喧嘩は弱いが
 南蛸一は大阪二十六戦士の一人だが喧嘩はからっきしなことで知られている、子供達は彼が喧嘩に弱いことからいつも思っていた。
「何であの人二十六戦士なのかな」
「そのうちの一人なのかな」
「喧嘩が弱いっていうのに」
「どうしてかな」
「戦士って強いよね」
「けれどあの人弱いのに」
「どうして二十六戦士の一人なのかな」
 大阪の街と人々を護るうちのというのだ、正確に言うと蛸一は人間ではないので一匹と言うべきである。
「不思議だよね」
「弱いっていうのに」
「何で戦士なの?」
「弱くて大阪の街護れるのかな」
「私達も」
 彼等は不思議に思っていた、そしてこのことは蛸一の耳にも入っていたが彼は笑ってこう言うだけだった。
「まあわいほんま弱いからな」
「おいおい、そこでそう言うのかい」
「弱いのを認めるのかい?」
「自分で」
「そうするのかい」
「ほんまのことやから」
 自分の屋台でたこ焼きを焼きつつ言うのだった。
「嘘はあかんから」
「それでかい」
「自分で弱いっていうのかい」
「喧嘩はからっきしだって」
「そう言うのかい」
「そや、それでもな」
 こうも言った彼だった。
「僕は弱いけどやるべきことはやるで」
「そうするんやな」
「戦士として」
「やるべきことをやる」
「そうしていくんやな」
「そのつもりや、頑張ってな」
 そうしてとだ、笑って話した蛸一だった。「皆の為にも戦うわ」
「そうか、そやったらな」
「頑張ってくれや」
「たこ焼きも焼いて」
「そのうえでな」
「そうしてくわ」
 こう言って実際にだった、蛸一はたこ焼きを焼きいざという時に備えてもいた。そしてその時は来た。
 大阪の街にかつてない災厄が来た、何と兎の姿をした異様に目つきの悪い黒とオレンジに白のユニフォームを着た者達が大阪の街に降り立ってきたのだ。
「何だあの連中は!」
「巨人の手先か!?」
「阪神の街である大阪を占領しに来たのか!」
「大阪を巨人の支配下に置くつもりか!」
「何て奴等が来たんだ!」
「ジャビーーーーーーーーーッ!!」
 邪悪な兎達は奇声を発し大阪の街に攻め込もうとしている、禍々しいGの旗を掲げそうして攻め込んで来るが。
 しかしだ、その彼等に大阪二十六戦士達が向かった。
「そうはさせないぞ!」
「大阪の街は我々が護る!」
「阪神を護れ!」
「阪神愛を護れ!」
 彼等は兎達に向かう、その中に蛸一もいたが。
 子供達はその蛸一を見てだ、心配して言った。
「えっ、蛸一が?」
「蛸一も戦うの?」
「勝てる筈がないのに」
「何で向かうの?」
「他の大阪の戦士達と違って弱いのに」
「無茶だよ」
「いや、よく見るんだ」
 大阪のあるおっさんが子供達に言った、見れば大阪の何処にでもいる様なごく普通のおっさんである。
「蛸一がこれからやることを」
「弱いのに?」
「喧嘩は誰にも勝てないっていうのに」
「たこ焼きは凄く上手で面白いけれど」
「とてもいい奴だけれど」 
 それでもと言う子供達だった。
「あの兎達凄く悪い奴だよ」
「野球も日本も自分達の好きな様にしようとしてるんだよ」
「もうどんな悪いことをしても」
「お金を使ってても暴力を振るってでも」
「そんな奴等なのに」
「大丈夫さ、蛸一は負けないさ」
 おっさんは自分の言葉にどうかという子供達に笑って答えた。
「何があってもな」
「喧嘩弱いのに?」
「それでも?」
「蛸一は負けないの」
「そうなの」
「ああ、絶対にな」
 こう言うのだった、そのうえで蛸一を見ていた。他の戦士達は兎達を次々と成敗していたが蛸一は一切戦っていなかった。
 敵の攻撃をかわして逃げるだけだ、それを見て子供達はやっぱりと思った。
「逃げてるだけじゃない」
「ただそれだけじゃない」
「蛸一戦ってないよ」
「敵の攻撃をかわしているだけだよ」
「ただかわしているだけで」
「受け止めてはいるけれど」
 その八本の手を器用に使ってだ。
「そうしてるけれど」
「攻撃してないじゃない」
「それでどうするの?」
「何にもならないよ」
「だから見ているんだ」
 おっさんの言葉は変わらない、悠然とさえしている。
「最後までな」
「かわして受けてるだけなのに」
「他の戦士の人達は敵をどんどんやっつけてるのに」
