奇麗な爪
 新深江友美の爪はいつも短い、ただその爪を見てある日友人の一人が友美にこんなことを言ってきた。
「友美ちゃん爪絶対に伸ばさないわね」
「ええ、爪を伸ばすことはね」
 どうしてもとだ、友美はその友人に答えた。
「私嫌いなの」
「そうみたいね」
「だってね」
 友美は友人にこう言った。
「伸ばしてるとペンとか書きにくいし」
「爪が引っ掛かって」
「それで家事してる時とか何か持った時にね」
 そうした何でもない時にというのだ。
「引っ掛けてね」
「はがれたりするから」
「そうなったら痛いと思うから」
 それでというのだ。
「私伸ばさないの」
「そうなのね」
「というか爪伸ばす人って」
 今度は友美から言ってきた、微妙な顔になって。
「怪我しないの?」
「どうかしらね」 
 見ればその友人も爪は短い、奇麗に切ってある。
「やっぱり何かと作業しにくいでしょ」
「そうよね、爪が長いと」
「部活でも何か持つじゃない」
「どんな部活でもね」
「そうした時にね」
 部活の準備等ごく有り触れた作業の時でもというのだ。
「本当にね」
「引っ掛けたりして」
「怪我するから」
 だからだというのだ、友人も。
「私も切ってるしね」
「そうでしょ、というか伸ばしてはがしたら」
 またこう言う友美だった。
「怖いからね」
「絶対になのね」
「私は伸ばさないわ」
 爪はというのだ、だからギャル風の派手な外見でも爪は伸ばさないのだった。だがある日登校の時電車に乗っている時に。
 たまたま隣に立っていた女の人の爪が見えた、その爪はかなり伸びていて奇麗に紅のマニキュアが塗られていた。
 その爪を見てだ、友美は学校に来てからクラスの友人達にその人のマニキュアの話をしたのだった。
 そうしてだ、こう言った。
「爪伸ばしてマニキュア塗ってたけれど」
「そりゃそうした人もいるでしょ」
「ファッションでね」
「中にはネイルアートする人もいるし」
「それ位普通でしょ」
「ああした人見る度に思うけれど」
 正確に言えばその人の爪である。
「はがしたりしないかしら。それにマニキュア塗ってもね」
「マニキュア?」
「マニキュアがどうかしたの?」
「色がはがれたりしない?あと乾くまで何も出来ないし」
 爪に塗ってからというのだ。
「そうなるから」
「大変じゃないか」
「そう言うのね」
「ええ、爪伸ばして塗って」
 そこまでしてというのだ。
「するものかしら」
「だからそれは人それぞれでしょ」
「塗る人も塗らない人もね」
「人好き好きで」
「爪伸ばしたい人もいて」
「マニキュア塗りたい人もいるでしょ」
「そうなのね。どうしてもね」
 友美は首を捻ってこうも言った。
「私にはね」
「縁がないことっていうのね」
「爪を伸ばしたりマニキュアを塗ることは」
「どうしても」
「ええ」
 その通りだというのだ。
「本当にね、伸ばしていくだけでも」
「駄目っていうの」
「それは出来ないの」
「どうしても」
「ええ。本当にそんなことをしても」
 頭の上にクエスチョンマークを出さんばかりの顔であった、その顔で友人達に対してさらに言うのだった。
「怪我しないか。マニキュアが乾くまでの間何かあったら」
「心配になるの」
「どうしても」
「そうなるの」
「ええ」 
 その通りだというのだ。
「私はね。けれど爪も」
「爪?」
「その爪が?」
「ええ、爪が奇麗だとね」
 ここで友美は自分の爪を見た、そのうえでの言葉だった。
「やっぱりいいのかしら」
「ああ、それはね」
「ネイルアートってあるしね」
「爪にペインティングする人いるから」
「マニキュアより遥かに凄くてね」
「伸ばしもして」
「そうよね、そんなにいいのかしら」
 友美はまた首を傾げさせて言った。
「爪が奇麗だと」
「そうかもね、ただね」
「そうよね」
 友人達は友美の今の口調からあることに気付いた、それで彼女に言った。
「友美ちゃん自分爪が汚いみたい」
「そんな風に言ってるけれど」
「そんなに汚い?」
「友美ちゃんの爪って」
