薬屋の忍者
 良佳は三重県伊賀市にいる忍者であり薬屋の店員だ、この職業から伊賀市の人々は一つ思うことがあった。
「まさかな」
「忍者って薬の調合もするよな」
「毒薬な」
「それ作ってるな」
 このことを話すのだった。
「じゃあな」
「若しかしたら」
「良佳ちゃんもな」
「ひょっとしたら」
「毒も」
 こう考えずにはいられなかった、それでだった。
 良佳について警戒するものがあった、だが良佳は忍者独特の修行から培った勘からそうした声に笑顔で答えた。
「毒のレシピ知ってるで」
「ああ、やっぱり」
「やっぱりそうか」
「忍者だけあってな」
「毒の造り方知ってるか」
「そうなんだな」
「トリカブトとか使って」
 毒の具体的なものも挙げていく。
「色々な毒造られるで」
「それまずいだろ」
「毒なんか造ったら」
「そんなことしたら」
「いや、知ってるけどな」 
 それでもとだ、良佳は笑って答えた。
「実際に造るかどうかは別やん」
「だから造らないか」
「それはしないか」
「法律で禁止されてるから」
 だからだというのだ。
「そうしたことはな」
「しないんだな」
「流石に」
「毒を造ることはしないか」
「知っていても」
「知っててもな」
 それでもというのだ。
「犯罪やから」
「実際に造ったらか」
「それで売ったら」
「法律は守らなあかんやん」
 この常識をだ、良佳は話した。
「そやから最初から造ることせんし」
「売ることなんてもっとか」
「しないんだな」
「そやで、若し売ったら」
 その時はというと。
「うち捕まるやん」
「見事に犯罪者か」
「そうなるからか」
「せんで、売る薬はな」
 それこそというのだ。
「普通のお薬ばっかりやで」
「それは何よりだよ」
「忍者だからっていっても毒は売らないか」
「造り方を知ってても」
「それでもか」
「そや、造らんし売らんで」
 それはあくまでというのだ、それでだった。
 良佳は毒は売らなかった、だが。
 激務が続いてかなり疲れている客を見てだ、良佳はすぐにその客に言った。
「これはあきません」
「駄目だっていうと」
「お客さん疲れ過ぎです」
 こう言うのだった。
「それでは近いうちに倒れますで」
「そうなると思って」
 全く元気のない顔でだ、客も話した。
「ここに来て」
「元気のつくお薬をですね」
「貰いに来たけれど」
「はい、それならです」
 即座にだ、良佳は客にある薬を出した。その薬はというと。
「うちが造った漢方薬です」
「元気で出るだね」
「高麗人参に冬虫夏草、スッポンにマムシ等様々なものを入れた」
「そうしたなんだ」
「精力剤です」
「これを飲めば」
「もうすぐにです」
 即座にというのだ。
「回復出来ます」
「そんなに凄いんだね」
「値は張ります」
 このことも言う良佳だった。
「ですがそれでも」
「飲んだらだね」
「過労もです」
 どう見てもかなり重度のそれである客もというのだ。
「一発で消し飛びますさかい」
「だからか」
「召し上がって下さい」
 是非にと言うのだった。
「そうして下さい」
「それじゃあ」
 是非にと唸ってだ、それでだった。 
 客はその場で金を出して薬を飲んでみた、すると。
 それまで誰が見ても倒れる寸前だったが背筋が伸びて顔が引き締まった、英気に満ち溢れた顔になり。
 それでだ、良佳に言った。
「驚く位にね」
「元気になりましたか」
「うん」
 そうなったというのだ。
「今ね」
「このお薬はです」
「ちょっと飲むと」
「はい、かなりの疲れでも」
「消し飛ぶんだね」
「そうなります、ただ」
 良佳は客にこうも言った。
「やっぱり身体はお薬よりも」
「飲むよりもだね」
「休むのが一番です」 
 それが最も効果があるというのだ。
「沢山寝る」
「それがなんだね」
「一番ええですから」
 それでというのだ。
「お薬よりも」
「それよりもだね」
「値て下さいね」
「うん、じゃあ」
「はい、よく寝て下さい」
 このことをアドバイスすることも忘れなかった、倒れる寸前の客を薬で救ってからも。その他にもだった。
 冷え性で来た初老の女性の客にもだ、こう言った。
「お風呂に入って運動をしたら」
「冷え性はなのね」
「随分違います」
