「というわけでな。結局滝まで足を延ばしたのだ。見せたかったなぁ」
お父さんは、お風呂から上がってほっかほかで上機嫌だ。『探検』の結果報告も、つい熱が入っていた。
その説明自体は詳細だったけど、デジカメを持って行かなかったので、お兄ちゃんには、お父さんの熱弁だけ。ちょっと可哀想な気がした。
実際、滝は綺麗だった。周囲に人の気配などなく完全に自然の中にある滝は、力強く水を水面に叩きつけ、生命力に満ち溢れていた。
観光地などの道路沿いにある、いわゆる『名所』にある滝とは雲泥の差だ。
「ほわー、スゴイね」
「そうだろう? 自然ってのはこういうことなんだ」
お父さんは、満足気な顔をしていた。
こういう時だけ、男との人って格好良く見える。ズルいなぁ。
まぁでも、ここまでの苦労を考えれば、私も頑張ったと思う。誰も褒めてはくれないけれど。
それより問題は帰り道だった。
滝まで片道二時間ということは、また二時間歩かなければいけないわけで。
とりあえず満足したお父さんは足取りも軽く、帰路に就くのだが、私はもう限界だった。
「ねぇお父さん」
「ふっふふーん」
なぜ鼻歌を?
「お父さん、聞いてる?」
「聞こえているが、断る」
「まだ何も言ってない」
「どうせおぶって欲しいとか言うつもりだったんだろう? 俺はそんなに甘くないぞ?」
図星だった。
「『探検』ってのは自分の足で苦労して普段得られないモノを得る。そこに価値があるのだよ」
お父さんは持論を述べ、悦に浸っていた。
何か良いこと言ったつもりだろうが、私にはさっぱり理解できない。
とまぁそんなわけで、私は自分の限界を超える努力をせざるを得なかったのだ。
*
「さて、与太話はそこまで。食事にしましょう」
部屋の隅で、お父さんとっ散らかした着替えやら荷物を片付けていた母が、至極現実的な事を口にした。
「さっき確認したら、食事はこの部屋に運んでくれるそうよ。さ、あなたもどいてどいて」
お母さんはお父さんを置物のようにどかして、隅に寄せられていたテーブルを部屋の中央に引っ張り出し、座椅子を並べた。
「なぁ母さん、俺の話にはまだ続きが」
「そんなのは食事しながらでも良いでしょう?」
もっともだ。
私はヘトヘトだし、お腹はペコペコだ。
写真もなく、お父さんの過度に美化した与太話なんかもううんざりだ。見るとお兄ちゃんも、見るからにうんざりそうな顔をしていた。
それを見計らったかのように、女将さんが登場。
待ってましたっ!
四人分の夕食は、それなりに量がある。見ると女将さんしかいない。はて? 料理長兼お医者さんの源さんはどこ行った?
「ほら動ける人は料理を運ぶ! 今女将さん一人しかいないんだから、手伝いなさい!」
お母さんがパンパンと手を叩いた。それを合図に怪我で起き上がれないお兄ちゃんを除く全員が立ち上がる。と言っても私とお父さんだけだけど。
そして、ひと通り料理がテーブルに並ぶ。
宴が始まった。
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