ワタシは貴子。25歳。
二年前に、結成していたチームYOGOでの活動を、物語にして「長浜ものがたり大賞」に応募した。選にはもれたけれど、作品を自分のブログにUPしたりして、何人かの友人知人からは反応をもらった。ほぼ失笑。その原因はなんですか?失笑って。軽すぎたかなあ・・・まあ、書きたいことは書けたしね。いいのいいの。
時は流れて2018年。また「長浜ものがたり大賞2018」が・・・。作品募集の発表があった時から、ずっと気になっていたのだけれど。今はもう11月。締め切りまで一週間を切っている・・・火がつくのか?!書けるのか?!間に合うのか?!また軽いやつ・・・。OKOK!!
この二年の間に、ワタシの環境は激変した。前作の最後に登場した、サトカが見つけてきた、イカ人男子名前は、タカシ。今はワタシの旦那様なのだ。この成り行きを物語にするだけで、「貴子とタカシの大恋愛物語IN長浜」ができあがる。作品募集の要項を読むと・・・長浜にゆかりのある出来事・・・だったよね。そうよ。そうよ。それ書けばそんでええんちゃうん!!??私小説。そうね。それもいいかもね。じゃあ、それも書くとして・・・。先ずは、前作の持ち越し課題「チームIKA」の初ミッションはどうなった!? そのことから書かないと。さあ物語をはじめよう。 

 チームIKA 初ミッション
〈元旦の朝の金の鳥の鳴き声聞ける?!〉
サトカが探し出した、男子と大晦日に初めて逢った。珍しくチームYOGO四人が揃った。東京で知り合ったというタカシだった。年はワタシより二つ上、学年では一つ違いだけれど。知り合いの知り合いという紹介で出会った二人、滋賀県出身というところまでは聞いていたらしいのだが、話せば短く、彼は長浜市木之本町の出身だったのだそうだ。そこから弾んで、早速チームに入会の了解を得て、グループSNSにも招待して、画面での会話は交わしていたが、今日が彼と地元三人とは初対面の日だ。
「はじめまして」
落ち着いた声で挨拶した彼は、SNSでのやりとりからのイメージとは全然違う男子だった。
(地味)
サトカとはお友だちらしいけど、地元組三人は、少し緊張気味だ。さらにタカシはなぜだかワタシの方を見ているようで、さっきから何度も目が合う。
「よろしくお願いします。タカシです。早速ですけど・・・・、ミッションの『金の鳥の鳴き声を聴く』はこの雪では無理ですよね。指定のエリアは除雪されてない場所ですよね。そもそも、冬に山奥に行くなんて、無謀ですよね。それとも冬登山の覚悟で出かけますか?無理ですよねこのメンバーじゃ。」
(標準語やん なんなん、こいつ。初対面でいきなり否定からか!)
木之本人のくせに、標準語を話すタカシの第一印象は正直、悪かった。タカシは冷静に発言を続けるが、さっきから何度もワタシを見る。
「それでですね。ちょっと提案があるんですけど・・・」
「ちょっと待って」
シホがタカシの言葉を遮った。
「タカシ君が仕切るん!?」
「ホンマに!」「いきなりやん!!」
アミとワタシも叫んだ。
「まあ、いいやん。ここは一つタカシ君の話を聞いたって欲しいんよ」
サトカが申し訳なさそうに、そう言って手を合わせて頼むしぐさで私たちに目で訴える。
 ワタシたち三人は、サトカのお願いには弱いのだ。仕方がない。金の鳥の声は来年一には聞けそうにない。まあいいか・・・。タカシ君の話聞いてみるか・・・。

