一時間が経過した。
「ねー、まだー?」
 茉莉は相変わらずぶーたれていた。
「やかましい。そんなに急かすんならお前が先頭歩け」
 オヤジもイライラしているようだ。
「無理」
 そりゃそうだ。茉莉は半袖だ。藪こぎなんでしたら大変なことになる。
「大体、方向合ってんの? 滝って言ってたよね?」
 茉莉が半眼になって、オヤジを睨みつけた。
「滝?」
 オヤジは、素っ頓狂な声を上げた。
「なんでそんなところに行かなきゃならんのだ?」
「は?」
 今度は、俺と茉莉が素っ頓狂な声を上げる番だった。
「オ、オヤジ、滝に向かってんじゃないのか?」
「だから、誰が滝に行くと言った? 俺は『秘境』に行くとしか言ってないぞ」
――嗚呼……。
 つまり、オヤジははじめからどこか目的があって先陣きって歩いていたわけではない。そういうことらしい。
「じゃ、じゃぁ、どこに向かってるの、あたしたちは?」
「そりゃ『秘境』だろう」
 オヤジはしたり顔で、鷹揚に頷いた。
 俺と茉莉は、その場で立ち尽くした。

なぎのき
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なぎのき

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