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さらに一時間が経過した。
さすがに疲れたのか、オヤジは藪が覆い茂る中、ちょっとした隙間を見つけ、どっこらしょと、座り込んだ。額に汗が滲んできた。
「どうしたんだよ、こんなところで座り込んで」
「疲れた」
「あん?」
「お前な。俺だって疲れるんだ。ちょっとくらい休ませろ」
もっともだ。宿を出発してから二時間。ずっと歩きづめだ。四〇過ぎのオッサンにしては頑張ったほうだと思う。
「じゃ休憩ね。あたしはその辺うろついているから、出発するか帰るかしたら呼んで」
と言い残し、茉莉は藪を器用に避け、姿を消した。
「良く服が引っかからないもんだ」
妙なところに感心するオヤジだった。
それはともかく。
「で、オヤジ」
「なんだ」
「これからどうすんだよ」
「どうって……」
オヤジは座り込んだまま、辺りを見回した。
「これ以上進んでも『秘境』には行き着かない」
「その判断はどっからくんだよ」
「よって、これより宿に帰還する。茉莉を呼べ」
「人の話聞けよ」
俺は酷い徒労感に襲われた。
まぁ良い。
これでオヤジが納得するなら従おう。
俺は茉莉が消えた方向に顔を向けた。
――あん?
茉莉はすぐそこにいた。
そして、しゃがみ込んでいた。何かをじっと見つめている。そんな格好だ。
「おい、茉莉?」
「んー?」
完全に生返事だ。何に気を取られてるんだ?
俺は藪に引っかかりながら茉莉に近づいた。どうして茉莉は引っかからないんだろう?
「うわ、いちち」
頬を何かで引っ掻いた。それを避けようとしたら、今度は足がもつれ、盛大にすっ転んだ。
「お兄ちゃん、何してんの?」
「お前のようにはいかないってことだよ」
「は?」
「良いんだよ、俺のことはさ。で、何見てんだ?」
茉莉の視線の先には、明らかに人の手で作られた石造りの物体があった。祠、かな?
「ねね、お兄ちゃん、こういうのってホコラって言うんだっけ?」
「まぁ、そうだな。多分そうだ」
「なんでこんなところにあるのかなぁ?」
それは俺が聞きたい。
「何かを祀ってるんだとは思うんだが……」
と。
俺が祠に近づこうとしたその時。
何かが軋む音がした。
次いで、ぱらぱらと何かが降ってきた。
「何だ?」
見上げると、大きな岩があった。
――まずい!
俺は茉莉の首根っこを掴み、後ろに引き倒した。
「お、お兄ちゃん!」
俺は半身を捻り、逃げの体勢を取った。が、遅かった。
轟音と共に岩が崩れ、俺と祠は砕けた岩に飲み込まれた。