「蛸一だけやっつけてないのに」
「敵はどんどん集まって来てるよ、蛸一のところに」
 彼が弱い見て兎達もそう動いているのだ。
「それでどんどん攻めてるよ」
「あれじゃあ何時か攻撃受けるよ」
「それでやっつけられるよ」
「そうなりそうなのに」
 子供達は観ていて不安になっていた、蛸一が一切攻撃しないで敵の攻撃をかわして受けているばかりだからだ。
 だがやがてだ、攻撃をする敵が疲れてきて攻撃に使っているボールやバットがなくなってしまった。そしてそこにだった。
 他の大阪二十六戦士の者達が来て彼等を倒していく、彼等は蛸一のところに来て言った。
「今回もよくやってくれた」
「敵を引き付けてくれて有り難う」
「じゃあ後はね」
「俺達が倒すさ」
 蛸一への攻撃に疲れた敵達をというのだ、そして実際にだった。
 戦士達は兎達を倒していき大阪の街を守り抜いた、邪悪な兎達は戦力の九割以上を失い邪悪の根城であるドームに逃げ去った。
 その状況を見てだった、子供達は言った。
「あれっ、勝った?」
「勝ったの?蛸一」
「そうだね、攻撃一発も受けてないし」
「兎逃げたしね」
「蛸一自身は戦ってないけれどね」
「それにだ」
 その彼等におっさんはまた言った。
「もう一つ見ることがあるぞ」
「?何それ」
「見ることって」
「それって何?」
「一体」
「見ろ、蛸一の周りをな」
 彼がいて攻撃を受けていたそれをというのだ。
「見てみろ」
「あれっ、そういえば」
「蛸一の周り何ともなってないよ」
「あれだけ激しい攻撃を受けたのに」
「何処も壊れてないよ」
「兎達はものを壊すことも平気なのに」
 そうして自分達の目的を果たすのだ、その後に自分達の根城を築いたり他チームの選手を囲い込むこともするのだ。
「何で?」
「何であそこ何もないの?」
「他の場所は結構傷付いてるのに」
「それなのに」
「蛸一がそうした攻撃を受け止めていたんだ」
 おっさんは子供達に話した。
「それでだよ」
「えっ、そうだったんだ」
「ただかわして受けているだけじゃなかったんだ」
「大阪を傷付ける攻撃は受け止めていたんだ」
「あの八本の手で」
「そうさ、蛸一は確かに喧嘩は出来ないさ」
 それは本当に誰よりも弱い。
「けれど戦うことは出来るんだ」
「攻撃出来ないのに」
「それでもなんだ」
「そうだ、攻撃はしないが護ることは出来るんだ」
 おっさんは子供達に笑顔で話した。
「大阪の街と人達を」
「つまり僕達も」
「僕達も護ることが出来るんだ」
「そうなんだ」
「そうだ、そのことがわかったな」
 おっさんは子供達に笑顔で話した。
「あいつはそうした奴なんだよ」
「喧嘩は弱いけれど」
「それでも戦えるんだね」
「そして護ることが出来るんだ」
「今みたいに」
「そうなんだよ、しかも勇気もあるんだ」
 それも備えているというのだ。
「大阪の街とわし等を護るな」
「そういえば全然怖がってなかったよ」
「兎達に向かっていってたよ」
「喧嘩弱いのに」
「それでも」
「そうさ、弱くても大阪とわし等のピンチには絶対に出て来るんだ」
 まさにというのだ。
「大阪二十六戦士だからな」
「それでなんだ」
「勇気を以て戦って」
「そうして攻撃をかわして受け止めて」
「大阪の街も僕達も護るんだ」
「そうした奴もいるんだよ」
 笑ったままだ、おっさんは子供達にまた話した。
「そしてそのそうした奴がな」
「蛸一なんだ」
「弱いけれど勇気を以て戦って」
「そうして護るんだね」
「そうした人なんだね」
「そうだ、これで蛸一のことがわかったな」
 このことも問うたおっさんだった。
「いいな」
「うん、わかったよ」
「僕達蛸一を見直したよ」
「本当にね」
「よくわかったよ」
 皆で言う子供達だった、そしてだった。
 彼等はもう蛸一を弱いと馬鹿にすることはなくなった、そして蛸一を慕い彼と一緒に遊んだり彼が焼いたたこ焼きを食べて楽しんだ。蛸一はそんな子供達を笑顔で同じ時間を過ごしながら大阪の街と人々を護るのだった。


喧嘩は弱いが   完


                 2017・12・27

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