茶コーヒー対決
 大阪二十六戦士の一人西成茶太郎は天下茶屋の喫茶店兼茶道の家元の跡取り息子だ。その立場の為礼儀正しいだけでなくお茶にもコーヒーにも詳しい。
 その彼にだ、ある日彼が通っている高校でのある問題の解決を依頼された。
「軽音楽部で、ですか」
「今度の文化祭で喫茶店をするけれど」
 その軽音楽部の部長が茶太郎本人に言っていた。
「具体的にどういった喫茶店をするかで」
「部の中で意見が対立していて」
「どうにもならないの、部長の私も顧問の先生も間に入ってるけれど」
 それでもというのだ。
「紅茶をメインにすべきかコーヒーをメインにすべきかで」
「両方はですか」
「両方はね」
 どうにもとだ、部長は茶太郎に困った顔で答えた。
「予算はあっても」
「それでもですか」
「うちの部元々部活の休憩の時によくお茶やコーヒー飲んでいたけれど」
「ティータイムの様に」
「そっちも部活のメインだったし」
「その時からですか」
「普段は仲のいい部活だけれど」
 それがというのだ。
「はっきり分かれていたの、飲むものは」
「紅茶とコーヒーに」
「そうなの、これがね」
「そして僕にですね」
「そうなの、この問題をね」
 どうにかしてという口調でだ、部長は茶太郎に頼み込んだ。
「茶太郎君に解決して欲しいの、茶太郎君お家喫茶店で茶道の家元よね」
「はい、そうです」
「そして大阪二十六戦士の一人でもあるし」
 大阪の街と市民達を護る戦士でもあるというのだ。
「だからね、是非にとって思って」
「わかりました」
 茶太郎の返事は一言だった。
「それでは」
「有り難う、じゃあお礼はするから」
「お礼はいりません」
 茶太郎は部長のその言葉には微笑んで返した。
「別に」
「いいの?」
「僕達大阪二十六戦士の報酬は笑顔ですから」
「大阪の人達の」
「つまり皆さんの」
 それでというのだ。
「ですから」
「それでなの」
「はい、ですから」
「お礼はいいの」
「笑顔になって頂ければ」
 軽音楽部の面々がというのだ。
「それで充分です」
「それじゃあ」
「この問題、必ずです」
「解決してくれるのね」
「そうさせて頂きます」
 こう言ってだ、そうしてだった。
 茶太郎は軽音楽部が文化祭で開く軽音楽部の問題の解決に取り掛かることになった、すると彼はすぐにだった。
 軽音楽部の部室に入ってだ、すぐに彼女達に言った。この高校の軽音楽部は男子と女子に分かれていて彼が今回赴いたのは女子の方だった。
「ではです」
「これからよね」
「私達の問題解決してくれるのね」
「紅茶を出すべきかコーヒーを出すべきか」
「文化祭の喫茶店で」
「その問題を解決させて頂きます」
 こうはっきりとだ、茶太郎は言い切った。
「これより」
「じゃあお願いするわね」
「やっぱりコーヒーよね」
「いえ、紅茶よ」
「コーヒーに決まってるでしょ」
「紅茶しかないわよ」
 彼等はそれぞれ言い合う、しかしだった。
 その彼女達にだ、茶太郎は笑顔で言うのだった。
「まずは先入観を捨てて下さい」
「先入観を?」
「そうしろっていうの?」
「まずは」
「それからなの」
「はい」 
 いつもの上品な笑顔での言葉だった、同じ天下茶屋生まれでもマスコミの依怙贔屓でいい気になっている知能も人格も教養も品性も全く感じられない某ボクサーの一家とは全く違う。生き方の違いがそこに出ていた。
「そこをお願いします」
「先入観を捨てろ」
「そうしろっていうの」
「ここは」
「それからなの」
「そのことを約束してくれますか?」
 こう軽音楽部の部員達に言うのだった。
「ここは」
「ええ、じゃあ」
「茶太郎君が言ってくれるなら」
「それならね」
「そうさせてもらうわ」
「そうですか、それではです」
 部員達の言葉を聞いてだ、そのうえで。
 茶太郎は軽音楽部の部員達顧問の先生も部長も含めてだった。まずは自分が淹れた紅茶を差し出した。
 そしてだ、その紅茶を飲んでもらって言うのだった。
「どうでしょうか」
「ええ、美味しいわ」
「やっぱりこれよね」
「紅茶よ」
 まず紅茶派の娘達が言った。
「これでしょ」
「何といっても」
「流石茶太郎君わかってるわね」
「紅茶しかないって」
「他に何があるの?」
「これしかないじゃない」
 紅茶派の面々は口々に言う、しかしだった。
 茶太郎は彼女達には何も言わず今度はだった、軽音楽部の面々に口をうがいで奇麗にしてもらってからだった。
 コーヒーを出した、すると今度はコーヒー派の面々が言った。
「コーヒーよね」
「やっぱりね」
「コーヒー美味しいわね」
 先程の紅茶派の娘達と同じ笑顔で言うのだった。
「これしかないでしょ」
「やっぱりコーヒーよ」
「コーヒーにしましょう」
「茶太郎君もコーヒーよね」
「これでいくべきでしょ」
「そうですね、コーヒーを出して」
 茶太郎はコーヒー派の娘達だけでなくだった、紅茶派も含めた軽音楽部の面々全員に言うのだった。
「そして紅茶もです」
「あれっ、両方?」
「両方出すの?」
「そうするの?」
「両方なの」
「両方出すの」
「皆さんはどちらがまずいと思われました?」 
 茶太郎は彼女達に問うた。
「紅茶とコーヒーのどちらが」
「いた、まずいっていうと」
