優しい理解者
 九天羽はいつも女装をしている、だが背は一七五あるので顔や髪型はともかく背ですぐに男の娘とわかる。
 それでだ、街を歩く彼に声をかけようとした男達もすぐに気付くのだった。
「あれ違うな」
「女にしてはでかいよな」
「それに何か雰囲気でな」
「すげえ可愛いけれどな」
 顔立ちや髪型、服装はというのだ。
「やっぱり違うな」
「あんな背の高い女の子そういねえぞ」
「一七〇超えてるな」
「一七五はあるぞ」
 まさにその通りの数字だった。
「あれだけ高いとな」
「やっぱりすぐわかるな」
「男だったらいいな」
「ああ、女の子じゃないからな」
 こう言ってナンパしようにも声をかけなかった、そしてだった。
 これは大抵の男がそうで彼に声をかけた男もこう言われて引き下がった。
「僕男だから」
「えっ、マジかよ」
「この声でわかるよね」
 相手の男をキッと睨んでの言葉だった。
「それは」
「確かに男だな」
「僕男に興味ないから」
「そ、そうか」
「だからね」
「ああ、じゃあな」
 相手もそれならとなって引き下がる、それが常だった。
 天羽はいつも女装をしているが硬派な人生を送っていた、日常でもそうで学業とスポーツを怠らなかった。
 朝起きるといつも鍛錬からはじめる、汗をかいて身体を清めてから学校に通う。そうして恋人と共に過ごす。
 だがこの日の昼彼は食堂で男の友人と一緒に摂っていた、友人はラーメンを食べつつカレーを食べる彼に言った。
「御前不思議な奴だな」
「いつも女装だからかい?」
「女装の時が本来の御前なんだよな」
「そう思ってるよ」
「じゃあ男の恰好の時は何だ?」
「本来の自分じゃないんだ」
 これが天羽の返事だった。
「僕はそう思っているよ」
「いつもそう言うよな」
「うん、何か男の恰好の時は」
 世間で常識と思われている身なりの時はというのだ。
「どうもね」
「自分に思えないんだな」
「僕としてはね」
「そうか、しかしな」
「しかし?」
「それってやっぱりあれか」
「性同一障害だね」
 天羽は自分からこの言葉を出した。
「そうじゃないかっていうんだね」
「ああ、違うか?」
「自分でもそうだと思うよ」
 これが天羽の返事だった。
「性同一障害だってね、けれどね」
「それでもいいんだな」
「僕は僕だから」
 若し性同一障害でもというのだ。
「誰にも文句は言わせないしね」
「御前格闘技いや武道やってるしな」
「子供の頃から空手してるしね、武器使うのは剣道やってて」
「その時剣道部の顧問で色々言う奴いたんだよな」
「デブで頭パーマで身体のでかいね」
 天羽は過去自分に言ってきたその教師の話もした。
「偉そうに御前男か女かって言ってきたよ」
「女装止めろってか」
「うん、暴力教師だったけれど」
「そいつにも従わなかったんだな」
「床で背負い投げしてきたけれどやり取りの一部始終秘かに録音してたから」
 それでというのだ。
「教育委員会と市長さんとマスコミに通報してネットでも動画サイトに音声だけでもあげたから」
「暴力振るう教師にもか」
「負けなかったよ」
「床で背負い投げするってのは酷いがな」
「そんな奴にどうするかもわかってるし」
 暴力、それを振るって相手に服従を強いる様な輩にはというのだ。
「だからね」
「負けないんだな」
「女装は続けていくよ」
「それが御前の人生ってやつか」
「恋人もいるしね」
 天羽は微笑んで友人にこのことも話した。
「だからね」
「あの娘もか」
「大事だし彼女といてね」
「幸せっていうんだな」
「うん」
 このことについてはだ、微笑んで言う天羽だった。
「僕は今ね、だからね」
「それでか」
「これからも女装でいくよ」
「御前のままでいくんだな」
「うん、ただね」
「ただ?」
「今僕素足だよね」
 天羽は自分の今のファッションのことも話した。
「ミニスカートで」
「それがどうしたんだよ」
「これ女の子もだけれど」