 よくなるというのだ。
「冷え性の為のお薬もありますし」
「今出してくれたけれど」
「まずはです、あったかい服を着て」
 そうしてというのだ。
「お風呂によく入って」
「身体を動かすといいのね」
「ジョギングなり散歩なり」
「軽い運動?」
「はい、そうしたらです」
 それでというのだ。
「ほんまにちゃいますから」913
「お薬に頼らないで」
「そうして下さい」
「それが一番いいんだね」
「はい、それとです」
「それと?」
「どうもです」
 ここでこうも言った良佳だった。
「お客さん肩凝りもしてるみたいですけど」
「そっちも酷いのよ」
 その通りだとだ、女性客は答えた。
「実は」
「肩凝りにもあったかくして」
 そうしてというのだ。
「運動がええんです」
「お散歩とか」
「肩は特に」
「特に?」
「ストレッチがいいです」
 これがというのだ。
「身体全体を寝る前とかにしたら」
「いいの?」
「はい、身体があったまってよく寝られますし」
 この効果もあってというのだ。
「ほんまにです」
「ストレッチもいいのね」
「とにかく身体をあっためましたら」
「冷え性にも肩凝りにも」
「かなりちゃいます」
 女性客にこうアドバイスをするのだった、薬を調合して売るだけでなくそうしたアドバイスもだった。
 好評で店も良佳も評判がよかった、それでだ。
 店長もだ、良佳に言うのだった。
「良佳ちゃんがいてくれて」
「それで、ですか」
「凄くね」
 笑顔での言葉だった。
「お店の評判もいいし薬も売れて」
「商売繁盛ですか」
「そうなってるからね」
 だからだというのだ。
「店としてもね」
「嬉しいですか」
「だからね」
 店長は良佳にあらためて話した。
「これからもね」
「この店で働かせてくれますか」
「是非にだよ」
 まさにというのだ。
「宜しく頼むよ」
「わかりました、ほな」
「これからも頼むよ」
「そうさせてもらいます」
 笑顔で話してだ、そのうえでった。
 良佳は店で忍者兼店員として頑張っていた、彼女は仕事に励んでいたが忍術の修行も欠かしておらず。
 毎朝のランニングとサーキットトレーニングは欠かさない、それで足も速く身体のバネも柔軟さも併せ持っていて。
 店長にだ、このことについても言われるのだった。
「やっぱり今朝もだよね」
「はい、朝早く起きて」
 実際にとだ、良佳は笑顔で話した。
「準備体操の後はです」
「走ってだね」
「サーキットトレーニングしてです」 
 そのうえでというのだ。
「シャワー浴びて来ました」
「そうだね」
「いい汗かいてきてますから」
 それ故にというのだ。
「今日も気分爽快です」
「それで身体もだね」
「健康です、若し何かあっても」
 身体の調子が悪くなってもというのだ。
「薬造って」
「それを飲んでだね」
「治しますさかい」
「忍者は健康にいいんだね」
「はい、身体動かして薬造って飲めますさかい」
「そう思うといいね」
「特に薬屋さんになるには」
 まさにというのだ。
「天職やと思います」
「そうだね、じゃあ修行は続けてね」
 薬屋の仕事と共にとだ、店長は良佳にこのことも話した。そうして元気に働く彼女を見て自分元思い仕事に励むのだった。


薬屋の忍者   完


                  2018・10・27

作者の作品一覧 クリエイターページ ツイート 違反報告
{"id":"nov15406120747265","category":["cat0800","cat0008","cat0010","cat0016"],"title":"\u85ac\u5c4b\u306e\u5fcd\u8005","copy":"\u3000\u5fcd\u8005\u3067\u3082\u3042\u308b\u85ac\u5c4b\u306e\u5e97\u54e1\u826f\u4f73\u306e\u50cd\u304d\u3076\u308a\u306f\u4e00\u4f53\u3069\u3046\u3044\u3063\u305f\u3082\u306e\u304b\u3068\u3044\u3046\u3068\u3002","color":"#a3a3ab"}