面白い番組
 稲積つぼみは最近不機嫌だった、それで居候先の家で主人公に言った。
「ねえ、最近ね」
「どうしたんだよ」
「テレビが面白くないのよ」
 そのテレビを観つつ言うのだった。
「どうもね」
「おい、今そう言って観てるじゃないか」
「だからそうした番組が多いってことよ」
「つまらない番組が多いか」
「今観てるの深夜のアニメだけれど」
 ちなみに今は平日の夜の八時である、つぼみは家のリビングで視聴している。
「録画だし」
「深夜アニメそんなに多いんだ」
「多いわよ、アニメは面白いの多いけれど」
「今の時間はか」
「お笑い芸人ばかり出てるバラエティ番組とか」
 つぼみはその面白くない番組を具体的に挙げた。
「偏向してる報道番組とか」
「それは十時とか休日の朝とかな」
「そんなのが多くてね」
「だからそう言うんだ」
「そうよ、何ていうかね」
 苦い顔でだ、つぼみは主人公に話した。
「最近本当に面白い番組減ったわ」
「よく言われてることか?」
「ドラマも看板にしたい時間帯のドラマこそね」
「酷いんだな」
「いや、脚本家が悪いのかスタッフが悪いのか」
「酷いドラマも多いか」
「深夜ドラマはいいのが多いけれど」
 それでもというのだ。
「ゴールデンな時間帯のドラマこそ悪いし」
「そんなにか」
「スポーツの実況でもあのボクサーの兄弟とか」
「ああ、大阪のか」
 主人公もボクサーの兄弟と聞いてすぐにわかった。
「猿みたいな顔した」
「親父さんも揃って下品で粗暴で無教養でスポーツマンシップもないね」
「全然いいところのない連中だな」
「あの猿みたいな連中を無暗にもて囃したりして」
「あの一家バラエティ番組でも出るしな」
「正直不愉快よ」
 つぼみはこの一家が大嫌いだった。
「あと覚醒剤で捕まった元プロ野球選手も結構出てたし」
「自称番長のな」
「あいつも下品で粗暴で教養ないし」
「覚醒剤で捕まっただけあったな」
「ファッションとかもう観られたものじゃなかったし」
 つぼみとしてはだ。
「ヤクザみたいだったから」
「あいつも最近出ないだろ」
「覚醒剤で捕まってからね」
「それでもか」
「あのボクサー一家と一緒でテレビに出たら」
 例えそれがバラエティ番組でもだ。
「すぐにチャンネル替えるわ」
「番組が面白くなくなるか」
「出て来ただけでね、あと北朝鮮が大好きなガチャ目の奴」
 つぼみは自分が観ていて不愉快な輩をもう一人出した。
「下品で巨人ばかり贔屓して出鱈目ばかり言って」
「やたらとテレビに出ているけれどな」
「あいつが出ていてもね」
「チャンネル替えるか」
「しょうもない四コマ漫画家とかもよく出てるけれど」
「その漫画家は報道番組でも出てるよな」
「的外れで馬鹿なことばかり言って」
 その漫画家はというのだ。
「キャスターやアナウンサーもとんでもないことばかり言うし」
「それでか」
「もう最近面白くない番組増えたわ」
「けれどテレビ観てるんだな」
「だからアニメ観てるの」
 録画してあったそれをというのだ。
「こうしてね」
「成程な」
「本当にこの時間面白い番組ないから」
「それでか」
「今は録画よ」
「テレビを観ても面白くない番組だったらか」
「観たくないわ」
 実に率直な言葉だった。
「ネットでチェックしても散々な評価の番組多いしね」
「そんなに多いんだな」
「特に報道番組でね」
「報道番組は本当に酷いか」
「バラエティ番組も酷いけれど」
「しかし最近のテレビってこの二つばかりだろ」
 それこそとだ、主人公はつぼみに言葉を返した。言いながらつぼみの隣の席に座ってそうしてスナック菓子を食べはじめた。
「バラエティか報道かな」
「ええ、本当にね」
「その二つばかりだよな」
「お金かけないで番組制作出来るから?」
