ある日突然、世界は平和になった。
正確には三日ほどかけて、平和になった。
すべての戦争は終結し、
民族間の争いから大国間の冷戦すらなくなった。
各国でお互いに平和協定が結ばれ、
首相や首脳間で握手が交わされ笑顔を固定して
TVカメラや新聞記者の前でのパフォーマンスが繰り広げられた。
そのきっかけは、宇宙船によってもたらされた一つのメッセージだった。
乗っていたのは、宇宙からの使者、自称『宇宙連盟』の宇宙人たちだった。
とはいえこの時、宇宙船自体はそれほど珍しくなかった。
ある日を境に、地球外からの宇宙船、
かつてはUFOと呼ばれていた物が
堂々とあらゆる国の上空に浮かぶようになったのだ。
最初は誰もがあわてて写真や動画を撮影し、
ネットに流してはしゃいだり脅えたりしていたのだが、
一年近くもそのままなんの変化もなく毒にも薬にもならないとなると、
なんとなく興味が薄れていった。
今や未確認飛行物体どころかいつでも誰でも撮り放題物体なのだ。
レア感ゼロである。
どちらかというと、空にただ浮かんでいる宇宙船よりも、
自分が買った宝くじの当せん結果や
これからの恋愛傾向やドラマの最終回や
その日の夕飯のメニューのほうが現実として大きな問題になっていた。
各国の政府はそれぞれに対策を講じていたが、武力的には
お隣の火星に行くのもおぼつかない地球の科学力で
そもそも太刀打ちできるわけもなく、
ここはひとつ穏便にあちらからの動きを待とう、
というのが多くの国の指針だった。
そんなわけで、地球人全体が
なんとなく宇宙船と宇宙人の存在を受け入れ始めた頃に、
ようやくあちらからのメッセージが告げられたのだ。
要約するとこんな感じである。
『ビックリした?
いきなりだと驚くかと思って今まで黙ってたんだけど、
実はずっと昔から君たちのこと見守ってたんだよ。
今まで少しでも慣れてくれるように、
ちょこちょこ姿は見せてたんだけど、
今回はこれだけハッキリ長い間姿を見せていたんだから、
これが現実だってこともわかるよね?
何を言っても驚かないよね? そうです異星人は存在します。
みんな地球に注目しています。
もう黙って見ていられないし、そろそろ本気で
君たちに言うことは言っておかないとダメだと思ったから、
伝えようと思います。
そろそろ、戦争などやめて、自分たちの星を大事になさい』
もちろんこれはもうちょっと形式ばった言葉で伝えられたが、
地球のすべての国、すべての人間に向けてそれぞれの言語で、
あるいはテレパシーのようなもので宣言された。
まさに天からの声だった。
そう言われて「ハイ、そうですよね」と答えるほど賢い人類だったら
何千年か前にとっくに世界平和は実現されていたはずである。
宣言一日目、各国の首相や首脳、その他各代表はごねた。
彼らは直感的に、問題のない世界では自分の必要性がないことを知っていた。
そうは言われても、いろいろ今までの歴史とかがあるんだよ。
宗教上の問題とか積年の恨みつらみがあるんだよ。
外から突然来て、そんなこと言ったって地球の事情、解ってないでしょ? と。
ところが宇宙連盟の皆さんは答えを用意していた。
突然、今までの地球の歴史の要所要所が
まるで映画のように上空に映し出された。
宇宙連盟には、
そういった宇宙の歴史を記録して保管するチームがあるらしい。
そしてその映像が示すこととは、
あらゆる宗教上の神と言われる存在は、
宇宙連盟から派遣された宇宙人だという事実だった。
宗教上のトップである神や神様の使いのおおもとが
お互いにもう戦争はよせと言っているのだから、
宗教戦争の意味はなくなった。
二日目。
でも地球の資源には限りがあります、奪い合わずにみんなが……
と言いかけたところで宇宙連盟の皆さんはとんでもなく優れた、
しかもわかりやすいエネルギーの科学技術と地球の汚染を取り除き
あらゆる土地で豊かな作物を得るあれこれを教えてくれた。
地球上に、資源や食糧の問題はなくなった。
そして三日目、自立心や自尊心の問題を持ち出す人類に、とどめの一言を送った。
『地球上で最初に完全平和を成し遂げた人物になって、記録に残りませんか?』と。
かくして、世界は平和になった。
〈了〉
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