「そう聞かれるとね」
「別にね」
「どっちもまずくないわよ」
「両方飲んでみたけれど」
「そうしてみたから言えるけれど」
 部員の娘達は茶太郎に口々に答えた。
「それでもね」
「別にね」
「それぞれの味は違うけれど」
「まずいかっていうと」
「どっちも美味しいわ」
「これでお菓子があったら」
「もうどっちも最高に合いそうね」
「そうです、紅茶もコーヒーもです」
 茶太郎は部員達の話が一段落したところでさらに言った。
「それぞれ美味しいのです、ですから」
「どっちもなの?」
「喫茶店に出すべきなの」
「紅茶もコーヒーも」
「そうなの」
「片方だけしか出していない喫茶店はまずありません」
 茶太郎は喫茶店の跡取り息子としても話した、尚彼の店は紅茶もコーヒーも美味しいと評判で繁盛している。
「コーヒーの専門店でも紅茶はありますね」
「言われてみれば」
「確かにそうよね」
「紅茶のお店でもそうだし」
「コーヒーだけしかないとかね」
「紅茶だけってのもないわね」
「例えメインじゃなくても」
 それでもとだ、軽音楽部の面々も話した。
「両方あるわね」
「そうよね」
「両輪です」
 コーヒーと紅茶、両方あってというのだ。
「喫茶店やそうしたお店において」
「だからなのね」
「私達が開く喫茶店でもなの」
「紅茶もコーヒーもあるべきなの」
「両方が」
「そうです、共に美味しいのですから」 
 味は違っていてもというのだ。
「両方あるものであるべきです、ですから」
「そうなのね」
「紅茶だけ、コーヒーだけじゃ駄目なのね」
「両方があってこそ」
「それでこそ喫茶店なのね」
「共に愛する心があり」 
 茶太郎はその上品な笑みでさらに話した。
「それでこそです」
「喫茶店は成り立つ」
「そういうことなの」
「それじゃあね」
「私達はね」
「こだわるべきじゃないのね」
「そうです、コーヒーも紅茶も愛し」
 そうしてと言うのだった。
「両方を出すべきです」
「ううん、そうなのね」
「どっちかに意固地にならず」
「両方を愛して飲んで楽しんで」
「そうして出すべきなのね」
「そうすべきです」
 茶太郎は笑って部員達に話した、そしてだった。
 軽音楽部の喫茶店ではコーヒーも紅茶も出され両方共かなり売れた、お店の売り上げはこの二つを軸としてかなりのものになった。部長はその結果を受けて茶太郎に満面の笑みで言った。
「有り難う、茶太郎君のお陰でね」
「お店はですか」
「大成功だったわ」
 そうなったというのだ。
「無事にね」
「それは何よりです」
「正直ね、紅茶かコーヒーだけだと」
「お店は成功していなかったですか」
「そうなっていたかも知れないわ」
「喫茶店をされるならです」
 茶太郎は部長に微笑んで述べた。
「やはりです」
「紅茶だけでも、コーヒーだけでもなのね」
「足りません、両方あってこそです」
 まさにとうのだ。
「喫茶店として成り立つのです」
「そうなのね」
「ああしたお店をされるなら」
「両方ないと駄目ってことね」
「ご自身が飲まれる分にはどちらかだけでもいいです」
 その場合はというのだ。
「個人の好みですから、ですが」
「それでもなのね」
「喫茶店は違います、ですから」
「茶太郎君はああしてなのね」
「皆さんに両方を飲んで頂き両方の美味しさを知ってもらい」
 そのうえでというのだ。
「出してもらったのです」
「そういうことね」
「そしてお店が成功したことは」
 茶太郎は部長に微笑んで話した。
「何よりです」
「そうね、本当によくわかったわ」
「喫茶店にはどちらも必要ということが」
「わかったわ、それじゃあ今日はお礼にね」 
 部長は茶太郎にその笑顔を向けてこうも言った。
「うちの部活に来て」
「お礼はいいと」
「笑顔ならいいわね、有り難うって言いたいの部の皆で」
「そういうことですか、では」
「来てくれるわね」
「喜んで」 
 それならとだ、茶太郎は応えた。応えたその時の顔は上品な笑顔だった。


茶コーヒー対決   完


                 2018・1・26

作者の作品一覧 クリエイターページ ツイート 違反報告
{"id":"nov151697680880465","category":["cat0004","cat0008","cat0015"],"title":"\u8336\u30b3\u30fc\u30d2\u30fc\u5bfe\u6c7a","copy":"\u3000\u7d05\u8336\u304c\u3044\u3044\u304b\u3001\u30b3\u30fc\u30d2\u30fc\u304c\u3044\u3044\u304b\u3002\u897f\u6210\u8336\u592a\u90ce\u304c\u51fa\u3057\u305f\u5224\u5b9a\u306f\u3002\u81ea\u5206\u306e\u30ab\u30b7\u30ad\u30e3\u30e9\u3067\u4e00\u4f5c\u66f8\u304b\u305b\u3066\u3082\u3089\u3044\u307e\u3057\u305f\u3002","color":"#555567"}