マッドサイエンティストと子供
 真戸栽炎斗は天才だが天災とさえ呼ばれる位迷惑な一面がある男だ、実験はいいのだがその実験が時々爆発事故等を起こすからだ。
 その彼が小学生に理科を教えることになったと聞いてだ、彼を知る誰もがこれはまずいと確信した。
「あいつが子供に理科教えるのか?」
「それも実験を」
「それ止めた方がいいぞ」
「絶対に止めろ」
「さもないと大変なことになるぞ」
「絶対に大惨事になるぞ」
 こう口々に言った。
「あいつの実験は確かに凄いよ」
「けれど悪い意味でも凄いからな」
「爆発起こるんだぞ」
「子供がどれだけ危険か」
「それは止めろよ」
「子供が怪我するぞ」
「怪我で済めばいいがな」
 とにかく危ないというのだ、だが。
 このことは決定した、それで彼等はさらに言った。
「白い死神が遂に犠牲者を出すんだな」
「そのうちと思っていたけれどな」
「しかもそれは前途ある子供達か」
「老害じゃなくてか」
 テレビや公共の場で出て来る様な連中が死なずに子供が死ぬことを考えるとだ、彼等はいたたまれなくなった。
「基地の前で騒いでる連中のど真ん中で実験させろよ」
「あいつ等に実験教えればいいだろ」
「何があっても害になる連中しか死なないんだからな」
「そうしろよ、あいつに実験教えさせるなら」
「そうした連中に教えろよ」
 考え様によっては炎斗よりも迷惑な連中に対してというのだ。
「そうすればいいだろうに」
「何で子供達をそうするんだ」
「とにかく止めろ」
「さもないと監督付けろ」
 実験の場に監視役を置けという者すらいた、それで彼等は見学という名目で炎斗が小学生達に理科それも化学の実験を教える場所に入って彼を監視することにした。
 その白衣を着た炎斗にだ、彼等は教える前に言った。
「変なことするなよ」
「相手は子供だからな」
「子供は将来の日本の国の宝だからな」
「事故起こして怪我させるなよ」
「そこはちゃんとしろよ」
「ははは、諸君は心配性だな」
 炎斗は彼等を笑い飛ばして応えた。
「私もそこはわかっている」
「いや、わかっていないだろ」
「これまでどれだけ問題起こしてきたんだよ」
「爆発やら何やらな」
「それで安心出来るか」
「本当に子供に危ないことはするわよ」
「心配無用と言っておく」 
 炎斗は不敵に笑うばかりだった、そしてだった。
 子供達に実験を披露して彼等に化学を教えた、その実験はというと。
 アルコールランプやマグネシウムを出したごく普通の小学校の授業で行われる様なものだった、ただその実験は。
 授業で行われるよりもずっと説明が面白くしかも教科書よりも進んだものだった。それで子供達も明るくだった。
 彼の話を聞いて実験を観てだった、自分達もやってみた。子供達の実験を教える炎斗の説明も見事なものだった。
 それでだ、見学という名目で監視している彼等も驚いた。
「あれっ、普通だぞ」
「普通に教えているぞ」
「しかもかなり上手だな」
「おまけに面白いぞ」
 このことに驚いた、そして終わってからだった。
 子供達に笑って終わりと言って拍手を受けて教室を後にした炎斗を追いかけて彼を囲んでそのうえで尋ねた。
「おい、普通だったな」
「普通の授業だったな」
「しかも上手だったぞ」
「面白かったじゃないか」
「安全だったしな」
「子供達には正しい知識を授ける」
 炎斗は彼等にここでも不敵な笑みで応えた。
「そして化学に興味を持ってもらいたいからな」
「だからか」
「それで初歩を教えたんだな」
「ああして」
「そうだったんだな」
「そうだ、私が普段行っている実験は極めて高度なものだ」
 このことでも知られている。
「そこに至るには多大な学問が必要だ。だが」
「だが?」
「だがっていうと」
「子供達はまだ化学を知ったばかり、それならだ」
「ああしてか」
「初歩の初歩をか」
「興味を持つことからだ」
 まさにそこからだというのだ。
「はじめてもらわないといけないからな」
「それで初歩を教えたんだな」
「化学は面白いってわかってもらう為に」
「その為にか」
「彼等の中から立派な化学者が出てくれれば」
 炎斗はこうも言った。
「私にとってこれ以上いいことはない」
「成程な」
「そうしたことを考えてか」
「あの子達と化学の将来を考えて」
「それでか」
「ああして教えた、ではこれからだ」
 炎斗は自分を囲んだままの彼等にこうも告げた。