 つぼみは何故そうした番組が増えたのかを考えた。
「クイズ番組でもね」
「そっちも視聴者の人が参加するんじゃなくてな」
「やっぱりお笑い芸人ばかりだけれど」
「そのお笑い芸人もな」
「正直面白くないのよ」
 その肝心のお笑いの芸がというのだ。
「お笑いなのにね。漫才とか落語の番組も少ないし」
「お笑い芸人が出てもな」
「クイズ番組もそうだし」
「バラエティと変わらないな」
「最悪なのは東大だから早稲田とか慶応でクイズ番組作るあれ」
 出身大学だけでというのだ。
「学歴がどうしたっていうのよ」
「いい大学出ててもな」
「さっきお話に出した漫画家もいい大学出てるらしいけれど」
「馬鹿だよな」
「もの知らないし」
「大学だけで番組作るな、っていうんだな」
「そうよ、全然面白くないわよ」
 そうしたクイズ番組を観てもというのだ。
「だから私そんなクイズ番組も観ないし」
「バラエティ番組も報道番組もか」
「スポーツの実況も偏ってるのだったら」
「観ないんだな」
「公平じゃないと面白くないし」
「じゃあ本当に観る番組減ったんだな」
「こうしてアニメとか面白そうなドラマとか」 
 さっき言った酷いドラマは観ない。
「NHKの子供用の教育番組とか」
「小学生用のか」
「昔あったできるかなみたいなね」
 つぼみはまた具体的な例を出して話した。
「そうした番組は録画して観てるわ」
「じゃあ今は録画したのを観てばかりか」
「ええ」
 実際にとだ、つぼみは主人公に答えた。
「最近はね」
「そんなに面白くない番組増えたか」
「このままいったら」
 それこそとだ、つぼみは嘆く様にして言った。
「私録画専門になるわ」
「テレビを観てもか」
「そうなるわ」
「録画でも観てるけれどな」
「だってあんまりにもつまらない番組ばかりになったから」
 それでというのだ。
「そうなるわ」
「成程な」
「ええ、じゃあね」
「今からか」
「アニメ観ていくわ」
 録画しているそれをだ、そしてだった。
 つぼみはこの日はアニメを観た、そして次の日もまた次の日もだ。
 つぼみはアニメやドラマの録画ばかり観た、他にはレンタルビデオショップで借りた映画の視聴も多くなっていた。
「映画レンタルして観る方がね」
「今のテレビ番組観るよりもか」
「ずっといいわ」
 主人公にこの時もこうしたことを言った。
「正直ね」
「何か前よりも番組自体を観なくなってないか?」
「なってるわよ、だから本当にね」
「面白い番組がないか」
「ないと言っても言い過ぎじゃないわ」
 そこまで酷いというのだ。
「質の悪い奴ばかり出るし」
「そのボクサー一家やらガチャ目の奴とかか」
「他にも一杯いるし」
 質の悪い輩がというのだ。
「前も言ったけれど」
「だからか」
「観たくないのよ、今の番組がね」
「本当に難しいことになってるんだな」
「私にとってね、何でこう面白い番組がないのよ」
 テレビが大好きなつぼみにとっては深刻な問題だった、それで今は普段の明るさをくすぶった感じにさせていた。
「学校がない時はずっと観ているけれど」
「面白い番組自体を観ることはか」
「今放送してるのではないわ」
「そうした状況か」
「ええ、録画かレンタルか」
 観るにすればというのだ。
「そうなってるわ」
「歌番組はどうだよ」
「そっちはいいけれど少ないでしょ」
「昔はずっと多かったんだよな」
「いい時間帯にもやってたみたいね」
「ベストテンとかトップテンとかな」
「そういうのやったらいいのに」
 それこそ下らないバラエティ番組や報道番組を放送する位ならというのだ。
「本当に」
「お金も人も使わないで番組作ってばかりか?」
「頭も使ってないでしょ」
 つまり何も使っていないというのだ、必要なものを。
「だからね」