タカシからのお願い
「僕の実家は木之本町なんやけど、飯浦って知ってる?」
 (こっから急に、湖北弁かいな)
心のなかで私は突っ込んだ。
「夏の休みに、実家に帰ってた時に、じいちゃんの書斎で一冊の本を見つけたんや」
 (ふんふん)
「あ、そうや、君ら藤ヶ崎って地名聞いたことあるか?」
「知ってます。知ってます」
「このごろよう聞きます」
「なんか、山のイベントとかしゃはるようになったとこでしょ?」
 タカシ君の説明によるとこういうことだ。長浜市木之本町飯浦小字藤ヶ崎。最近ここの山で様々なイベントがされていて、ミニ新聞とかにも紹介されている。今は国道に新しいトンネルができて、旧国道は車も通らなくなったのだが、飯浦の信号から新しい国道ではない道へ曲がり、少し走って、岬をまがってすぐの山側あたり。飯浦からは、竹生島がよく見えるけれど、藤ヶ崎からは竹生島は見えない。道から少し登った所にある今は少し廃屋感のある建物の屋上から見る景色は絶景。。朝、夕、夜、それぞれが綺麗で今は車も走らなくなったので静か。夜に星が輝き、月夜も素晴らしい。霧に包まれる日などは幻想的で、ここからの景色が滋賀県一という人もいる。 
「そうそう、そこ。そんでなその見つけた本にな、観音様のことが書いてあったんや」
長浜市の観光の売り出しコピーの中に「観音の里長浜」というのがあるくらいに、市内のあちこちのお寺には観音様がいらっしゃる。お寺とはいえないお堂や、村で管理されている観音様もある。観音信仰がこんなに広がっているエリアは湖北以外にはないようだ。ワタシの住んでいる余呉にもたくさんの観音様があちこちの在所にいらっしゃる。
「それでな、その藤ヶ崎に、お寺があって、観音様がおられたんやって。ところがそのお寺と観音様は事情があって彦根の方に行かれたってことらしいんや。それでな。昭和三十四年にな、その観音様を見つけ出して、その複製を造られて飯浦につれて帰られた人がいてはるんや。そのいきさつが本になってるんや。僕が見つけた本や」
「観音様有名なのは知ってます。ワタシもちょっと興味あります」
 そういってちょっと身を乗り出した。
タカシはじっとワタシを見つめてこういった。
「似てるんや・・・その観音さんに」
「はあ??えっつ!!??ワタシがですか?」
 初対面の人に、観音様に似てると言われるのも変な話だ。なんだこの人。ワタシ以外の三人もあっけにとられている。
「それでな、その観音様は、江戸時代に、藤ヶ崎から稲枝に行かれたそうなんやけど・・・。今度僕と一緒に稲枝に言って欲しいんや。チームIKAで探って欲しいんや」
 一気に言いきって、タカシは皆を見渡した。そして最後に、
「貴ちゃんは必ず来て欲しい」
 と、小さく言ったのだ。
 (いきなり貴ちゃんて・・・。気安く、ちゃんづけで呼ばんといて欲しいわ)
「いいやん!!面白そう!!行こう行こう!」久しぶりに参加しているアミが乗り出した。
「ちょっと待って。稲枝行く前に、先に藤ヶ崎行っとかんとあかんの違う?あたしらチームYOGOやったから、余呉詳しかったけど、木之本のことしらんやん、飯浦もよう知らんし。トンネル出たとこ?あんなとこ在所ってあったっけ??」
サトカは冷静だなあ。いつも。
 この日のタカシ君と三人との初対面はこんな風に過ぎて行った。今日は大晦日なので、タカシ君は家族と過ごすと言ってワタシたちを残して帰って行った。
「それじゃあ 今後の計画はまたSNSでやりとりってことでよろしくお願いします」
 最後には、礼儀正しく挨拶をしていった。最後にタカシ君と目があったのは私だった。気のせいかな??
「なあ。ほんで、金の鳥はとりあえず来年の正月には聞けんってことなんやな。明日やけどな。あのミッション次の年まで持ち越しなんやな・・・。」
 シホは、ずっとドライブも一緒にしてきたから、すごく残念そう・・。そりゃそうやんな。ワタシももちょっと残念やもん。

