交流して
 アルカード=リュベル=ヴァロワは士官学校長の話を聞いてまずはこう言った。
「日本の士官学校とか」
「ああ、東洋の国だな」
「東洋の東の端の方にある国だ」 
 士官学校にいる平民出身の同期の者達が彼に応えた、階級制度を疎ましく思っているアルカードは貴族出身の同期や先輩達からは疎まれているが平民出身の者達からは人気が高いのだ。それで彼等はいつもアルカードと共にいるのだ。
「随分と歴史がある国らしいな」
「結構前に維新とか革命が起こって国の制度が変わったらしい」
「今は階級がないらしいな」
「我が国と違って」
「階級がないのか」
 そう聞いてだ、アルカードはそこに自分が考えている理想社会を思った。
「それはいいことだな」
「そうだな、この国は階級制度が強い」
「今も貴族に権力が集中している」
「我々も平民出身の士官学校の生徒も少ない」
「多くは貴族出身者だ」
「私も貴族だが」
 それでもと言うのだった。
「あえて称号は棄てたからな」
「ド、だな」
「名前に入るそれを棄てているな」
「そうしたな」
「階級が問題ではないのだ」
 アルカードは友人達に毅然として語った。
「大事なものはだ」
「それぞれの能力だな」
「それだな」
「それが最も重要だな」
「そうだ、その階級を否定した日本の士官学校の者達をだ」
 彼等のそれをというのだ。
「見せてもらうか」
「そうするか」
「一体どういった者達か」
「かつては武士という支配階級がいたが今はいない」
「その彼等の力をな」
 アルカードと平民出身の士官候補生達はこう考えていた、だが貴族出身の候補生達は全く違っていた。
「階級がないというのか」
「もう平民だけか」
「華族という貴族がいるらしいが」
「候補生は皆一緒らしいな」
「華族とやらも平民とやらも同じだ」
「平民出身の者が圧倒的に多いらしい」
「そんな連中が我々と交流するか」
 それ自体がというのだ。
「お笑いだな」
「全くだ、平民は品がない」
「教養もない」
「我々の様にしっかりとした教育を受けていないのだ」
「家柄も格式もない」
「その様な連中だ」
「大したことはない」
 こう言っていた、だが。
 その話を聞いてもだ、アルカードは言った。
「どうだろうかな」
「ああ、貴族の連中は馬鹿にしているな」
「日本の候補生達は大したことがないと」
「そう言っているな」
「馬鹿にしきっているな」
「ああ、しかしな」
 それはと言ったアルカードだった。
「会って見ていないとわからない」
「そうだな」
「まずは彼等と会ってみてからだ」
「実際に交流してからだ」
「それからだ」
 アルカードはこう言っていた、それでだった。
 彼は日本の士官候補生達と会うことを楽しみにしていた、そうしてその彼等が遠い東洋の端から来た。
 その彼等を見てだ、貴族出身の者達は仰天した。
「なっ、何だ」
「この連中は」
「騎士か!?」
「堂々としていてしかも礼儀正しいぞ」
「我々の言葉も普通に喋るぞ」
 流石に流暢ではないがだ。
「文学や芸術への素養もある」
「教養も高い」
「しかも武芸も出来るぞ」
「これが平民か」
「平民出身の者達なのか」
 誰もが文武両道だった、それでだった。
 彼等は仰天した、そしてアルカードもだった。
 彼が得意とする片刃の刀を使った剣術である候補生と手合わせをしたが恐ろしいまでの強さだった。それでだ。
 手合わせの後でだ、彼は友人達に話した。
「強い」
「そうだな、かなりの強さだ」
「よく訓練されている」
「馬術も見事だ」
「戦術戦略もよく学んでいる」
「むしろ我々よりも優秀ではないのか」
「それもかなりな」
 友人達も驚いていた。
「あの国はかつて武士がいたそうだが」
「今は士族というが扱いは平民と同じだ」
「騎士の様な者達がいたらしいが」
「その武士の様と言うべきか」
「武士は強いな」
「全くだ」
 こう話した、そしてだった。
 ここでだ、アルカードはこう言った。
「これで私も思った」
「平民出身でもか」
「鍛錬を積み学べばああなる」
「あれだけの強さと教養を備えるのだな」
「軍人としての素養も」
「そうだな、あの強さならばだ」
 まさにというのだ。
「あの国は近い将来恐ろしく強い軍隊を持つぞ」
「新しい兵器への興味も深い」
「我が軍よりもそうだな」
「貴族出身の者達は昔ながらの戦術ばかりだ」
「兵器もそこから出ていない」
「旧態依然と言っていい」
「だが彼等は違う」 
 日本の候補生達はというのだ。
「あれならばな」
「我が軍より強い軍隊になるかもな」
「そうなるかもな」
「そうだな」
 こう話した彼等だった、そしてだった。
 日本の候補生達が去ってからだ、貴族出身の者達は蒼白になって話した。
「恐ろしい連中だ」
「世の中あんな奴等がいるのか」
「若し連中と敵になったらどうなるか」
「戦いたくないな」
「全くだ」
 こうしたことを話していた、それでだった。
 アルカードもその彼等を見て言った、しかし彼が言うことは彼等とは違っていた。
「学ぶべきだな」
「彼等をか」
「日本の候補生しいては日本軍を」
「そうすべきか」
「そうだ、そうしてだ」
 そのうえでというのだ。
「彼等の様に強くなるべきだ」
「どうも日本は軍ばかりじゃないな」
「官僚もそうしていっているらしいな」
「優秀な者を階級に関わらず登用している」
「試験の結果でな」
「ならそうあるべきだ」
 真剣な声でだ、アルカードは友人達に答えた。
「我々の様にだ」
「階級で役職を決めるのではなく」
「それぞれの資質で決めるべきだな」
「日本の様に」
「そうあるべきだな」
「あの国は間違いなくだ」
 アルカードは確信を以て言った。
「強い国になる」
「そうだな」
「あの国の候補生達は皆立派だ」
「階級に関わらず」
「誰もが優秀だ」
「それならな」
「絶対にそうなる」
 強い国になるとだ、彼等も口々に言った。
「若し将来我が国が日本と戦えば」
「今は我々の方が国力が上で軍の規模も大きいが」
「しかしな」
「それでもな」
「我々は彼等に勝てないな」
「彼等には」
「そうだ、彼等に勝つ為にはだ」
 若し日本と戦う時が来ればとだ、アルカードはまた話した。
「今のままでは駄目だ、改革をしなければ」
「全くだ」
「我々も階級をなくさなければならない」
「個人の資質により登用していかなければ」
「彼等には勝てない」
 友人達も口々に言った、そしてだった。
 アルカードも彼等も改革を決意した、彼等のこの決意が実際に運動になるにはかなりの時間がかかった。だがこの時からはじまりこの国は多くの政争と挫折を経て変わった。アルカードが軍の元帥になった時は軍も近代化し変わっていた。日本軍の候補生達との出会いは彼の国が変わった全てのはじまりと言える出来事だった。


交流して   完


                  2018・6・24

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