ヘビメタ書道
 玉川早百合は書道三段の腕を持っていて今度は四段に挑戦しようと考えている、だがどうにもだった。
 最近スランプを感じていてだ、部活で書いていても言うのだった。
「何かね」
「調子が出ないですか」
「そうなの」
 後輩の娘にもこう返した。
「どうもね」
「そうは見えないですけれど」
「何かこれまで通りの字でしかなくて」
「もっと上手な字にですか」
「なりたいの、けれどどんな書体で書いても」
 それでもというのだ。
「何かね」
「違うっていうんですか」
「ええ」
 こう後輩の娘に答えた。
「何か自分の殻っていうか限界をね」
「突破出来ないんですか」
「そうなの、幾ら書いてもね」
 そうして練習をしてもというのだ。
「そんな気がするのよ、またコンクールだってあるのに」
「そのコンクールにもですか」
「こんなのだとね」
 どうにもというのだ。
「駄目かも」
「ううん、スランプってことですね」
「実際それ感じてるわ」
「あれですね、周りは別にと思っていても」
「こうしたことは自分がどうかでしょ」
「はい」
 その通りだとだ、後輩の娘も答えた。
「そうですよね」
「だからね、今ね」
「スランプをですか」
「乗り越えられなくてね」
「苦しいですか」
「幾ら書いても。家でそうしても」
 部活だけでなくというのだ。
「休日なんか朝から晩までって感じで書いてるけれど」
「凄いですね」
「そうしていてもなのよ」
「駄目ですか」
「出来てないわ」
 実感としてそう感じているというのだ。
「どうもね」
「ううん、深刻ですね」
「書道についてはね、あと数学はね」
 勉強のことも言う早百合だった。
「また追試だったわ」
「それは先輩の場合いつもじゃないですか?」
「ええ、文系はどれもまた学年トップクラスだったけれど」
「数学はですね」
「赤点だったから」
「それはスランプじゃないんじゃ」
「いつも通りね」
 自分にとってはとだ、早百合は今度は自分から言った。
「そっちは」
「そうじゃないですか?」
「それじゃあこっちはいいわね」
「はい、けれどスランプですか」
「どうもね」
「それじゃあたまに気分転換とかどうですか?」
 後輩の娘は書き続ける先輩にこう提案した。
「それなら」
「歌留多や読書ならしてるけれど」
「他にもですよ、音楽を聴いたり」
「音楽ね。そういえば最近そっちは」
「されてないですよね」
「ええ」 
 その通りだとだ、早百合は答えた。
「言われてみればね」
「じゃあここはですよ」
「音楽ね」
「はい、それで気分転換もして」
「そうしてなのね」
「やっていけばいいんですよ」
「そうね、じゃあね」
 早百合は後輩の娘の言葉を受けて言った。
「今日お家に帰ったら久し振りに聴いてみるわ」
「そうされて下さいね」
「そこから何か出て来るかも知れないし」
 スランプ脱出の閃き、それがというのだ。
「瓢箪から駒って感じでね」
「そうですよ、ですから」
「ええ、聴いてみるわ」
「そうして下さいね」
 後輩の娘は早百合に笑顔で言った、こうしてだった。
 早百合は家に帰るとすぐに自分の部屋に入って部屋着に着替えてだった。そのうえで。
 自分が好きなパンクやメタル等を聴いた。するとこれまで強張っていた気持ちがほぐれていく感じがしてきた。
 そしてヘビメタを聴いてだ、ふとだった。
 これを聴きながら書いてみようと思った、すると。
 聴きながら書いた字は違っていた、それでだった。
 音楽を止めてもその字を書いていった、それでその日は勉強に入るまでに必死に書いていった。そのうえで。
 次の日部活でその字を書いてだ、後輩の娘に見せると後輩の娘も言った。
「あっ、何か昨日までの字と」
「違うでしょ」
「ぶっ飛んだ感じが入ったっていうか」
「そんな感じ?」
「ええ、そう思います」
 早百合の今の字はというのだ。
「昨日までは何か」
「何か?」
「杓子定規っていうか型に嵌った」
「そんな字だったの」
「はい、ですが今の先輩の字は」
「そこから出て」
「あえて自由にぶっ飛んだ」
 そうした字になっているというのだ。
「面白いですよ」
「そうなのね」
「これならいけると思いますよ」
「コンクールに?四段に?」
「どっちもです、それじゃあまずはですね」
「ええ、コンクールよ」
 先にそれがあるからだ。
「書いたのを出してみるわね」
「そうされて下さい」
「そうするわね」
 早百合も笑顔で頷いた、そうしてコンクールに出品すると入賞した。それで早百合は後輩の娘に笑顔で言った。
「よかったわ、実はね」
「実は?」
「ええ、貴女に言われて音楽を聴いてね」
「それで、ですか」
「ヘビメタを聴いててね」
 好きな音楽の一つのこれをというのだ。
「聴きながら書いてみようと思ったら」
「そこからですか」
「書ける様になったのよ。いやまさかね」
 こうも言う早百合だった。
「書道とヘビメタが合わさるなんて」
「普通絶対にない組み合わせですよね」
「ええ、けれど書いてみたら」
 そのヘビメタを聴きながらそうすると、というのだ。
「書けたのよ」
「よかったですね」
「合わない様に思える組み合わせでも時としてね」
「そこから思わぬものが出るんですね」
「本当にあれよ」
「瓢箪から駒ですね」
「実際にあるのね」
 こうしたことがというのだ。
「いや、本当にね」
「やってみるものですね」
「気分転換もね、そうすればね」
「そこから何か得られますね」
「そうね、じゃあ四段の方もね」
「頑張ってですね」
「なってみるわ」
 後輩の娘に笑顔で話した。
「絶対に」
「頑張って下さいね」
「ええ、それじゃあ今日はお祝いに」
 早百合は笑顔で後輩の娘に話した。
「抹茶アイス買ってね」
「食べるんですね」
「そうするわ」
 好物のそれをというのだ。
「帰ったらね」
「いいですね、抹茶アイスですか」
「それ買うわ、それもハーゲンダッツね」
「高いですけれど」
「あえて買ってね」
「お祝いですね」
「そうするわ」
 笑顔で言ってだ、そのうえでだった。
 早百合はまた書くのだった、へビメタを聴いてから書ける様になったその字を。


ヘビメタ書道   完


                  2018・3・25

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