魔界の試験 
 フィリア=クロはこの日ある日本人の高校生に召喚されたが魔法陣の中に出て即座に不機嫌な顔で舌打ちした。
「ちっ」
「おい、いきなり舌打ちかよ」
「今何の時期だかわかってるの」
「八月二十三日だよ」
 その日だとだ、高校生はフィリアに答えた。見れば茶色の髪を長く伸ばしていて日焼けしたかなりちゃらい感じである。服もアクセサリーもそんな感じだ。
「夏休みも終わりだな」
「宿題なら自分でしろ」
「そんなのとっくにやったよ」
 高校生はフィリアに即座に返した。
「高校のも塾のもな」
「その外見で塾に通ってるのか」
「馬鹿に見えるってのかよ」
「生きてても仕方ない、北朝鮮に行って将軍様の髪型笑って迫撃砲で撃ち殺され路ってレベルの馬鹿に」
「口が悪いな、おい」
「それがどうした」
「どうかしたんだよ、これはファッションだよ」
 見るからにちゃらいこれはというのだ。
「塾も通ってそっちの宿題も終わって予習復習もバスケ部の部活も友達付き合いもちゃんとしてるつもりだよ」
「真面目さんか」
「ファッション位いいだろ」
 高校生はフィリアに必死の顔で言った。
「あといじめとかカツアゲとか万引きとかはしてないし煙草とかヤクもやってねえよ」
「本当に真面目か」
「ファッションって言ってるだろ」
「じゃあ何で召喚した」
「悪人じゃないと召喚したら駄目か」
「そんなルールはない」
 フィリアはこのことは否定した。
「安心しろ」
「そうだよな、ちなみに報酬は透明骨格標本だからな」
「何っ、それは私の大好きなもの」
 趣味だ、それでフィリアも眉をぴくりと動かして反応を見せた。
「是非欲しい」
「最近の悪魔って魂欲しがらないんだよな」
「何かして欲しいなら金か労働かもの渡せ」
 魂でなくそうしたものをというのだ。
「あと身体はいらないからな」
「枕営業禁止かよ」
「悪魔もそこは厳しい。サタン様はホワイト経営者」
「サタンってそうだったのかよ」
「神はブラック」
 何気に天界の悪口も言った。
「しかし悪魔は労働条件にも契約者への対応にも五月蠅い」
「それで魂売って死んでから奴隷になれとかはか」
「言わない、その骨格標本見せろ」
「これな」
 高校生はフィリアにその標本を見せて言った。
「高かったんだぜ、某アマゾンで一万円で買ったからな」
「そんなものがそれだけで買えたのは凄い」
「えっ、凄いのかよ」
「かなり。とりあえず報酬はそれでいい」
 その透明骨格標本でというのだ。
「何でも受ける」
「一万円分でか」
「充分。けれどどうして私の趣味と好きなものがわかった」
「いや、悪魔なら誰でも召喚してよかったけれど報酬の貢ぎもの出来るだけ不気味なものがいいだろって思ってな」
 それでというのだ。
「これならって思ってだよ」
「透明骨格標本にしたの」
「そうなんだよ」
 そうした背景だったというのだ。
「これがな」
「よくわかった、それで用件を聞こう」
 何処かの十三番目のスナイパーの様な顔とポーズになってだ、フィリアは高校生に問うた。ただし葉巻は出していない。
「宿題でも悪事でもないとすれば金か女か」
「金はいいぜ、小遣い分でやってるさ」
「じゃあ女か」
「女って言えば女だな」
「十股位かけてそのうちの一人に刺されて首切り取られそうか」
「それ何のアニメだ、大体十股って何だ」
 高校生はフィリアを指差して彼女に問い返した。
「俺はエロゲの主人公か」
「外見見たら寝取り野郎」
「だから違うって言ってるだろ、相手いる娘に手を出したりもしないからな」
「ちっ、つまらない奴だな」
「一々口が悪いな、だから俺彼女がいるけれどな」
 高校生は口が悪いままのフィリアにムキになった顔で言い返した。
「同じ学校で塾のホモにストーカーされてるんだよ」
「うほっ、いい男」
「不吉なこと言うな、そのガチホモが俺にそうしたことさせろって言って襲おうともしてくるんだろ」
「それはいいことだ、黙って禁断の味を知れ」
「知ってたまるか、警察に言っても動いてくれないしな」
 こうしたことはままにしてある、そうしてストーカーを放置して殺人事件に至ったりするのである。
「それであんたを呼んだんだよ」
「本当にいい迷惑だ」
「だから何でそんな機嫌が悪いんだよ」
「悪い様に見えるか」
「顔も口調もな、どう見てもな」
