03:『黒』


 言うまでもないが俺達は、これから様々な敵と対峙していく事となる。
 敵と言うと語弊(ごへい)を招くかもしれないが。
 たまたま今回の物語は、俺が主人公だったというだけで、俺が呼んでいる『敵』というのが主人公だった場合『敵』というのは、つまり『俺達』と言う事になるわけだ。
 しかし、今回は俺の物語なわけなので、敵というのは俺の視点で言って奴らの事である。
 よって今回の物語では俺が正義と言う事になるのだ。
 敵や悪というものは正義の数だけ存在する。
 簡単に言うと、人の数だけ正義は有るわけで、自己の正義に反する者はその人物にとっての『敵』、つまり悪と言う事になる。
 一見、悪役の様に見える者も、その人物にとっては『正義』となる。
 
 争いの理由と言うのは至りて簡単だ。己の正義に反する者が許せないという思いから生まれる。
 自分の中の平和、自分の中の幸せ、それを乱す者が現れたのなら、排除したいと思う事は普通の感情だ。
 そんな事は無い、と思った人に一つ例を挙げよう。
 
 例えば、気持ち良く寝ている自分の平和で幸せな空間に突如現れた一匹の蚊や蝿。
 これを五月蝿(うるさ)いと思はない人が果たしているだろうか?
 体にまとわりつく苛立ち。
 耳元で聞こえる不快な音。
 何よりも、自分の平和で幸せな時間を邪魔する者への怒り。
 誰しも、その者を排除したいと思うだろう。これが争いの始まり。
 他にも色々な要因は有るだろうが、争いというものはいつもそこに有るという事を伝えたかった。ただそれだけでこれほど時間を使ってしまった。

 では、今回の物語を始めよう。


 このペットのような小動物があの男の娘だというのか? 
 と、前回はこんな感じだったよな?(うんうん)

 「灯夜? 何さっきからブツブツ言ってんの?」

 「いっ! いやぁ なんでもないなんでもない!!」

 「お前、もしかしてあの男の娘なのか?」

 「あの男って誰の事なの? 私が居るという事はあの男か誰かは知らないけど、お父さんは居るよ」

 「まぁ、それもそうか...俺はあの男の名前は知らない。と、言う事はこいつが誰なのか分からないじゃあないか」

 「きっと灯夜が言うあの男っていうのは、いつか灯夜が会った、血だらけの男の人の事でしょ?」

 「そうそう!! その男!! って何で知ってんだ?!」

 「私は灯夜の事なら何でも知ってるよ」

 「何でだよ?! 俺はお前の事なんて全く知らないぞ!!」

 「それもそうだよ。灯夜は夜を知らないから。そして私は夜にしか生きられない。 まぁ、生きられないってのは大袈裟(おおげさ)で、正確には昼間は極端に薄くなる訳なのさ」

 「いやいや!! その説明全然理解出来ないんですけど!! ちょっと、俺の脳が焼き切れそうだよ!!」

 「簡単に言うと私は月なのさ。月は夜にしか確認出来ないでしょ? 昼間だと薄くてよく見えないと言う事」

 「もっと訳が分からなくなった。そもそも、俺には夜の記憶は無いんだよ!! 月なんて地球の衛生だって事位しか知らないんだよ!!」

 「ゴメンゴメンそうだったね!! ちゃんと説明するね」

 自称『月』だと言う、この小動物こと水瀬美月はこう言う。

 今、この世界には夜と色がほとんど存在しない。夜に関しては全く存在しない。
 今の人間はそれが普通で、夜がもともと有った時間にも今は太陽が輝いていると。
 俺は、そのもともと有った夜と呼ばれる時間の記憶が存在しない。
 色も夜も無い世界で人間は元居た色と夜が有る世界の事は覚えておらず、ずっと此処に居たと思い込んでいるという。
 その原因というのが、突如現れたもう一つの太陽だ。その太陽は神として突然現れたらしい。
 
 この世には沢山の神と呼ばれる者が存在する。どの神が本当の神なのかと人々は宗教戦争を行った。
 また、神々も争い合った。どの神が正しいなんて事は無く、信仰する人々、祀られる場所が違えば神もその数だけ存在する。
 じゃあ、その神々を作ったのは誰なのか、という事になろう。
 それは紛れもなく太陽なのだろう。
 太陽系は太陽を中心として回っているのだからしょうがない。太陽から地球が生まれ、神々が生まれ、人が産まれた。だが、太陽自身にはそんな自覚は無く、ただそこに在るだけ。
 だが、そんな事を忘れ争い合っている神々や人々、それを正そうと生まれたのがもう一つの太陽。
 簡単に言うと、太陽の『思い』と言った所だろうか。
 その太陽から生まれたのが『光』、つまり俺達『色』という事だ。
 『色』というのは簡単に言えば戦士。
 地球を力によって収めようと生まれた戦士達と言った所か。
 その勢力に一人だけ反したのが美月の父、あの男だ。
 地球上に存在する様々な『色』は太陽光によるもの。だから『色』(戦士達)は太陽には逆らえない。だが、色を作った事で生まれた、光を唯一必要としない色、『黒』それが美月の父親。
 争いを争いで収める事を反対した美月の父親は戦士達によって殺されかけた。必死で逃げてきた先に俺が居たという事なのだろう。
 そこで俺の夜を使って色の戦士達を光の無い夜に封印した。
 光の無い夜の中では、戦士達はほとんど身動きが出来ないって事なのか。
 しかし、俺が夜に目覚めた事で結界は崩壊した事が分かった。
 美月の説明はこんな所だ。俺の勝手な解釈も含まれてはいるが。
 
 美月は『白』の化身 属性は『月』。
 そして、俺が光を使わない色『黒』の化身 属性は『夜』。
 『黒』、あの男の色を受け継いだのだろうか。
 こんな感じで、美月と一緒に戦士達と戦う事になってしまったのだ。

黒沢 有貴
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黒沢 有貴

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