「テレビを観ることもか」
「困ってるわ」
「じゃあな」
 ここでこう言った主人公だった。
「BSとか時代劇チャンネル観たらいいな」
「そうしたチャンネルはいいのね」
「そういうのも観たらどうだ?」
 テレビ好きだが面白い番組がないことに嘆くつぼみにこう言った。
「そうしたらどうだよ」
「そうね、じゃあね」
「ああ、そうしてみるな」
「ものは試しでね」
 実際にとだ、つぼみはこう答えた。そしてだった。
 つぼみは実際にそうした番組を観ていった、BSは時代劇チャンネルを。そうしてみるとだった。
 今は遠山の金さんを観つつだ、つぼみは主人公に言った。
「面白いわね」
「ああ、実際な」
 主人公も金さんを観つつつぼみに応えた。
「痛快でな」
「演技も演出もよくて」
「面白いよな」
「そうよね、何かね」
「何か?」
「昔の番組の方がね」
 金さんにしてもというのだ。
「面白いし。それにね」
「それに?」
「BSの番組とかね」
「そうした番組の方が面白いんだな」
「どうもね、これだとね」
「時代劇チャンネルとかBSとかばかりか」
「観る様になるわ」
「そうなっているんだな」
「あと録画とレンタルね」
 またこちらの話もしたつぼみだった。
「そっちね」
「そうなんだな」
「もう普通のチャンネルの番組はね」
「観ないか」
「観られたものじゃないわ」
 それこそというのだ。
「そうなったわ」
「テレビが好きでもか」
「好きだから言うのよ」
「面白い番組がなくなったってか」
「言うのよ」
 実際にとだ、つぼみは主人公に言った。
「そうね」
「テレビ番組をずっと観ているとわかるんだな」
「面白い番組とね」
「そうでない番組がか」
「わかって」
 それでというのだ。
「だからね」
「面白くないとか」
「本当に観たくないわ」
「つぼみが言う質の悪い連中も出ないしな」
「今のテレビお金も頭も人手も使ってないうえに」
 それに加えてというのだ。
「変な人ばかり出てるから」
「余計に悪いんだな」
「腹が立つ位面白くなるなるのよ」
「それでかえってBSとか時代劇チャンネルがか」
「面白いのよ、じゃあ金さんの後はね」
「何観るんだ?」
「必殺やるから」
 このシリーズがというのだ。
「それ観るわ」
「それ観るんだな」
「面白いから、というか昔のドラマ面白いわね」
 つぼみの言葉はしみじみとしていた。
「本当に」
「金さんも面白いしな」
「いや、最近テレビ離れが言われているけれど」
「観なくなるのも当然か」
「テレビ好きだから言うの」
 それ故にというのだ。
「面白くないから」
「今のテレビ番組はか」
「ええ、本当に面白くないから」
 それでというのだ。
「観る価値ない番組多いわ」
「じゃあこのままいくとあれか」
「時代劇チャンネルとかBSとか」
 今観ている番組の様にというのだ。
「深夜の録画とかレンタルビデオよ」
「そういうのばかりになるな」
「テレビを観てもね、本当にこの調子だと」  
 つぼみの言葉には嘆きがあった、明らかに。
「テレビ番組の世界終わるわよ」
「面白くない、それどころか観ていて腹が立つ奴が出ているとか」
「そうよ、誰も観なくなるから」
「なくなるか」
「そうなるわね」
「また面白くなればいいな」
「そう思うわ、誰があんなつまらない番組や腹立つ連中観たいのよ」
 心から言うつぼみだった、今は遠山の金さんを観ながら。そうして主人公と一緒に次の番組も観た。この時のテレビは楽しいものだった。今の番組を観ている時とは違って。


面白い番組   完


                    2018・6・26

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