 こう前置きして言うのだった。
「僕ミニスカート大好きだけれど」
「下手に動いたら下着見えるとかか?」
「下着も女ものだけれどね」
 天羽はそこまで徹底して女装しているのだ。
「そう、それならね」
「何か話が見えないんだけれどな」
「だから。毛だよ」
 天羽が言うのはこのことだった。
「僕元々かなり薄毛でお髭も生えないけれど」
「元々男性ホルモン薄いんだな」
「胸毛とかもないよ、けれどね」
「ああ、どうしても脛毛はか」
「少しだけでも生えるから。手だってね」 
 今度はカレーを食べつつ空いている左手で右手を擦って話した。
「生えるからね」
「その処理が大変なんだな」
「これ女の子ならね」
 それこそというのだ。
「誰でもだと思うよ」
「それで御前もか」
「いつもクリーム塗ってるから」
「脱毛のあれか」
「あと眉毛も手入れして。生えないけれどお髭のチェックもして」
 見れば顎は文字通りツルツルとしている、髭を剃った後独特の青々とした感じは全く見られない。最初から剃っていない感じだ。
「それでね」
「毎日やってるんだな」
「それは大変だよ」
「毛な、俺はな」
 友人は自分のことを話した、天羽と同じ位の背丈ですらりとしたスタイルで面長だが見れば髭を剃った後が結構目立つ。
「実は毛深い方なんだよ」
「お髭の後凄いしね」
「ああ、本当にな」
 結構というのだ。
「胸毛だって脛毛だってな」
「実は凄いんだ」
「ああ、けれどな」
 それでもというのだ。
「剃ってないな」
「だってその服装だとね」
 男もののシャツにジーンズだ、その恰好ならというのだ。
「その必要ないよ」
「そうだよな、だからな」
「剃らないんだね」
「大抵の奴がそうだろ」
 男の身なりをしている男ならというのだ。
「剃るのは髭位だな、相当コンプレックスあるとな」
「毛深さにだね」
「剃るかも知れないな」
「西洋人なんかもっと凄いよ」
 所謂コーカロイドはというのだ。
「もうね」
「髭とか胸毛とかな」
「脛毛だってね」
「かなりだよな」
「あの人達が僕みたいな服着ようとしたら」
「もっと大変か」
「毛の手入れがね、けれどこの姿の時が本来の僕だから」
 女装、その時がというのだ。
「だからね」
「これからもか」
「ちゃんとね」
 まさにというのだ。
「毛の手入れもしていくよ」
「そうか、頑張れよ」
「そう言ってくれるんだ」
「友達だからな」
 友人は天羽に素っ気ないが暖かい声で返した。
「そうするさ」
「そう、有り難う」
 天羽は友人の今の言葉と心に微笑んで応えた、そうして彼と一緒に昼食を食べてそれから恋人のところに行くことにした。
 だが友人と別れる時にだ、彼に微笑んで言った。
「嫌なことを言う奴もいるけれど」
「御前の女装にか」
「あの暴力教師みたいにね」
「そいつ結局どうなったんだ」
「暴力で懲戒免職になったよ」
 天羽があちこちに通報し拡散したそれでだ。
「個人情報もネットで出たし」
「じゃあ破滅したんだな」
「完全にね、もう何処にいるか」
「そうか、自業自得だな」
「そうした奴もいるけれど」
 それでもという口調で言うのだった。
「君みたいな人、それに彼女もいてくれるから」
「いいっていうんだな」
「僕も本来の僕のままでいられるんだ」
 女装したその姿でというのだ。
「君にも僕を理解してくれている他の人達にも感謝してるよ」
「そうなんだな」
「うん、じゃあね」
「ああ、彼女のところ行ってこいよ」
「そうしてくるよ」
 優しい、美少女を思わせる微笑みを浮かべてだった。天羽は友人と別れ彼女のところに向かった。彼にとって有り難い理解者と理解者の間を行き来出来ている彼は幸せも感じていた。


優しい理解者   完


                   2018・9・27

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