 SNS チームIKAで
 タカシ{こんばんは。今日はありがとうございました}
 サトカ{タカシ君。どう!?チームIKA。やっていけそう?}
 タカシ{ありがとう。大丈夫です}
SNSの着音が鳴りだした。私も参加しようかな。しばらくスルーでいいか・・・。
 サトカ{誰?読んでるの貴子?タカシ君どお?(笑)}
 どお?って聞かれても・・・。すこし悩んでいたら、SNSで単独にコメントが届いた。
あれ??タカシ君・・・・・
タカシ{個別にすみません。タカシです}
ありゃ。なんだろう・・・。とりあえず、こっちはスルーでいいやんね・・・。
貴子{タカシ君。今日はありがとうございました。新しいミッションもわかりました}既読3
アミ{タカシ君 アミです。私は南に行くのは賛成です(笑)} 
タカシ{それで、早速なんですが、お正月ですが皆さん予定はどうですか?僕は明日、藤ヶ崎に行けますが。一緒に来てくださる方はいますか?}
サトカ{あたしは予定あって無理}
アミ{私も×です}
 サトカもアミも予定あるのか・・・。ワタシは大丈夫なんやけど・・・シホ見てないのかな・・・シホもダメなら、ダメって流そう・・・。そんなことを考えながら、画面を見ていたら、タカシ君からダイレクト連絡が来た。
タカシ{貴子さんには来ていただきたいです}
 うわああああ。誘われてる!!??ひ~~~っ。
シホ{ごめんごめん!大掃除まだできてなくて・・・(涙)今やってた・・。あたしも明日は無理}
(うわあ。シホもあかんのかあ・・・。)
タカシ{じゃあもし貴子さんがよければ、二人で行ってきますが・・・}
 「いいよ」「OK」「グー」そんな感じのスタンプが三つ並ぶ。とほほ。どうしようかな・・・。
タカシ{貴子さん ダメですか?}
タカシ君から グループじゃない方に来た。
(ぐいぐい来るなあ・・・。まあ別にいいけど)
ワタシはタカシ君だけに返信のSNSに“いいですよ”と打って、送信した。すぐに既読がついた。そうしてグループには、
貴子{わかりました。じゃあ明日はワタシが行きます}既読4
サトカ{了解~タカシ君貴子のことよろしくね~(笑) それでは皆様よいお年を!!}
笑顔の動くスタンプとキャラクターの動くスタンプが二個、来た。アミとシホ。
タカシ{貴子さんありがとうございます。それでは皆様、来年からは観音様の件よろしくお願いいたします。よいお年をお迎えください}
タカシ君からの丁寧なコメントがグループに届いた。ワタシには、弾けたよろこびのスタンプが届いた。
(あら、タカシ君こんなスタンプ利用してるんや。ちょっと意外)
2016年の大晦日がチームIKAの記念日であったと同時に、ワタシたち二人の記念日となったのだ。

