星のパイロット
 樫之浦琉星は童話の星の王子様が好きだ、それこそ文章を暗唱できる位読み込んできたしその素敵な場面が常に頭の中にある。
 その彼が今演劇部の部室であるプラモを観ていた、それは胴体が二つある非常に変わった形のプロペラ機だった。
 彼がプラモデルを見る姿を見て部室に入ってきた女子部員が彼に尋ねた。
「その変わった飛行機何?」
「これP-三八っていうんだ」
「P-三八?」
「うん、第二次世界大戦中のアメリカ軍の戦闘機でさ」
 琉星は女子部員にその飛行機のことをさらに話した。
「活躍したんだよ」
「そうだったの」
「これにアントワーヌ=マリー=ジャン=バティスト=ロジェ=ド=サン=テグジュペリが乗っていたんだ」
「何、滅茶苦茶凄い名前ね」
 長いし物々しいとだ、女子部員は眉を顰めさせて言った。
「びっくりしたわ」
「星の王子様の作者だよ」
「あんたの好きな作品の」
「そうなんだ、あの人この戦闘機の偵察型に乗っていて」
 それでとだ、琉星はそのプラモを観ながら話していった。部室の中のパイプ椅子の一つに座って観続けている。
「撃墜されてね」
「ああ、戦死したのよね」
「そのことは知ってるんだ」
「だってあんたが前に話してたから」
 それでというのだ。
「星の王子様のこと部室で話した時に」
「作者さんもパイロットで」
「それでサハラ砂漠に不時着したって」
「その時は助かったんだよ」
 広いサハラ砂漠に不時着した時はというのだ。
「三日かかって帰ってきてね」
「それでその時のことでよね」
「星の王子様書いたんだ」
 琉星にとって意中の作品と言っていいこの作品をというのだ。
「だから不時着は運命だったんだろうね」
「星の王子様を書く為の」
「そうだったんだろうね、けれど」
 琉星はプラモを観たまま悲しい顔になって言った。
「結局ね」
「最後はなのね」
「空で死んだんだよ」
「撃墜されて」
「戦争だったからね」
 それ故にと言うのだった。
「仕方ないけれど」
「作者の人も覚悟して行ったのよね」
「うん、祖国フランスの為にね」
「それで撃墜されたのね」
「この飛行機に乗っていた時にね」
「それで今も観ているのね」
「昨日買って作ったんだ」
 そうしたこともだ、彼は話した。
「それで部室にも持って来たんだ」
「何でわざわざ持って来たのよ」
「いや、脚本にインスピレーションになるかなって」
「そう思ってなの」
「持って来たんだ」
 そうしたというのだ。
「今日はね、けれどね」
「けれど?」
「観ていると悲しくなるね」
「そういえばちゃんと塗装もしてるわね」
「その時の仕様にね」
「作者さんが乗っていた時の」
「そうしたんだ、本格的に」
 つまり完全に偵察型として作ったというのだ。
「塗装だけにしてもね」
「じゃあその飛行機に実際に」
「あの人は乗っていてそして」
「戦場を飛んでいて」
「死んだんだ、死んだ時どう思ったかな」
 琉星は作者、テグジュペリのことをさらに思った。
「もっと飛びたかったか書きたかったか」
「どちらかっていうのね」
「俺本当に好きだから」
 星の王子様、この作品がというのだ。
「髪の毛を染めてるのも脚本に砂漠出したいのも」
「星の王子様よね」
「この作品からだから、だからね」
「作者の人のことを考えずにいられないのね」
「事故を起こしてもう乗るなって言われてもね」
 それでもというのだ。
「何とか空に戻った様な人だったし」
「飛行機とお空がそこまで好きだったの」
「よく飛行機野郎っていうけれど」
 日本独自の言葉ではある、飛行機に情熱を注いで生きている人達のことだ。だがこうした人はやはり世界中にいるのだ。
「あの人もそうだったんだ、夜空も見たし」
「夜に飛んだ時に」
「砂漠から夜空も見たしね」
 星の王子様そして琉星が書く世界の様にというのだ。
「そう思うとね」
「作者さんのことを考えずにいられないのね」
「無念だったのかな」
 もっと飛びたい、書きたかったからだというのだ。
「やっぱり」
「それはわからないけれど」
 女子部員もまたパイプ椅子に座っていた、そうしてプラモデルが置かれているテーブルを琉星と一緒に囲んでそのプラモを観つつ彼に話した。
「あんた本当に星の王子様好きよね」
「好きなんてものじゃないよ」
 それこそという返事だった。
「俺の脚本と髪の色でわかるよね」
「それさっきも話したけれど」
「人生のモチーフみたいなものだよ」
 琉星のそれのというのだ。
「だからね」
「好きってレベル超えてるわね」
「俺にとってはね」
「天国の作者さん今のあんた見てるわよ」
 女子部員はここまで聞いて彼に微笑んで言った。
「自分の作品にそこまで思うあんたをね」
「そうなんだ」
「それで喜んでるわよ、それで天国でもね」
 今いるその世界でもというのだ。
「書いて飛んでるんじゃない?」
「そうしてるかな」
「あちらでもね、それで幸せに過ごしてるんじゃないかしら」
 生きていた時の様にそうしてというのだ。
「それであんたやあんたみたいに自分の作品にそこまで想っている人を見て」
「だといいね」
「きっとそうよ、だからあんたはこう思えばいいのよ」
 笑みを浮かべてだ、女子部員は琉星に話した。
「星の王子様を世に送り出して有り難う、そして天国でもね」
「書いて飛んで」
「そうして下さいってね」
「死んだことを悲しむんじゃなくて」
「そうよ、それに大好きな空と飛行機の中で死ねたんだから」
 このこともあってというのだ。
「本望だったと思うし。だったらね」
「天国でも幸せに」
「そう思えばいいのよ」
「そうなんだね、じゃあ」
 琉星は女子部員の言葉に頷いた、そしてだった。
 それまで悲しい顔だったのを変えてだ、笑顔になって。
 オルゴールを出してかけた、そのうえで言うのだった。
「これからはオルゴールの曲を聴きながらね」
「あんたオルゴールも好きだしね」
 それから出される音楽をというのだ。
「そのプラモデル観るのね」
「そうするよ、あの人は天国でもこの飛行機に乗って」
「飛び続けてるわね」
「そして降りたら今度は書いているんだ」
「そうしてるわね」
「星の王子様にも会ってお話をして」
 作品の彼と、というのだ。
「星と星の間も旅していて」
「あんたみたいに自分の作品を愛している人を見てね」
「笑顔でいるね」
「絶対にそうよ」
「そうだね、あの人は今凄く幸せだね」
「天国でね」
「そう思うと悲しく思う必要はないし」
 それでとだ、彼は気付いて言った。
「プラモを観てもね」
「笑顔になれるわね」
「うん、あの人が天国でも乗っているからね」
 それならとだ、笑顔になってだった。
 琉星は笑顔でオルゴールの音楽を聴いてプラモを前にして次の脚本を書きはじめた。女子部員はその彼に頑張ってね、と笑顔で言った。そして以後彼がそのプラモデルを観て悲しい気持ちになることはなくなった。天国でもと思い笑顔になる様になった。


星のパイロット   完


                  2018・9・28

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