「錬金術の実験だ」
「おい、錬金術?」
「そんなの本当にある筈ないだろ」
「何で石が金になるんだ」
「そんなの出来る筈ないだろ」
「違う、錬金術もまた科学だ」
 このことは真面目に言う炎斗だった。
「馬鹿に出来ないし否定も出来ないものだ」
「そうか?」
「あんなの空想のものだろ」
「ファンタジーの世界のものだろ」
「実際にはないだろ」
「今の科学の源流の一つに錬金術は確かにある」
 炎斗は彼が学んだことから周りに言い切った。
「その錬金術を学ぶことはだ」
「化学を学ぶことにもなる」
「そうだっていうんだな」
「そうだ、科学だけでなく化学もな」
 この学問もというのだ。
「学ぶことになる、だからこれからだ」
「錬金術か」
「そちらの実験をするんだな」
「そうしていくんだな」
「その通りだ、もっとも石を黄金にすることは」
 それを科学で言うと。
「元素記号を根本から変えることになるかも知れないからな」
「それはな」
「だからそれは無理だろ」
「石を黄金にするとか」
「流石に」
「今わかっている限りではな」
 これが炎斗の返事だった。
「確かに無理だ」
「永遠に無理だろ」
「元素自体を変換するなんて」
「今わかっている限りではな」
 これが炎斗の返事だった。
「無理だ。だがこれからはどうか」
「違うっていうのか?」
「ひょっとして」
「ひょっとしてだ、人間の知識なぞ僅かなのだよ」
 炎斗は周りにこうも言った。
「まさに大海原の小匙一杯だ」
「その程度しかない」
「だからか」
「錬金術も学び」
「石を黄金に変えられる日が来るかも知れないか」
「そうだよ、サン=ジェルマン伯爵が真実かは知らないが」
 一説によると不老不死の怪人だ、実在していたのは間違いないが様々な不可思議な逸話がある人物だ。錬金術でも有名なのだ。
「錬金術は学んでいきだ」
「科学にも活かす」
「そうしていくんだな」
「その通り、ではこれからそちらの実験をする」
 こう言って実際にだった、炎斗は錬金術も学んでいった。そうして今度は子供達に錬金術について教えることになったが。
 今度は炎斗からだ、周囲に言った。
「今度は実験は行わない」
「そうして錬金術のことを話すんだな」
「そうしていくんだな」
「そうだ、その歴史や科学との関連性をだ」
 そうしたことをというのだ。
「話していく」
「空想や創作のものでなくてか」
「現実のものとしてか」
「科学として話していくんだな」
「その通り、魔術にしても」
 もう一つの幻想や創作の世界のものとされているものもというのだ。
「そうして話せるからな」
「魔術も科学か」
「その中にあるものか」
「そうだったのか」
「その通り、進歩した科学は魔術と変わらない」
 炎斗はこの言葉も出した。
「それ故にだ」
「魔術も否定しないんだな」
「じゃあ君はそちらも学んでいるのかい?」
「錬金術だけでなく」
「如何にも」
 その通り、肯定する返事だった。
「そうしている、実際にな」
「そうなのか」
「君は理系にまつわるものなら何でも学ぶな」
「否定せずに」
「そして確かな科学を突き詰め」
 ここでこうも言った炎斗だった。
「そうしてだ」
「似非科学を討つ」
「そうしていくんだな」
「その通りだよ、私が憎むものは」
 それはとだ、自信に満ちた不敵な笑みの炎斗の目に憎悪の光が宿った。そのうえで言うのだった。
「似非科学、インチキなのだからな」
「学び科学を突き詰め」
「そうして似非科学を討っていくか」
「そうしていく、子供達にも科学を教える」
 正しいそれをというのだ。
「そして世の中にある似非科学を消してみせよう」
「だから錬金術も話す」
「似非ではなく正しい科学として」
「そうするんだ」
「その通りだよ、では諸君また聞いてくれ給え」
 目から憎悪の光が消えた、そうして自信に満ちた笑みに戻って言った。
「私の錬金術の授業をな」
「ああ、そうさせてもらうな」
「本物の科学であるそれをな」
 周りも答えた、そうしてだった。
 炎斗は子供達に今度は錬金術のことを話した、この授業も実にいいものだった。そこに確かな化学があるからこそ。


マッドサイエンティストと子供   完


                    2018・6・27

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