 それこそというのだ。
「悪いだろ」
「そう見えたら謝らない」
「謝れよ」
「安心しろ、日本のマスコミよりは謝る」
「あいつ等謝ることしないだろうが」
 日本のマスコミは他の存在には反省や謝罪と言い募るが自分達は絶対に反省もしないし謝罪もしない、それが日本のマスコミのスタイルだ。
「それよりって比較対象間違ってるだろ」
「気にするな」
「気にするよ、それでな」
「そのホモとのハッピーエンドを助けろか」
「俺はノーマルだよ、このホモを何とかしてくれ」
「それが依頼だな」
「さっきから言ってるだろ、御前本当に契約者の依頼聞く気あるのかよ」
「嫌々」
「おい、嫌々かよ」
「そう、嫌々」
 悪びれずに返すフィリアだった。
「そうしてやる」
「他の奴を召喚すべきだったか」
「じゃあ天使がいいか」
「ああ、天使も召喚出来たな」
「あっちは死んだら天国行きだぞ」
「俺仏教徒だぞ」
「じゃあ関係ないな」
「天使を召喚したら天使に魂を渡すんだな」
 高校生もこのことはわかった、死んだら天国行きと聞いてだ。
「そうなるんだな」
「それか悪魔よりもかなり高い報酬」
「かなりか」
「そう、あっちはそれで受ける」
「同じ召喚するんでも違うんだな」
「天使はブラック」
 フィリアはこのことを強調してきた。
「そこは覚悟しろ」
「悪魔はホワイト企業なのにか」
「それも慈善事業とか言って給料も安くて労働時間も長い」
 天使達のそれはというのだ。
「人間社会だと一日二十時間労働で月給手取十七万」
「それ昔五ちゃんでスレッド立った話であったぞ」
 当時は五が二であった。
「ひでえ労働条件だな」
「人間なら過労死一直線だな」
「ああ、絶対にな」
「そこにいくと悪魔は違う」
「ホワイトか」
「そのホモも何とかしてやる。どんな奴だ」
「こんな奴だよ」
 高校生はフィリアにそのホモのストーカーの写真を差し出した、見れば角刈りに顔の下半分が髭に囲まれ全身ガチムキで力士の様な身体をしていて熊の様に毛むくじゃらな大男だ。
 その男の写真を見てだ、フィリアは高校生に問い返した。
「こんな高校生がいるか」
「いるんだよ」
「嘘吐け、髭生えてるぞ」
「それでも高校生なんだよ」
 その写真の男はというのだ。
「それでそいつに付き纏われてるんだよ」
「そのことは前に聞いた、じゃあこいつ何とかしてくる」
「頼むな」
 こうしてフィリアは仕事にかかった、何とその同性愛者を異性をしかも純粋かつ礼儀正しく愛する嗜好の者に変えたのだ。これで高校生は助かりフィリアは報酬の透明骨格標本を手に入れることになった。
 フィリアの仕事は終わった、だが高校生は彼女が魔界に戻る時に聞いた。
「何でそんなに不機嫌なんだよ」
「今テスト前だ」
「テスト前?」
「私の学校の中間テスト前だ」
「魔界にも学校あるのかよ」
「そう。ちなみに体育もあって体操服は半ズボン」
 そちらになっているというのだ。
「赤の」
「ブルマじゃないんだな」
「今時そんなものエロゲか狙ってるアニメかラノベだけ」
「魔界でもそうなんだな」
「御前の学校もだろ」
「半ズボンどころか夏も下はジャージだよ」
「それは気の毒だな」
「半ズボンはまだ足出るからな」
 ましだというのだ。
「本当に色気ないぜ」
「盗撮も意味がないな」
「それやったら犯罪だろ」
「やって逮捕されろ」
「相変わらず口悪いな、テスト前だからか」
「そうだ、もう二度とこの時期に召喚するな」
 フィリアはこの時も高校生に不機嫌な顔と声を向けて告げた。
「わかったな」
「そう言われても俺には俺の都合があるからな」
「こっちも勉強があるからな」
「それでか」
「赤点スレスレの科目もあるんだ、私が留年してもいいのか」
「悪魔にも留年あるのかよ」
「ある。だから二度とこの時期は召喚するな」
「わかったよ、じゃあな」
「精々残念な人生送ってろ」
 最後まで不機嫌なままのフィリアだった、だが魔界に戻る時しっかりと透明骨格標本は持って行った。そしてテストが終わった後はそれで遊んだ。何とか赤点がなかったことについて心から喜びながら。


魔界の試験   完


                   2018・8・23

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