藤ヶ崎へ初詣!?
2016年の大晦日は、タカシ君とのSNSのやりとりが続き、年を越えた。
 翌日、ワタシたち二人は、飯浦にあるレストランの駐車場で待ち合わせた。先月からの積雪は少し残っているけれど、昨晩雪は降らなかった。今年はまだ大雪の日はそんなにない。、今日はすごく寒い。もう10時を過ぎているけれど、まだ路面は凍っている。ワタシは余呉から車を走らせ、駐車場に着いた。タカシ君はなんと、着物を着て立って待っていた。
(なんなん。正月気分気満々!!??)
「おめでとう」
「明けましておめでとうございます」
すこしぎこちなく挨拶をかわした。
 「お着物なんですね。ちょっとびっくりしました」
 「ばあちゃんが、着て行けって・・・。あのな藤ヶ崎に行く前にちょっと観音様を見て欲しいんや」
「え!?藤ヶ崎におられるんじゃないんですか?」
「昨日ちゃんと話してなかったんやけど、藤ヶ崎には寺の址もなんもなくて、昭和まで大きな観音様はそこに立ってはったんやけど、今は飯浦の寺にやはるんや。お参りする人のために、墓地の近くに移ってきてはるんや」
 ワタシは車を止め、タカシ君が話しながらスタスタと歩きだすので、急いでついて行く。少し歩いてちょっとした坂を上ったところにお寺があった。
「円福寺っていうんや」
 階段を上ると小さなお寺があった。本堂の左側をすこし歩くと、大きな観音様がすっくと立っておられた。
「この方や。下の台座には藤ヶ崎観音って書いてある。これは昭和になって、僕が見つけたこの本を書いた、藤田さんって方が、私費で藤ヶ崎に建てはったんや。藤田さんのこの本は、ちょっとしたミステリーなんや。」
 タカシ君は観音様を見上げながら、鞄からは一冊の本を取り出した。
「これや、この本なんやけど・・・。藤ヶ崎にお寺があったことも、観音さんがやはったことも、ぼくのばあちゃんらは知らんかったってことなんや。たまたまそこの土地を買うた藤田さんが、言い伝えやらなんやらを一つ一つ調べて、そこにお寺があったこと、観音様がいたことを、尋ね歩いて取材して、古文書やらも見つけださはったんや。観音様が稲枝にお行きになってることもつきとめはったんや。ついには昭和三十四年に、飯浦からの一行は稲枝で観音様に会うてはるんや。あらかた言うとこんな話なんやけど・・・どや。すごない??」
タカシ君は一気にまくしたてた。ワタシは観音様を見上げてはいたが、いきさつにはあまり興味がないので、(これって何メートルぐらいかな・・・)なんてことを考えていた。正直に口にした。
「何メートルあるんですか?かなりでかいですよね。緑色ですね。」
こんな発言しかできなかった。
「この像は台の部分が1メートルかな?お姿は3メートルくらいか?僕も測ってないけどな。稲枝におられた本物の観音様は一尺五寸なんや。本に書いてあった。長さわかる?45センチ位かな?」 
「あ~。わかりました。その45センチの本物の観音様が稲枝におられるってことなんですね。で?観音様を探せ!ってことですね」
 会話の流れでつぶやいた、この一言がタカシ君とっても嬉しかったらしい。あとでわかったことやけど。
「貴ちゃん。って呼んでいいかな?僕、昨日初めて逢った時に、この観音様に君が似すぎててびっくりしたんよ。似てると思わん??」
(え~~。なれなれしいな。もう、ちゃん付けか。ワタシこんな緑の顔ちゃうし。それに観音様って女性なん!!??)
「ちゃんですか・・はあ・・・まあいいですけど。似てますかね・・・?」
「仏像に性別はないんや。男性でもない女性でもない。観る人、拝む人がその方の性別を決めることができるんや」
ワタシの心の叫びが聞こえたんかな?そんで昨日あんなに目があったんか・・。いや似てんし。

 別世界へ
「観音様にも逢ってもらったし、藤ヶ崎行く?雪が道の横にあるし、旧国道は除雪してないから、止めとく?ぼくんちに来る?」
「あ・・・お家はいいです。今日は藤ヶ崎に行く気満々だったので、もしかしたら雪道歩く覚悟で来たので、お洒落もしてませんし。」
「そうやな。そりゃ悪かった、僕だけこんな恰好で、わかった。ほんならすぐ着替えて来るし、下の駐車場で待ってて。僕犬連れてくるし、藤ヶ崎まで散歩兼ねた初詣や。長靴はいてくるわ」
「あ、ワタシも車に長靴積んできました。犬飼ってるんですね。いいですよ。犬好きですし」
お寺で別れて、さっき案内されて来た道を一人引き返して車で待つことになった。
10分ほど待っていると、タカシ君が犬をつれてあらわれた、すこし大きな白い犬だった。
「レトリバーとコリーが両親で、僕の母親がもらってきた犬なんや。名前はタケ。ここから見える竹生島の竹からとったんやて。ちなみにな、竹生島の北側の姿を毎日見て暮せるのは、県内で飯浦だけなんや。犬が吠えたら、畑に悪さする獣たちのおどしになるかと思ってたらしいんやけど、吠えて欲しい時には吠えんらしいわ・・。アホらしい。」
 アホよばわりされて、きっとタケは不機嫌なんだろうかと、顔をみたけど、無表情だった。タケちゃん?タケ君?本当にアホなの?
「メスなんですか?オスなんですか?」
「オスやて」
「タケちゃん。よろしくね。タケとタカシ似てますね。あと貴子だし。」
「ほんまや タケタカタカ!ゴロ良すぎるな」
「お母さんきっと、この犬のことタカシ君とダブらせてはると思いますよ」
「まあタケのことはいいし、ほなその信号渡って行こうか・・・」
「タケ君のリードワタシが持ってもいいですか?」
「ええで」
 何気ない一言だったけれど、この出来事が運命を変えたのだ。ワタシたち二人と一匹は、交差点まで歩いて、信号機の押しボタンを押した。感応式の表示が点滅になって信号の色が変るのを待っていた・・・その時・・・走る車の窓から捨てられた空き缶に反応して、タケが急に国道に向かって突進したのだ・・・・・。引っ張られる私。
キキキ~~~~~~~~っ。バン!!!!
「ギャンっ!!!」
 タケとワタシは走ってきた車にはねられ数メートル飛ばされた。(らしい)
 タケの鳴き声を聞いたような気がしたけれど、体が割れるような感覚と痛みを感じて・・・あれ?もしかして交通事故・・・あああ・・・ヤバいかも・・・・イタタタタ・・・・・・・・。

