別の形で復帰
 風張光人は今は音楽から退いて通っている高校の演劇部において端役等をやっている。だがその彼にだ。
 親しい者はよくこう聞いた。
「もう音楽はいいのか?」
「作曲しないの?」
「折角いい曲何度もヒットさせたのに」
「復帰しなくていいの?」
「ああ、今はさ」
 明るいが何処か陰のある表情になってだ、光人はいつもこう答えていた。
「こっちの方がずっといいから」
「音楽よりもか」
「音楽は聴くだけにして」
「作曲は忘れて」
「演劇に専念したいのね」
「そうなんだよ、俺ちょっと疲れたんだよ」
 やはり明るいが何処か陰のある口調と表情だった。
「作曲に」
「一曲あまりヒットしなくて」
「それでか」
「だからなのね」
「うん、そのことがあって」
 それでというのだ。
「今はさ」
「作曲から離れて」
「音楽を聴いて演劇をする」
「それでいいの」
「今はね」
 こう言ってだ、光人は実際に作曲から離れていた。だがそんな彼にある日通っている学校のゲーム部の部長、彼の先輩から相談があった。
「うち今ゲーム製作してるけれど」
「あっ、そうなんですか」
「アドベンチャーゲームでね」
「アドベンチャーですか」
「推理のね」
「そういえば何か」
 光人は自分のプレイステーションやスマホ、パソコンのゲームの知識から部長に答えた。
「最近のゲームってアドベンチャー少ないですね」
「推理のそれはね、けれどね」
「そこをあえてですか」
「同人だけれど」
 この形でというのだ。
「製作していて完成したら発表して」
「そうしてですね」
「売り上げは部費にしようと思ってて」 
 それでとだ、部長はさらに言った。
「今脚本とかを部員で手分けしているけれど」
「順調ですか?」
「出来も含めてね、ただね」
 部長は一呼吸置いてから光人に話した。
「一つ困ったことがあるんだ」
「それで俺に相談に来たんですか」
「そうなんだ、音楽担当が実はいないんだ」
「音楽が」
「音楽担当の部員が親の仕事の都合でタイに行って」
 そうなってしまってというのだ。
「急にいなくなったんだ」
「それじゃあ」
「うん、音楽担当がいなくなって」
「それで俺にですか」
「名曲幾つも作った君にボランティアみたいな形になるし」
 部長はこのことについて申し訳ないといった顔で述べた。
「休業中だけれど」
「そういうのはいいですけれど」
「お金とかのことは」
「俺作曲お金欲しくてやってたんじゃないですから」
 それでとだ、光人もこのことは断った。
「確かに凄い収入になってて今も印税入ってますけれどね」
「それでもなんだ」
「お金はいいです、ただ」
「休業中だからかな」
「はい、ですがちょっとゲーム見せてくれます?」
 光人はこのこと自体に興味を持って部長にお願いした。
「一体どんな風か」
「うん、じゃあ今日の放課後うちの部に来てね」
「演劇部にはちょっと遅れるって言っておきます」
「よし、じゃあ見てね」
「そうさせてもらいます」
 二人で話してだ、そのうえで。
 光人は部長に案内されてゲーム部の部室に入ってそのゲームを観た、正直言って彼が思っていたより遥かにいい出来だった。
 それが踏み出すまでにはかなり迷う彼を後押ししてくれた、それで彼は部長に顔を向けてこう言った。
「あの」
「どうかな」
「面白いですね」
「そう言ってくれるんだ」
「このゲーム話題になりますよ」
「発表すればだね」
「同人ゲームの世界で」
 部長にはっきりと言った。
「間違いなく」
「僕達にとって会心の出来だしね」
「はい、ただ」
「音楽がないね」
「これで音楽があったら」
 いいそれがあればというのだ。
「完璧ですよ、そして」
「ひょっとして」
「そのひょっとしてです、マジで心動きました」
 光人は部長に顔を向けたまま答えた。
「ですから」
「作曲してくれるんだ」
「その場面その場面で相応しい曲を」
 作曲するというのだ。
「ゲームの容量との関係もありますけれど」
「うん、音楽はやっぱりね」
「結構容量食うんですよね」
「三十年ちょっと前のゲームは七曲で驚かれたんだよ」
「多いってですね」
「だからね」
 それでというのだ。
「同人ゲームだしね」
「普通の企業のゲームじゃないから」
「だから容量の問題があるけれど」
「それでもですね」
「音楽も出来るだけ多く入れたいから」
「だからですね」
「うん、宜しく頼むよ」
「わかりました、それにこっちの音楽は」
 光人はゲーム音楽についてこうも述べた。
「昔やってたヒットさせないといけないって曲と違うんですね」
「いい曲を作曲しないといけないことは同じだよ」
