声をかけられない理由     
 芸能界は何かと色々あると言われている、それこそスキャンダルといえば芸能界である。だがトップアイドル熊内川瑠衣その芸能界でもとりわけ注目されている彼女にはそうした噂は希薄だ。
 このことについてだ、某スポーツ新聞の芸能担当の記者は先輩にこんなことを言った。
「瑠衣ちゃんですが」
「あの娘の新曲人気あるよな」
「はい、あの娘もう何年もトップアイドルですが」
「中学生の頃にデビューしてな」
「今もですが」
 それでもというのだ。
「浮いた噂全然ありませんね」
「そのことか」
「うちはゴシップ扱わないですが」
 この新聞の芸能欄は芸能人のいいことばかりを書く、ゴシップは対象外だ。
 しかしだ、記者はそれでも思うのだった。
「あの娘本当にです」
「変な話がないことはか」
「十年以上芸能界にいてですよ」
 そしてというのだ。
「しかもあれだけ注目されているのに」
「全然浮いた噂がないことはか」
「変って言えば変ですね」
「男の噂ないな」
「あれだけ美人でスタイルもよくて」 
「タレント性も抜群でな」
「何でそんな話がないのか」
 スキャンダルと人気は比例する、人気があるとそれだけ注目されて何かあると話題になる。それでスキャンダルも出るのだ。
 しかしだ、瑠衣はそうした話が一切なくてなのだ。記者も今デスクでどうしてかという顔で言うのだった。
「不思議ですね」
「それな、一度な」
「一度?」
「あの娘を取材すればわかるよ」
 先輩はこの記者にこう言った。
「それだけでな」
「そうですか」
「ああ、今度行って来い」
「瑠衣ちゃんの取材にですか」
「新曲がヒットしてるからそれのインタビューでな」
 それでというのだ。
「行って来い」
「じゃあそうさせてもらいます」
 記者も頷いた、そしてだった。
 彼は瑠衣のインタビューに行くことになった、瑠衣は最初から礼儀正しくハキハキとした応対をしてくれたが。
 プライベートの話題になるとだ、記者はいきなり閉口した。
「えっ、ペットは蛇なんだ」
「そうなんです」
 にこにことして言う彼だった。
「白い、アルビノのアオダイショウとカラスヘビです」
「カラスヘビっていうと」
「黒いシマヘビです」
「白と黒なんだ」
「二匹ともとても可愛いんですよ」
 瑠衣は記者ににこにことして話した。
「いつも一緒にいます」
「そ、そうなんだ」
 記者は内心引きながら瑠衣に応えた。
「それは何よりだね」
「お家にいても寂しくありません」
「それは何よりだね、じゃあ後は」
「後はといいますと」
「丁度お昼だし瑠衣ちゃんも忙しいし」
 それでというのだ。
「食べながらね」
「インタビューの続きをですね」
「しようと思うけれど」
「それでお願いします」
 瑠衣もそれでいいと言ってだ、そしてだった。
 今度は食事をしながらのインタビューとなった、二人共忙しいので出前のラーメンを取ってそれを食べながらとなったが。
 ここでだ、瑠衣はラーメンを食べつつ虫の話をした。しかもそれは。
「あの回虫って」
「あれ面白いですよね」
 明るくにこにことして言うのだった。
「本当に」
「面白いかな」
「お腹の中にいて蠢くんですよね」
「あの、そうだけれど」
「そうだけれどとは」
「いや、今ラーメン食べているから」
 麺類をというのだ。
「ちょっとね」
「回虫苦手ですか?」
「別にそうじゃないけれど」
 記者は回虫にはあまり抵抗がない、だがそれでもだった。
 麺類を食べているのだ、それで言ったのだ。
「ちょっと話題を変えようか」
「じゃあどんな話題にしますか?」
「好きな食べものとか」
「じゃあお刺身にボルシチとか」
「その組み合わせ好きなんだ」
「大好きですが」
「それは凄いね」
 記者はその組み合わせにも戸惑うことになった。
「お刺身とボルシチとか」
「面白いですよ」
「そ、そうだね」
「はい、あと最近映画にはまってるんですよ」
「ど、どんな映画かな」
「悪霊のはらわたとか十四日の金曜日とか」
 どれもスプラッターなホラー映画だ。
「あとゾンビ映画大好きです」
「ゾンビ好きなんだ」
「あの腐った感じが。お腹から内臓とかはみ出ていたら」 
 記者は内心想像してラーメンへの食欲がなくなったことを実感した、だがそれを隠してラーメンを何とか食べつつ述べた。
「最高ですよね」
「そうなんだ」
「そういう映画観ながらホルモンとかレバーとか食べます」
「そうしているんだ」
「美味しいですよ」
 瑠衣はにこにことして話した。
「本当に」
「それは何よりだね」
「あと最近お部屋の模様も変えて」
「ど、どんなのかな」
「こんなのです」
 瑠衣はスマホを出してきた、その中の画像にある彼女の部屋は得体の知れないラグクラフトの世界を思わせる様なおぞましい模様に彩られていた。そしてだった。
 その部屋を見て記者は絶句した、後は完全に瑠衣のペースだった。
 インタビューは無事終わった、瑠衣は終わる時も礼儀正しくにこにことして気さくだった。しかし。
 記者は職場に戻ってそのうえで先輩に言った。
「よくわかりました」
「どうして瑠衣ちゃんに浮いた話がないかな」
「はい、とても」
「そうだろ、ああした娘だからな」
「皆ドン引きしてですね」
「そうしたことには誘わなくてな」
「スキャンダルになる様なことにはですね」
「それでだよ」
「浮いた話がないんですね」
「ああ、どんな女好きも一瞬で引いて声かけなくてな」
 瑠衣と話してだ。
「麻薬とかもな」
「誘わないんですね」
「そうだよ、ああした趣味だとな」
「そうですよね、凄い趣味ですからね」
「友達ならともかくな」
「そうしたことについては」
 恋愛だの不倫だの麻薬だの芸能界によくある話はだ。
「縁がないんですね」
「向こうから逃げていくんだよ」
「そのことがわかりました、あれだけの美人なのに」
 長身美人だ、その背は日本人女性とは思えない位だ。
「残念ですね」
「だからよく言われてるさ」
「残念な美人だってですか」
「芸能界一のな、世の中ああした娘もいるんだよ」
「美人でもですね」
「残念な娘がな、これでわかったな」
「はい、よく」 
 記者は先輩に答えた。
「そういうことですね、じゃあインタビューは」
「差し障りのないものにしろよ」
「やばいものは抜きますね」
 瑠衣が言ったそうした引く様なことはだ、実際にそうして編集すると紙面に載せられるものは僅かだった。記者はこのことにも驚きつつ何とか仕事を終えた。彼にとっては何かと印象的な仕事であった。


声をかけられない理由   完


                    2018・6・22

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