ナマズの語り
気がつくと、タケと道を歩いていた。あら、タカシ君は?藤ヶ崎行くんやったよね?ん??なんか変・・・。国道違うし、景色が・・・ない。ない。ない。さらに体もない・・ない。でも歩いている。この感覚は・・・そう。泳いでいる感じ。水の中を歩いてる感じ。あれ?水の中やん。タケ普通に歩いてるけど。
「貴子さん、ぼくタケですけど」
「あら~タケしゃべれるやん。ここどこ?」
「ここどうやらびわ湖の水中みたいですよ」
「ワタシら、車にはねられたよな。天国まで歩いてるんかな・・・」
「まだ生きてますって。たぶん。僕ら、さっきはねられた昔の湊近くから、どんどん水中に向かって歩き始めてますよ。たぶん。どこ行くんでしょうね」
「歩いてるけど歩かされてるよね・・・」
 どうやらワタシたちは別世界に来ているようだった。水の中なんだけれど苦しくはない。圧迫感があるかな?タカシ君どうしてるかな・・・。元旦に交通事故って・・・ニュースになるよね。新聞にも載るよね・・・。チームIKAの活動中だったのに・・・サトカ・アミ・シホ、びっくりするだろうなあ。
二人、(正しくは一人と一匹)は、ゆっくりと流されていた・・。しばらくすると、不思議な声が聞こえてきた。
『こちらですよ・・・こちらですよ・・・』
「なんか声が聞こえますね。誰ですかね?」
タケが鼻をクンクンさせた。水中なのに?
「ほら、あれ、ぼ~っと見えてきた・・・あ。ナマズ!?」
体長が3メートル位と思われる大ナマズが現れたのだ。
「ワンワンワンワン・・・」
急にタケが犬になって吠えだしている。
『はじめまして。ワタクシは、琵琶湖の底に長い間住みついている大なまずです。長い間ですね・・・何百年経ちますかね。ようこそ。どちらからいらっしゃったんですか?私はいろいろな方をお見かけしていますが・・・』
「ワタシたちは、さっき藤ヶ崎に行こうとして、車にはねられて・・・そこからここに来てしまっているんよ。ナマズさんはたくさんの人に会ってるん?どんな人たち・・・?」
『琵琶湖の北の方には、湖に伝わる、不思議な昔話や、言い伝えやらがあるのを知っていますか?』
「ワタシは余呉で生まれ育ったからあんまり詳しくないんよ。この犬は飯浦に住んでるけど、まだ二年くらいやから・・」
『そうですか・・・・。じゃあ、教えますね。まず一つはびわ湖の底には戦国時代、賤ケ岳の合戦で戦った兵士のうち、無念の死を遂げたものの魂が住んでいる世界があるんですよ。この武将たちの魂は時々水面に浮かび上がって、波間を走って、村人の住む家に行くそうです。温かく迎え入れてもらえる優しい家もあるそうです。漁師たちの間では、この水面を走る魂を見ると魚がよく捕れると代々伝わっています。漁師の家では歓迎されているようです。ほら、そこです、そこ。見えますか?』
ナマズがまっすぐに泳ぐ脇には兜をかぶった何人もの武将の姿が見えた。馬に乗っている者もいる。
「はあ・・・・。映画で見たな。いやいや。ほんまにこんな姿なんやな・・・」
ワタシは夏に見た、戦国映画を思い出していた。
『二つ目は・・・・阿曾津という村があった話です。そこには金貸しのばあさんがいたそうなんですが、村人に嫌われて、ねたまれた末にむしろに巻かれて湖に投げ捨てられたんですね。ほら、あそこにいる婆さんです。
それで婆さんは呪いをかけて湖に津波を起こして、千軒あったと言われている村を、湖の下に飲み込ませたんですね。 ほら見てみてください。家の石垣とかが見えるでしょう』
タケとワタシは、意地悪そうな婆さんも見たし、村の全体も見えた。その村の様子は、立体の地図をみるような全てがミニチュアになった様子だった。(この世界で見えるのは瓦礫じゃないんだな・・・)
