きにしましょう」
「たこ焼きなの」
「チヂミもいいけれどね、食べるならそっちにしましょう」
 食べるのならとだ。
「どうせなら」
「そこも大阪ね」
「妙子ちゃんは」
「たこ焼き大好きだしね」
「外で食べるっていったらそれだしね」
「だからよ、食べるならたこ焼きよ」
 こう言ってだった、妙子は友人達と共にハイハイタウンに向かった。そしてそこで遊びたこ焼きも食べた。そのたこ焼きを満面の笑顔で食べる妙子は誰がどう見ても大阪の娘だった。


浪速っ娘気質   完


                  2017・11・25

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