一人での墓参り
 善界銀は白銀華を率いて今日も金儲けに精を出している、とにかく彼は金への執着が強い男である。
 それでだ、よくこう言っていた。
「金がないのは命がないってことなんだよ」
「だから金儲けに精出してるんだな」
「いつもそうなんだよ」
「そうだよ、それこそな」
 銀髪をオールバックにし首には光るネックレスがあり青い瞳にはサングラスをかけている。制服は着崩していて腕には金時計がある。一見するとチンピラにも見える。
「金がないと何も出来なくてな」
「生きることも出来ない」
「そうしたものだっていうんだな」
「世の中金で動いているんだよ」
 銀はこうも言った。
「だからだよ」
「これからも稼いでいくか」
「そうするんだな」
「ああ、それが俺の生きがいだよ」
 金儲け、それこそがというのだ。
「そしてその為にはな」
「何だってする」
「そうしているんだな」
「実際にな、効率よく金を儲けて」
 そしてというのだ。
「俺は億万長者になるんだよ」
「白銀華も使ってか」
「そうしていくんだな」
「そうだよ、俺はどんどん儲けていくからな」
 こう言ってだった、彼は実際にだった。
 金儲けに精を出し高校生だが既にかなりの資産家になっていた、だが彼のプライベートはあまり知られていなかった。
 高級マンションに一人暮らしだ、だがそれ以外は本当にだった。
「一人で贅沢に暮らしてるんだろうな」
「やっぱりそうだよな」
「高級マンションに暮らしてるしな」
「それだったら」
 多くの者はこう考えていた、そしてこのことは白銀華のメンバーも同じだった。
 彼のプライベートは知らなかった、それで思うのだった。
「あいつはいい暮らししてるな」
「そのことは間違いないな」
「まあ金持ってるからな」
「いい暮らしはして当然だな」
 こう思っていた、そしてそれはその通りで銀は確かにいい暮らしをしていた。そしてその暮らしはこうも思われていた。
「金だな」
「まずは金って奴だからな」
「金第一の暮らしだろうな」
「そうでない筈がないな」
「神も仏もないのは間違いないな」
「どう考えても信仰とかある奴じゃないしな」
 こう思われていた、信仰や人間の心とは無縁の生活を送っていると思われていた。
 しかし銀は毎月ある場所に一人で出かけていた、それはある寺だった。彼はこの月もその寺に来ていた。
 寺に入るとまずは住職に本堂の中で礼儀正しく挨拶をした。
「お邪魔させてもらいます」
「はい」
 住職は彼に厳かに応えた。
「それではですね」
「今月も宜しくお願いします」
「わかりました」
 住職は落ち着いた中年の男だった、僧侶らしく穏やかな雰囲気の持ち主でありその顔には無欲さと知性が感じられる。着ている袈裟と僧衣は奇麗なものだ。
 その彼にだ、銀は挨拶をし贈りものを差し出してだった。
 寺の墓地に向かった、そしてある墓の前で立ち止まり住職にお経を詠んでもらってだった。
 墓を奇麗にした、そうして線香や花を捧げて言った。
「今月も来たからな」
「はい、来られましたね」
「俺しかいないですからね」
 銀は墓を見つつ住職に寂しい顔で話した。
「ここに来る奴は」
「甥の貴方だけですね」
「俺親は早いうちに事故で死んで」
 銀は他の誰にも見せない顔になっていた、そのうえでの言葉だった。
「叔母さんに育てられてましたから」
「お二人だけの家族でしたね」
「俺が物心ついた時にはそうでした」
 銀の両親は彼が赤子の時に交通事故で亡くなっている、居眠り運転のトラックに歩道を歩いている時に突っ込まれたのだ。
「いつも可愛がってもらいましたけれど」
「その叔母様もでしたね」
「死にましたからね」
 墓を見つつだ、銀は住職に話した。
「金がなくて病院にも行けなくて」
「それで、ですね」
「死んで。住職さんがお墓を提供してくれなかったら」
「お墓もなかったというのですね」
「そうなっていました」
 今の墓は彼が建てた、見事な墓だが金は全て彼が出したのだ。最初は質素な卒塔婆程度だったが見事な墓石のものにしたのだ。
「そのこと感謝してます」
「いえ、拙僧は粗末な墓しか用意出来ず」
「それで充分ですよ、墓は俺が立派にしましたから」
「だからですか」
「はい、それだけでいいです」
 卒塔婆程度の墓でもというのだ。
「それで、それで今月も有り難うございます」
「供養の経ですね」
「本当に」
「それは当然のこと。ですが」
「ええ、叔母さんに言われてますよ」
「お金があってもですね」
「人として最後の一線は踏み外すな」
 銀は墓にまだ汚れがあるかチェックしつつ住職に応えた。
「相手の首を吊らせたり殺したり」
「そうしたことはですね」
「するな、俺悪党ですが」
 自覚している、このことは。金は何としても手に入れる、それだけをがむしゃらに考えて生きていることも。
「人の命を奪う様なことは」
「されないですね」
「悪党でも外道になったら」
 それこそというのだ。
「叔母さんが悲しみますからね」
「そうです、拙僧もお願いします」
「わかってます、俺は金好きですけれど」
「外道にはですね」
「なりません、それじゃあ」
「来月もですね」
「来させてもらいます」
 住職に深々と頭を下げてだ、そのうえでだった。
 銀は寺を後にした、それが終わってからだった。
 彼は日常に戻った、そうして金儲けに手を出すが。
 白銀華のメンバーから今度の仕事相手の話を聞いてだ、彼は難しい顔で言った。
「こいつはコスパが悪いな」
「だからか」
「しないか」
「こいつは只のワルじゃないだろ」
 今度の相手はというのだ。
「ヤミ金やってるな」
「ああ、そうだな」
「随分酷いこともしてるみたいだな」
「元々ヤクザだったしな」
「人を海に沈めたこともあるみたいだな」
「そんな奴は何時か絶対に捕まるだろ」
 銀は鋭い目になって言った。
「それでその時にな」
「俺達にもか」
「警察の捜査が及ぶか」
「そうなるかも知れないからか」
「俺達も結構やばいことしてるだろ」
 法律すれすれかアウトになる様なことも多くしている、銀の金儲けの仕方はそうしたこともするものなのだ。
 それでだ、彼も今こう言うのだ。
「だからな」
「こいつとの仕事はか」
「しないか」
「ああ、こうした奴との仕事が一番コスパが悪いんだよ」
 銀は自分の持論も述べた。
「警察沙汰になるレベルの奴がな」
「だからか」
「こいつとは仕事しないか」
「この外道とは」
「そうするぞ、外道位コスパが悪い相手はいないからな」
 こう言ってだった、彼はこの仕事はしなかった。だがそこにある本心は誰にも話さなかった。寺で彼が語った考えは。


一人での墓参り   完


                  2018・6・28

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