「ナマズさんすごいですね。流石ですね。琵琶湖の主なんですね」
タケが感心したように言う。(吠える)
『もう一つ。貴方達藤ヶ崎に行こうとしていたっておっしゃいましたね。藤ヶ崎から来られた方は何人もいらっしゃいましたよ。え~っと・・・・』
ナマズは思い出すように話し始めた。
『ある日、藤ヶ崎だけに大きな地震が起きたんです。あの岬だけが地滑りした感じですかね。そんなことってあるんですね。それでまあ、その地滑りで、藤ヶ崎の山に建っていた観音堂とそこを守っておられた尼僧さんと・・・おられた観音様、そして鐘が湖の中に落ちたんですね・・・・鐘はそのまま落ちています。尼僧さんはそこにおられます。毎朝夕に鐘をつかれるんです。湖の中には響きますが地上でも耳をすませば聞こえるはずなんですけど・・・。それで、観音様なんですけど・・・一人でお歩きになって竹生島を越え、長浜を越えて・・東南の方向に歩いて行けれたんですよね・・・。ワタクシも行先は知りません』
観音様が東南に・・・ん??観音さんが稲枝にって言ってたなあ・・タカシ君。それそれ!!それね!きっと。
「ナマズさん。その観音様にワタシ会ったんです。そのこと調べるためにあたらしい調査隊が昨日できたばっかりやったんですよ。ナマズさんも見たんですね。その観音様。ワタシに似てませんでした?ああ・・タカシ君に伝えたい。どうやったら帰れるんかなあ・・ここから。
『そう言われれば、似てますかね。貴方、観音様に。もうすぐ、竹生島の底に着きますよ』
ワタシたちは泳ぐナマズの後をついて、だいぶ遠くまできたようだけれど、本当にいったいここはどこなんだろう。
「ナマズさん・・・ここはどこ?」
『そうですね・・・今ここは竹生島の近くの水深が一番深い辺りですね。ほら そこ 見てください。土器いっぱいあるでしょう・・・。葛尾崎の湖底遺跡です。このあたりのことは実はわたしもよく知りません。ここにはじめから沈んでいた壺などがありました』
ナマズが行く先にはいくつかの壺らしいものが水中の土に埋もれていた。すこし大きな石やなにかの破片のようなものも落ちていた。ここはさっき見たミニチュアの村の様子とは違っていた。なんでだろう。
「ナマズさん なんでここは、こんななの?さっきまでは、武将さんたちや、お婆さん、村の様子も生きてるように見えたのに・・ここは見えない・・・」
『ああ・それは・・・さっき見たのは、まだ行く先を迷っている人たちですからね。この壺の時代の人たちは、湖に心をこめて投げたんですよ。落ちているだけです』
『あと、湖で命を落としたたくさんの人たちもたくさん見ましたがみなさんここからまた別の世界に歩いて行かれました。時々迷っておられる方も見かけますが、その方たちは、蛍火になって、漁師さんたちの舟や体にまとわりつかれるそうですよ。聞いたことないですか?』
「知らん知らん。そんな怖い話知らんし」
タケが震えながら言う(吠える)
「ふ~ん そうなんや・・・迷っている人は湖の底にそのままの姿で沈んでるんか・・・怖い怖い・・・、祈って落としたものはそのままの姿で落ちてるってことね・・・ふ~ん。え?!着くって・・・着いたらどうなるん?ナマズさん!!ナマズさん!!」
ナマズが急に泳ぎを速めた。つられてタケも走り出す。またかいな。タケえ・・・。ああ・・・。ナマズが泳ぐ先には弁天様が見える。追っていくタケ。待って待って待って・・・・・。置いていかんといて・・・・あれ?あたしだけ置いて行かれてる・・。前に進めん。おかしいな・・・。上に行ってる?上?あれ?あたしだけ天国・・・?観音様、弁天様助けて~。タカシ君に伝えなあかんことあるんです・・・。

