結局俺の部屋は、廊下の一番奥になってしまった。
 踏むとギシギシなる廊下を歩きながら、この後の予定を考えた。温泉宿であるからには、温泉があるはずだ。
 しかし時間はまだ午後になったばかりだ。温泉に浸かって一息というには、まだ早い気がした。
 そんな事を考えながら、ぎしぎしと音を立てて歩く。この床、抜けるんじゃないだろうか?
 部屋割りは、俺の部屋の隣に両親がそれぞれ一部屋づつ。その隣に妹の茉莉が陣取った。
 それでも空き部屋がまだある。二階もあるのでもっとあるだろう。昔はここも流行っていたのかも知れないが、今となっては当時がどうとか知る気もない。
 部屋の出入口は板張りの扉だ。一応外鍵と内鍵がついてはいるが、外鍵はオートロックとかそんなハイテクとは無縁な南京錠がついていた。なんとも時代錯誤だ。
 俺は玄関に積んである自分の荷物を、無造作に部屋に投げ出し、テーブルをどかして部屋の中央で大の字になった。
 八畳一間。奥の間には、ソファと小さなテーブル。作り自体は一般的な旅館だった。
「崇!」
 いきなりオヤジが部屋に飛び込んできた。
「なんだよ、いきなり。ノックくらいしろよ」
「さぁ、散策だ。こんな秘境だ、きっと面白い発見があるぞ!」
 全然人の話を聞いていない。
「五分後に玄関ロビー集合だ」
 オヤジはそう言い残し姿を消した。
 話も聞かない、人の都合も我関せずな父親。
 俺は開けっ放しになっている扉に向かってため息をついた。

なぎのき
この作品の作者

なぎのき

作品目次
作者の作品一覧 クリエイターページ ツイート 違反報告
{"id":"nov141514957439581","category":["cat0013","cat0017"],"title":"\u3010\u7af6\u6f14\u3011\u8db3\u97f3\u306e\u3059\u308b\u5eca\u4e0b","copy":"\u5bb6\u65cf\u65c5\u884c\u306e\u9014\u4e2d\u3001\u602a\u6211\u3092\u3057\u305f\u5d07\u306f\u3072\u3068\u308a\u53e4\u3073\u305f\u65c5\u9928\u306b\u6b8b\u308b\u3002\u305d\u3053\u3067\u5d07\u304c\u898b\u305f\u3082\u306e\u306f\u2026\u2026\uff1f","color":"tomato"}