「まだ着かないのぉ?」
 秘境探検開始一〇分で茉莉が悲鳴を上げた。
 出発時はあんなに張り切っていたにもかかわらずだ。
「お前徒歩一時間を舐めてるだろう?」
 スカートを穿いてこなかったのは良い。
 パンプスじゃなく、スニーカーを履いているのも良い。
 ただ、荷物が半端無かった。
 リュックいっぱいの荷物。
「お前さ、その中、何が入ってんだ?」
「秘密の七つ道具」
「は?」
「秘境探検でしょ? 万が一を考えて、非常食とか寝袋とか傘とか飲み物とかその他色々入れてきたのよ」
 俺はこめかみの辺りに鈍い痛みを感じた。
「あのなー」
 それじゃ疲れるのも無理はない。だが、そもそも間違えている。
「オヤジを見てみろよ。あの軽装。きっと防虫スプレーくらいしか持ってないぞ」
 オヤジは動きやすい服装なのだが長袖。それにサバイバルベストを羽織り、先陣きって藪こぎしていた。
「ああっ! 防虫スプレー忘れたっ!」
「いやそれは良いから」
「こらお前たち」
 オヤジが立ち止まった。
「無駄口を叩くな。ここは秘境だぞ? 何が起こるかわからんのだ。全く今の若者は危機管理がなってない」
 待ち合わせの時間に三〇分遅れた人物の口から出る言葉ではなかった。
「それに何だ。防虫スプレーすら持ってないのか。『秘境』を舐めてるだろう、お前ら」
 オヤジの手には、燦然と輝く(ように見えた)防虫スプレーが握られていた。
 一体どこに向かっているのか。
 もはや誰も分からない俺たちだった。

なぎのき
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なぎのき

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