ピーポーピーポー・・・サイレンの音が聞こえる。
(やっと救急車来た・・・あたしら竹生島の底近くまで行って来たのに・・・。タケ、タケは・・・?あ・いた。タケ!タケ!大丈夫・・・?あああ・・・痛い痛い痛い体中痛い・・・)
ワタシの記憶にははっきりとサイレンの音を聞いたことが残っている。あのナマズさんが案内してくれたあの湖での出来事は・・・?なんだったんだろう・・・そう考え始めたところで意識が消えたことも、よく覚えている。

病院にて
「貴子!貴子!あ、目開けた・・・貴子~~~~」
 お母さんの声がする。ここは?藤ヶ崎?竹生島?水の中?タケは?タカシ君は?そう思いながら、周りを見渡した。ワタシ、ベッドに寝ている。病院だ。そうだった、私は車にはねられたんだ。
「あ・お母さん ごめん。ここどこ?」
「湖北病院や。正月早々交通事故や。心配したで。今日はもう3日や、丸二日間目を覚まさなかった。ほんまにあんたは・・・・」
 お母さんの声が上ずった。
「タカシ君ってか。お母さん初めて会ったんやけど。ずっとついててくれたんや。どういう人か知らんかったんやけど、お見舞いに来てくれたシホちゃんたちに聞いたわ。みんなにも気がついたって連絡しとくわ。タカシ君は今ちょっと買い物に出かけたんよ。すぐまたきゃんすはずや」
「タケは?タケはどうなった?犬。犬。タカシ君家の犬。いっしょに藤ヶ崎に行こうとしてたんよ・・・」
 お母さんは静かに首横に振った。
「タケ・・・・」
 涙があふれてきた。
(一緒に水ん中歩いたやん。ナマズにあったやん。いろんなもん見たやん。タケ・・・。)
 「事故のことはタカシ君から聞いた。タケもあんたに申し訳ないって思ってるって、身代りに代表で天国に行ってくれたんやって・・・。ほんまにあんたが生きててよかった」
 お母さんは部屋を出て、タカシ君とシホにワタシの意識が戻ったこと電話してくれた。しばらくお母さんと話をしていたら、まずタカシ君が戻ってきた。
「貴ちゃん!!よかった!!ほんまによかった!!僕もうどうしょうかと・・・。タケをどうか許してやって。君を事故に合わせてしもて・・・。僕が誘わなかったらこんなことにならなかったんや・・・」
タカシ君は泣いている。、
「大丈夫です。でもごめんして。タケが・・・・・・。でもね。ワタシたち、湖の中で、いろんなもの見られたし・・・そう!!それで 観音様の話も聞いたんですよ!!・・・あいたたた・・・・・」
 観音様の話をあつく語りたくてベッドから起きようとしたけれど体中痛くて無理だった。
「貴ちゃん・・・無理せんといて」
病室のドアが勢いよく開いた。シホだ。
「貴子~~~~~~。良かった~~~生きてた~~~~。今サトカもアミも来るでな。三が日中に気づいてくれてほんまによかった!!。」
それからしばらくして、二人も病室に来てくれた。病室に五人が揃った。
「チームIKAの幸先真っ暗かと心配したで。ほんまに。いきなり解散かとも考えたわ。なんかごめんな。あたし責任ちょっとあるし・・・」
サトカが申し訳なさそうに言う。
「いや、僕のせいです。すみません。なんかあったら、僕が責任とります」
私はもちろん、女子四人全員が唖然とした。
アミが噴き出した。
「笑える。タカシ君結論早ない?責任とりますって・・。ドラマかいな」
「そ・・・そうですかね・・・。すいません」
タカシ君は少し照れている。みんなで笑った。
「それはそうと、貴子・・大丈夫なん???先生呼ばなくていいん???」
サトカが心配そうに言う。
「大丈夫。さっきお母さんから聞いたけど。意識さえもどったら、あとは経過を待つだけらしいし。骨も右側の手、肩、アバラが折れてるらしいんやけど・・・あいたたた・・・。今日はまだお正月やから先生もお休みなんやて。さっき看護婦さんには言うてくれて、見にきてくれはったから」
「よかったわ~ほんまに」
「僕もほんまに嬉しいです。貴子さん記憶もしっかりしてて・・・」
四人はワタシの意識がもどったことを本当に喜んでくれた。大晦日のチームIKAの初会合からまだ3日しか経っていないのに、なんだこの状況は・・・。未来が明るいのか?暗いのか・・・?
しばらく四人はいてくれて、今後のことを少し話した。春までは活動は中止だ。ワタシの入院も春までかかりそうだし、仕方がない。その期間に宿題が与えられた。タカシ君が読んだ本を読むことだ。病室においてあった。タカシ君はお母さんにこの本を渡しておいたらしい。
「きっと観音様が守ってくださいますから・・・きっと貴子さんは大丈夫です」
自信をもったような顔でそう言ったらしい。あとで聞いたことだけれど、お母さんは、最初、許せない男からそんなこと言われるとはと、憎しみが倍増したらしいけれど、観音様といわれて心を落ち着かせたんだそうだ。おかげさまで、ワタシは生きている。守ってくださったんだ。竹生島の弁天様もね。

