スウィートトラップ
 文ノ里麻里子は酒が好きだ、その酒は甘い酒が好きでだ。
 この麻里子は大学の友人達と一緒に千日前のある食べ放題飲み放題のある居酒屋で飲んでいた。その時にだ。
 麻里子は甘い酒、カシスオレンジ等を頼んで飲んでいた。友人達はその麻里子に対して笑って話した。
「麻里子ちゃん本当に甘いお酒好きよね」
「さっきはカルーアミルク飲んでたし」
「今度はカシスオレンジだし」
「本当に甘いお酒好きよね」
「ええ、というか甘くないと飲めないの」
 麻里子は友人達に笑って話した、肴にしているのはししゃもだがそれでも飲んでいる酒は甘いものだった。
「私はね」
「だからなの」
「甘いお酒しか飲まないのね」
「カシスオレンジにしてもカルーアミルクにしても」
「そういうの飲んで」
「それでなのね」
「そう、これを飲んで」
 ここで麻里子はカシスオレンジを飲み終えた、そうしてだった。
 店員に今度はファジーネーブルを頼んだ、そしてその酒を飲んでまた友人達に言った。
「楽しんでるの、逆にビールとかウヰスキーはね」
「飲めないのね」
「そうしたお酒は」
「苦いのとかは」
「どうしてもなの」
「そうなのよね、もう甘くないと」
 そのジュースの様な酒をのみつつ話した。
「駄目なのよ」
「ううん、好みにしてもね」
「麻里子ちゃんはちょっと極端?」
「飲んでるお酒全部甘いし」
「殆どジュースじゃない」
「そうそう、ファジーネーブルにしても」
 麻里子が飲んでいる酒はというのだ。そしてだった。
 友人達はそれぞれの酒を飲みつつだ。麻里子にこうも言った。見れば肴もそれぞれでめいめい好きなものを食べている。
「甘いしね」
「甘いお酒だけっていうのも」
「ちょっと極端?」
「まあ一種類のお酒しか飲めない人もいるしね」
「焼酎だけ、ビールだけとかね」
「そう考えたら麻里子ちゃんは飲めるレパートリー多いかしら」
「そうかも知れないけれどとにかく私が飲めるお酒は」
 また言う麻里子だった。
「甘いお酒だけなの」
「じゃあワインも?」
「ワインも甘くないとアウトなの」
「そうなの」
「そう、ちょっとね」
 どうにもと言ってだ、そしてだった。
 麻里子はファジーネーブルの後はカルピスサワーを飲んだ、この日麻里子はかなりの酒を飲んだが全部甘い酒だった。それは家でも変わらず。
 柿の種を肴に澄みわたるぶどう酒や梅酒を飲んでいた、その麻里子に父親がどうかという顔になって言った。
「飲むなとは言わないけれどな」
「甘いお酒ばかりっていうのね」
「ああ、御前本当にそういうのばかり飲むな」
「というか飲めないの」
 まさにというのだ。
「苦いお酒とかは」
「ビールもか」
「そう、ビールはもうね」
 絶対にとだ、麻里子はロックにしているのでよく冷えている澄みわたる梅酒を飲みながらビールの缶を空けた父に答えた。
「それこそね」
「絶対に無理か」
「日本酒もね」
「日本酒はまだ甘いだろ」
「辛いのもあるじゃない」
 それでというのだ。
「だから飲めないの」
「それでそういうのばかり飲んでるんだな」
「駄目じゃないでしょ」
「酒は酒だ、まあビールも飲み過ぎるとな」
 父はテーブルでいつも自分が座っている席に座ってコップにビールを注ぎ込みつつ娘に話した。
「痛風になるしな」
「痛風って滅茶苦茶痛いのよね」
「らしいな、だからならない様にプリン体ゼロのを飲んでるんだよ」
 そうしたビールをというのだ。
「そうしているんだよ」
「そうなの」
「ああ、今飲んでいるビールだってそうだ」
 こう言いつつ飲むのだった。
「これだってな」
「健康には気をつけてるのね」
「さもないとな」
 それこそと言うのだった。
「本当に痛風になるからな」
「だからなの」
「飲む量だってな」
「考えてるのね」
「アルコール中毒もあるしな」
「私そんなに飲んでないわよ」
「それはいいな、気をつけろよ」
 ここでこう娘に言う父だった。
「本当に飲み過ぎたら色々あるからな」
「アルコール中毒とか」
「ああ、他にもあるしな。特にな」
「特に?」
「御前はもう一つ注意することがあるからな」
 甘い酒を飲み続ける麻里子に言うのだった。
「そこも注意しろよ」
「もう一つって?」
「わかるだろ、御前は毎朝走って他にも色々身体を動かしてるけれどな」
 こうも言う父だった。
「それでも気をつけろよ」
「わかったわ、太るっていうのね」
「ああ、そこも気をつけろよ」
「大丈夫よ、毎日飲んでる訳じゃないし」 
 麻里子は父に笑って返した。