「それでもですね」
「その場面に一番相応しい音楽」
「それが大事ですね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「そのことを考えてね」
「そのうえで」
「うん、頑張ってくれたらいいから」
「わかりました、じゃあ」
「これからだね」
「作曲させてもらいます」
 光人は部長に笑顔で答えた、そうして演劇部の活動と一緒にゲーム部のゲームの作曲も行った。彼の暮らしは作曲の分多忙になったが。
 それでもだ、友人達に笑顔で言えた。
「最近楽しくて仕方ないんだよ」
「ああ、ゲーム部のゲームの作曲」
「それがあってか」
「だからなのね」
「今楽しいの」
「プレッシャーはあるよ」 
 いい曲を作曲しようとするそれがというのだ。
「けれどな」
「それでもか」
「前の作曲と違うのね」
「ヒット曲を生み出さないとってそれは」
「ないんだな」
「うん、俺の苦手なジャンルの曲の作曲があっても」
 暗かったりする曲がだ。
「けれどね」
「これまでと違うか」
「それは事実だから」
「いいんだな、今のゲームの作曲」
「楽しいのね」
「こんな作曲もあるんだな」
 しみじみとして言う光人だった。
「それもわかったよ、だから今俺凄く楽しいよ」
「ゲームの作曲して」
「演劇部の活動もあって」
「どっちも楽しくて」
「それでなの」
「ああ、毎日充実してるよ」
 満面の笑顔で言ってだ、実際にだった。
 光人は充実した日々を感じ気持ちよく音楽を作曲出来た、そうしてその作曲をして完成してだった。
 部長に音楽の場面と合わせて出すとだ、部長は彼に確かな顔で答えた。
「これでね」
「いいですか」
「うん」
 部長は彼に深く考える顔で答えた。
「いいよ、やっぱり凄いよ」
「ゲームのそれぞれの場目に会ってますか」
「凄くね、文句なしで」
「それじゃあ」
「合格だよ、あとね」
「あと?」
「君こっちの才能あるから」
 部長は光人に顔を向けてこうも言った。
「ゲーム音楽のね」
「そうですか」
「どうかな、もっと作ってみたらどうかな」
 ゲーム音楽をというのだ。
「君に時間があったら」
「それじゃあ」
「うん、君がよかったらね」
「そうですか、考えてみます」
「そうしたらいいよ」
 部長は光人が作ったゲームの音楽を聴きつつ彼に言った、そして光人自身部長に言われてゲーム音楽について真剣に考える様になった。
 そこにゲームが好評でしかも音楽が特に高い評価を受けたと聞いて彼は決心した。それで部長に対して自分から言った。
「俺これからも」
「ゲーム音楽作っていくんだ」
「はい、今は高校生であまり時間がなくて」
「演劇部の方もあるしね」
「時間がないですが」
「それでもだね」
「作っていきます」
 ゲーム音楽、それをというのだ。
「そうしていきます」
「いいと思うよ、一曲一曲全部ヒットさせるジャンルじゃないし」
 ゲーム音楽はというのだ。
「どれだけゲームに合っていて出来がいいか」
「ヒットさせるんじゃなくてですね」
「そうしたものだから。比較的リラックスしてね」
 アーチストのシングルの作曲の時より遥かにというのだ。
「作曲していってね」
「わかりました」
 光人は頷いた、そうしてゲーム部の音楽を時間がある限り行い。
 そこからゲーム音楽作曲家として復帰することになった、やがてアニメの音楽にも携わる様になった。それが彼の新たな音楽のジャンルともなった。彼は後にインタヴューでゲームやアニメの音楽について語った。
「いいものですよ、本当に」
「そうなのですね」
「こちらで復帰、音楽活動を再開出来て」
「ヒット曲を連発されてましたが」
「いや、不発の曲があったんで」
 このことも言うのだった。
「その時のプレッシャーを思うと」
「ゲームやアニメの音楽はですか」
「プレッシャーはあっても」
 いい曲を作ろうというそれがというのだ。
「あの絶対にっていうのがなくて。いい曲を作曲することは絶対でも」
「売れ行きだけで言われることがない」
「それがいいです、だからこれからも」
 売れ行きを異常に言われることがないからだというのだ。
「ゲームやアニメの音楽をです」
「続けていかれますか」
「はい、いい曲作っていきます」
 笑顔で言ってだ、光人はそちらの作曲を続けていった。彼が辿り着いた新境地は彼にとって素晴らしい世界であった。


別の形で復帰   完


                  2018・9・28

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