「友美ちゃん自身が言う様な」
「汚い?」
「あっ、別に」
 友美は友人達の今の言葉に驚いて返した。
「そんなこと言ってないわよ」
「そう?だったらいいけれど」
「別にそう思ってないならね」
「それならね」
「いいけれど」
「いや、ネイルアートっていうから」 
 アート、つまり芸術と言われるからだというのだ。
「そう言っただけで」
「ありのままでもいいでしょ」
「そうそう、アートをしてもね」
「短くしていてもいいし」
「何も塗らなくてもね」
「そうしてもいいでしょ」
 友人達は口々に言う、そして。
 友美にだ、友人達はこうも言った。
「ちょっと手を見せて」
「友美ちゃんの手をね」
「そうして」
「ええ、それじゃあ」
 友美は友人達に素直に応えてそうしてだった。
 自分の両手を差し出して見せた、友人達もその手を見てだった。そのうえでその手の持ち主に言った。
「奇麗じゃない」
「ピンク色でね」
「付け根の三日月のところもはっきりした白で」
「ピンクと白の対比がしっかりしてて」
「奇麗な爪じゃない」
「ちゃんと切られてるから割れたりヒビも入ってないし」
 そうしたこともなくてというのだ。
「いい爪じゃない」
「健康美があるわよ」
 アートはないがというのだ。
「まあ手全体を見ればさかむけとかあって」
「結構そこが気になるけれどね」
「爪自体は奇麗よ」
「先の白い部分もないし」
 これは丁寧に切られてるからだ。
「いい爪じゃない」
「何も問題なし」
「いい爪よ」
「それも十本共ね」
「そうなの。それじゃあ」
 友美は友人達のその言葉を受けて言った。
「この爪はこのままでいいのね」
「全然いいわよ」
「こんないい爪他にないから」
「だからね」
「そのまま短いままでいいわよ」
「友美ちゃんはね」
「そうね、それじゃあね」
 友美も友人達の言葉に励まされ確かな顔で頷いた、
「私このままでいくわね」
「ええ、それがいいわ」
「友美ちゃんも切りたくないっていうし」
「それならね」
「このままでいくといいわ」
「そうよね、あと切り方だけれど」
 友美はこれの話もした。
「皆どうして切ってるの?爪は」
「いや、それは爪切りでしょ」
「爪切りはその為のものだし」
「普通に爪切りで切ってるでしょ」
「違うの?」
「私足の指は爪切りで切ってるけれど」
 それでもと言う友美だった。
「手は削ってるの」
「爪切りにあるヤスリの部分で」
「そうしてるの」
「切るんじゃなくて削ってるの」
「そうしてるの」
「そうなの。ちょっと先が白くなると」 
 つまり伸びればというのだ。
「その時点でね」
「削ってなの」
「そうしてるの」
「いつも」
「手の指は」
「ええ。けれど皆切ってるのね」
 爪切りでとだ、友美は言った。
「そうしてるのね」
「ううん、それ自体がアートじゃ」
「爪をいつも削って短くしてるって」
「普通爪切りで切って終わりなのに」
「そこをそうしてるってね」
「手間がかかるのに」
「友美ちゃんそれ凄いわよ」
 友美に口々に言うのだった。
「それをしてるなんて」
「ちょっと伸びたら削るとか」
「何か友美ちゃんの爪の秘密見たわ」
「ヒビとか欠けてるところがないことが」
「本当にね」
「そうした努力の賜物ってことね」
「そうなるかしら」
「伸ばすんじゃなくて削る」
 それがというのだ。
「本当にね」
「それは滅多にね」
「出来ることじゃないから」
「そうかしら」
 友美本人はこう言った。
「私本当にね」
「ちょっと伸びてたなのね」
「削らずにはいられない」
「性分としてそうなの」
「だから別に凄いとは思わないわ」
 このことはというのだ、こう言ってだった。
 友美は自分の爪を見た、今見るとよく整い奇麗なものだった。それでこれからもこうした爪を維持しようと思ったのだった。


奇麗な爪   完


                 2018・4・22

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