そろそろお話はおしまい
私はそういうわけで、右半身が不自由で、スマホはうまく使えないのだけれど、画面だけはしっかり見ている。
タカシ君はあれからみんなが帰ってからも、病室にいてくれた。ワタシが体験した不思議な出来事はみんなに話をしたけれどやっぱり、観音様が歩いておられた話のところでは、タカシ君だけが、驚いた顔で真剣に聞いてくれた。
タカシ君からSNSが来た。
タカシ{貴ちゃん ほんまによかった。春になったら、一緒に稲枝に行こうな。それから・・・・今日病室でちゃんと言いたかったことがあったんやけど・・・・・。責任問題で笑われたから・・・ごめん。スマホからではあかんから、また明日。言うわ}
とりあえず スタンプだけ返しておこう
貴子 {OKスタンプ}
 タカシ{それから、本読んだらわかるけど、観音様な、江戸時代 享保三年に稲枝にお行きになるんやけどな。享保の改革って歴史で勉強したやろ。僕の推理はあれやと思うんよ。観音様がお行きになった原因は。そこは貴ちゃん本読んだら感想きかして}
 いやいや あたし歴史嫌いやし。知らんし。ほんまタカシ君ぐいぐい来るよなあ・・。まあおかげであたしは交通事故か・・・なんか変なの。まあいいか・・・観音様のご縁だし・・・・。とりあえず スタンプっと。
 貴子{わかりましたのにっこりスタンプ}

二年後とこれからのミッション
ワタシはタカシ君と結婚した。あの事故があって以来、大接近した私たち。チームIKAミッションのはずだった、稲枝行きも、二人で出かけた。本物の観音様はまだ会えずにいる。タカシ君が観音様以上にワタシに夢中になったから。そう。チームIKAの活動は二年越しでこれからなんです。ミッションの遂行名は・・・
《稲枝に行かれた藤ヶ崎観音様を探せ》

またここでこの物語は終わりです。





参考文献

○ 復興と探索と慰霊 藤田宗七 昭和三十八年 信栄社(非売品)

○ 読みがたり滋賀のむかし話 滋賀県小学校教育研究会国語部会 2004年 日本標準

 ○ やまなし村の風の音 谷口ミサヲ・鈴木靖将 1987年 トモ企画

 ○ 奥びわ湖物語 三田村正子・鈴木靖将 2011年 文芸社

 ○ 琵琶湖水底の謎 小江慶雄 昭和五十年 講談社

 ○ 日本の歴史 江戸時代 十八世紀 徳川時代のゆらぎ 十一 倉地克直 2008年 小学館  

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