「それに本当に毎朝走ってて大学でもよく身体動かすし」
「だからだっていうんだな」
「カロリー消費してるから」
「それでも気をつけろ」
 父はビールを飲みながら娘に忠告を続けた。
「甘い酒にはな」
「飲み過ぎて太ることにな」
「油断しないでな」
「心配性よ、お菓子はそんなに食べてないし」
 麻里子は自分で空になったコップに澄みわたるぶどう酒を飲みつつ言った。
「お酒だけじゃね」
「そう言うがな」
「注意しろっていうのね」
「ああ、本当にな」
 父はビールを三五〇ミリリットルの缶一本で止めてだ、そうして席を立った。だが麻里子は五〇〇ミリリットルの瓶を三本空けた。ぶどう酒に梅酒に桃酒を一本ずつ飲んだ。
 麻里子はとにかく甘い酒ばかり飲んだ、時々ではあるが飲む時はかなり飲んだ。だがお菓子等甘いものはあまり食べていないので太ることはないと思っていた。
 だがある日友人達と共にスーパー銭湯に行って入浴前に体重を測ってだ、思わずこの言葉を出してしまった。
「太ったわ」
「太ったってどれ位?」
「どれ位太ったの?」
「三キロよ」
 友人達に落ち込んで声で話した。
「これがね」
「三キロって結構じゃない」
「毎朝走って色々動いてるのに」
「それでもなの」
「三キロも太ってたの」
「前に測った時と比べてね」
 それは三ヶ月程前だ、麻里子は自分の体重はあまり測らない方なのだ。
「それだけ太ったわ、何でかしら」
「それお酒のせいよね」
「絶対にそうよね」
「麻里子ちゃん最近結構飲んでたし」
「だからよ」
「三キロ太ったのよ」
 友人達は麻里子にそれぞれ語った。
「それだけね」
「太っちゃったのよ」
「ジュースみたいなものなのに」
 麻里子はこうも言った、尚ジュースも結構好きである。
「それでもなの」
「何言ってるの、ジュースの方が危ないのよ」
「お菓子よりもね」
「そっちの方がトータルで糖分多いのよ」
「お菓子は一個一個だけれどジュースとかはごくごく飲むじゃない」
「しかも麻里子ちゃん水分摂取多いし」
 動いていて汗もかくからである。
「その分よ」
「甘いお酒のせいよ」
「そこにジュースもプラスされてね」
「それで三キロ太ったのよ」
「絶対にそうよ」
「脂肪率だし」
 体重計を見ればそれも出ていた、三キロ太った分だけ脂肪率も増えていた。これを見れば明らかであった。
 それでだ、麻里子は父に言われた言葉を思い出して友人達に言った。
「甘いお酒も考えものね」
「だってその甘さって糖分だし」
「甘い分糖分が入ってるから」
「糖分イコール太るだし」
「そこは注意しないとね」
「そうね、ジュースだってね」
 深刻な顔で頷く麻里子だった。
「甘いし。これからは注意するわ」
「さもないともっと太るからね」
「三キロだとまだ何とかなるけれど」
「これからダイエットしたらね」
「ええ、いや甘いものはそれ自体が罠ね」
 麻里子はタオル一枚身体に包んだ姿で言った、他の友人達も同じだ。
「よくわかったわ、それじゃあね」
「ええ、これからはね」
「甘いものには注意よ」
「お酒でもね」
 友人達もこう言う、麻里子はこの日サウナでじっくりと汗をかきそうしてだった。次の日からジュースを控える様になり運動の量を増やした。ダイエットの間酒も飲まなかった。そうして三キロのダイエットを達成してだった。
 麻里子は甘い酒についてはこれまでとは違い考えて飲む様になった、むしろ甘くても梅酒やそうしたワインを飲む様になった。
 それで家で甘めのワインを飲んでいる麻里子にだ、父は笑って言ってきた。
「わかったみたいだな」
「ええ」
 麻里子はグラスで赤ワインを飲みつつ父に答えた、肴はチーズだ。
「よくね」
「そうだな」
「甘いお酒には罠があることがね」
「太るからな、下手に飲むと」
「そうね、もうジュースはあまり飲まない様にしてるし」
「甘いお酒もだな」
「考える様にして飲んでるわ」
 今の様にというのだ。
「ワインや梅酒を増やしてね」
「そうした方がいい、甘いものにはな」
 父はケーキを食べつつ娘に言った。
「御前が今言った通り罠があるんだよ」
「食べ過ぎたら太るのね」
「そうさ、わかったらいいな」
「ええ、これからは考えて飲むわ」
 ワインを飲みつつ言う麻里子だった、そのワインは甘く美味しいがそれでもいささか苦く渋い味がした。


スウィートトラップ   完


                 2018・3・22

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