信じてはいけない
 北巽伊代には悪い癖がある、それは読んだり聞いたりしたことを鵜呑みにする傾向があるということだ。
 それでだ、ある日伊代は部活の途中に同級生達にこんなことを言った。
「何か予言ではね」
「予言?」
「予言ってノストラダムスとかの」
「そうなの。ブルガリアに何か凄い予言者がいて」
 それでというのだ。
「その人が第三次世界大戦起こるっていうの」
「第二次世界大戦から随分経つけれど」
「三度目もあるの」
「そんな予言なの」
「何かロシアが核兵器使って」 
 伊予はかなり真剣な顔でその予言の話をしていった。
「それで世界が滅亡するっていうの」
「核戦争になるのね」
「ロシアが戦争起こして」
「そうだっていうの」
「それでロシアが世界を征服するらしいの」
 そうした結末になるというのだ。
「何でもね」
「それならないでしょ」
「幾ら何でもね」
「確かにロシアの大統領怖いけれど」
「漫画やゲームのボスキャラみたいだけれど」
 そうした外見や経歴だというのだ、何しろ元秘密警察の工作員で殺人格闘技を習得しているというからだ。しかも圧倒的な強権を以て国を治め暗殺だの何だのいう話が尽きない人物だ。
 だからだ、同級生もその大統領についてはこう言った。
「冗談で倒すとか言ったらね」
「その時点で何されるか」
「そんな怖い人だけれど」
「予言はね」
「幾ら何でもね」
「ないでしょ」
「世界を滅亡させるとか征服するとか」
「ちょっとね」
「そうなの?私このお話聞いて本当に怖かったけれど」
 伊予は同級生達に言った、共に学校のグラウンドを走りながら。走るスピード自体はかなりのものである。
「ならないの」
「ならないでしょ」
「ロシアが核戦争を起こすとか」
「何かの漫画じゃないから」
「そりゃ確かにあの大統領何しても不思議じゃないけれど」
「あの目はやばい人の目ってうちのお祖父ちゃん言ってたしね」
 ヤクザの親分より危険な人間の目だというのだ、まさに独裁者の目だとだ。
「あのアメリカにも中国にも平気で対決してるし」
「容赦なく軍隊送るしね」
「そんな人にしても」
「核兵器は使わないでしょ」
「流石に」
「そうなのね。じゃあこの予言は」
 ブルガリアの予言者がしたということはというのだ。
「当たらないの」
「というか予言って当たるの?」
「後で言うパターンも多いわよ」
「何処かで自信があったとかね」
「強引なこじつけで言ってる人も多いし」
「はっきり言ってる予言ってないし」
「そうそうね」
 だからだというのだ、こう話してだ。
 同級生達は予言はないと言い切った、伊予は彼女達の言葉を聞いて幾分か不安が取り除かれたがそれでもだ。
 完全には取り除されておらず家でも仕事から帰ってきた父にその予言の話をした。すると父は笑ってこう言った。
「それはないさ」
「人類は滅亡しないの」
「するものか」
 笑って娘に言うのだった、言いつつビールを飲んでいる。
「何があってもな」
「絶対になの」
「そんな予言昔からあったんだ」
「昔からなの」
「ノストラダムスとかな」
「その人は私も知ってるわ」
 ノストラダムスと聞いてだ、伊代も答えた。
「諸世紀って本書いた人よね」
「ああ、それでお父さんが子供の時とか大有名人だったんだ」
「そうだったの」
「誰でも知ってる位なな」
 そうだというのだ。
「凄い有名人だったんだ」
「じゃあその人の予言も」
「誰でも知っていたんだ、人類が滅亡するってな」
「そう言ってたの」
「一九九九年七月にな」 
 父はこの年と月を暗唱する様に言った。
「人類が滅亡するってな」
「そう言ってたの」
「ああ、しかしもう一九九九年七月は過ぎたな」
「私が生まれるずっと前じゃない」
 それこそとだ、伊代は父に言った。
「人類が滅亡しなかったから私もお姉ちゃんもいるんじゃない」
「そうだよな」
「じゃあノストラダムスの予言は」
「外れたんだよ、他にも大勢予言者がいたんだよ」
 父は娘にさらに話した。
「エドガー=ケイシーとかジーン=ディクソンとかな」
「そうした人達もいたの」
「もうやたら人類が滅亡するって言ってたんだ」
「そうだったの、けれど」
「今もあるよな、つまりそうした予言はな」
「外れるものなの」
「そうした大袈裟なことを言えば皆注目するだろ」
 人類滅亡、大袈裟と言うにはこれ以上はないまでのものだ。
「そうだろ」
「ええ、確かにね」
「それで注目されて本を買ってもらう為にな」
「書いてるの」
「そうした本が大抵だからな、予言の本は」
「じゃあ信じたら駄目なの」
「十年位前の予言見ればわかるさ」
 それ位前のというのだ。
「ネットでも古本屋でもあるからな」
「そうしたところで読めばいいのね」
「昔の予言をな。それ観たら全部と言っていい位外れてるさ」
「そういうものなの」
「どうしても気になるなら伊代が自分で調べるんだ」
 父は娘にくつろいだ顔で話した。
「わかったな」
「ええ、そうしてみるわ」
 伊予は父の言葉に頷き実際に姉と一緒に使っているパソコンで昔の予言をチェックしてみた、すると父の言った通りで。
 もう予言を信じることはなくなった、信じるだけ心が不安になると思ってだ。それでもう信じなかった。
 だがそれでもだ、伊代は関西で大人気のあるスポーツ新聞の記事をコンビニに入った時にちらりと見g手学校のクラスで友人達に言った。
「今年の阪神の若手凄いらしいわね」
「えっ、本当!?」
「そんなに凄いの?」
「投打にかなりの人が成長してきていてね」
 その新聞の一面のちらりと見た記事を見て言うのだった。
「今年はその若手の力で日本一も出来るそうよ」
「それはいいわね」
「今年はかなり期待出来るわね」
「優勝ね」
「日本一ね」
「出来そうよ、阪神今年はね」
 まさにというのだ。
「日本一になれそうよ」
「楽しみね」
「去年も一昨年も残念だったけれど」
「今年は兄貴監督胴上げね」
「それが出来るのね」
「ええ、ペナントははじまったばかりでもファームはそうらしいから」
 多くの若手が絶好調だというのだ。
「その人達が一軍に上がったら」
「もう一気にね」
「連勝街道驀進で」
「巨人だろうが何だろうが蹴散らして」
「日本一ね」
「そうなるわ、本当に楽しみよ」
 笑顔で言う伊代だった、予言は信じなくなったがこうした話はあっさりと信じていた。だがそれは彼女の友人達も同じなので特に問題になることはなかった。別に信じて悪い話でもなかったこともあって。


信じてはいけない   完


               2018・4・22

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