夢は大きく
 西どてらいは大阪のごく普通のというかむしろ偏差値が低い高校を出て今は中小企業の一社員だ、だが。
 彼の仕事ぶりを見てだ、社長は唸って言った。
「戦士だけはあるな」
「この大阪を護る二十六戦士の一人」
「それだけはあるってことですね」
「あいつは凄い奴ですよね」
「本当に」
「ああ、今だってな」
 まだ新入社員でもとだ、社長は周りの者達に語るのだった。
「バリバリ働いてるだろ」
「そして才能ありますよね」
「商売の才能が」
「閃いてそれをどうすれば出来るか考えて」
「それからどんどん動きますからね」
「まだまだ若いですが」
「あいつはやりますね」
 周りの者達も口々に言う。
「絶対に」
「やってくれますね」
「でかい会社立ててそうして」
「そこで大社長になりますね」
「ならない筈があるか、あいつはすぐに独立してな」
 この会社からというのだ。
「そしてだ」
「自分で企業家になって」
「そうしてそれから」
「どんどんでっかくなる」
「そうなっていきますか」
「それを見るのも楽しみだぜ」
 笑って言う社長だった、だが。
 ある日だ、彼はどてらいが持って来たその商談を聞いて仰天して言った。
「おい、その話はな」
「はい、当たればですね」
「大きい、百億の仕事だぞ」
 それこそとだ、社長はその顔でどてらいに言葉を返した。
「まさにな」
「ですよね、成功すれば」
「そうだ、しかしな」
「失敗すれば」
「損害は百億なんてものじゃないぞ」
「ええ、けれどです」
 どてらいは社長に明るい笑顔で言った。
「絶対にです」
「成功するってのか」
「はい」
 まさにというのだ。
「任せて下さい」
「本当に成功するんだな」
「もう全部考えてそうして」
「そのうえでか」
「成功する様にです」
「もう準備はしたか」
「はい、全部」
 その準備は整えたのというのだ。
「そうしました」
「そうか、それじゃあか」
「この仕事成功させますんで」
「わかった、そこまで言うならな」
 社長はどてらいの話を聞いて頷いた、彼が決して嘘を言う様な男ではなくでかいことを言っても根拠なく言わないことも知っているからだ。
「やってみろ」
「はい、成功させます」
「この仕事成功させたらな」
 それこそとだ、社長はこうも言った。
「うちはしがない街の中小企業からな」
「でかいですね」
「ああ、そんな会社になるぞ」
 それこそというのだ。
「まさにな」
「じゃあそうなりましょう」
「なるか」
「成功させて」
 この仕事をとだ、どてらいの声は明るいままだった。
「そうなりましょう」
「本気か」
「はい、俺は何時でも本気です」
 まさにというのだ。
「ですから用意をしていっています」
「その用意がどんなのか見せてくれるか」
 それ次第で仕事も成功する、社長はそのこともわかっておた。それでこうどてらいに言った。そしてどてらいもそれを見せた。
 するとだ、社長はその用意の細かいところまで見て言った。
「これは」
「どうですか?」
「御前ここまでしたのか」
「はい、準備あってこそですよね」
 どてらいは今も社長に明るい顔で応えた。
「仕事は成功しますよね」
「俺自身の言葉だからな」
「そうですよね、ですから」
「ここまでは」
「用意しました」
 そうしたというのだ。
「この仕事が成功する様に」
「俺だってずっとこの会社を続けてきた」
 確かに中小企業だが代々の会社を守ってきたのだ。
「仕事はわかっているつもりだ、その俺から見てな」
「この用意はですか」
「これだけ凄い用意は見たことがないぞ」
 その社長にしてもというのだ。
「これまでな」
「そうだったんですか」
「まだ入りたてだってのにな」
 この会社にというのだ。
「高校を出て、しかしな」
「これだけの用意をですか」
「出来るなんてな、この用意なら」
 それこそという返事だった。
「仕事は成功するぞ」
「百億のそれが」
「そうだ、絶対にな」 
 社長はその用意を見て確信した、そしてだった。
 彼もまたこの仕事に取り掛かった、それは会社にとってはこれまでになかった規模の仕事だったが見事にだった。
 成功し百億の収益を得た、これで会社の名も規模も段違いに上がった。会社の大きなビルが建ち社員も資本金も大幅に増えた。
 どてらいはこの仕事だけでなく他にもどんどん大きな仕事を持って来て成功させた、そうして会社は大きくなっていったが。
 その彼にだ、社長は言った。
「おい、もう御前に任せる」
「俺に?」
「そうだ、この会社御前に任せる」
 どてらいを社長室に呼んで言った。
「そうするぞ」
「いや、俺はです」
「ああ、言ってたな」
「はい、俺は自分の会社を立ち上げてです」
 その大きな目をきらきらとさせての返事だった。
「その会社を世界一にしたいんです」
「だからか」
「はい、折角の申し出ですが」
 それでもというのだ。
「お断りさせてもらいます」
「そうか、じゃあ近いうちにか」
「独立します」
 どてらいはここで言った。
「そうしてです」
「その会社をか」
「世界一にしますから」
「御前なら出来る、じゃあ御前が独立したらな」
 社長は彼に笑ってこう言った。
「その時は仕事を頼めるか」
「この会社とですか」
「ああ、御前と一緒に仕事をしたらな」
「その仕事がですか」
「凄いことになるからな」
 これまでの彼がそうしてきた様にというのだ。
「だからな」
「俺の会社とですか」
「一緒に仕事をしたいがいいか」
「喜んで、ですよ」
 どてらいは左手を拳にして自分の胸をどん、と叩いて社長に応えた。
「その時は宜しくお願いします」
「こちらこそな、じゃあ独立する時は言ってくれ」
 つまり退社するその時はというのだ。
「是非な」
「その時は」
「そうだ、その時は壮大に送ってやる」
「俺が辞めることをですか」
「いや、御前の旅立ちをな」
 それをというのだ。
「世界一の企業を立ち上げるそれをな」
「送ってくれるんですか」
「その時を楽しみにしているからな」
 彼に笑顔で言うのだった、そしてこの日から暫くしてどてらいは独立し企業した、後に大阪二十六戦士にして世界一の企業グループ西コーポレーションの会長となる西どてらいの若き日のことである。


夢は大きく   完


                 2017・12・23

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