さらに一時間が経過した。
「ねー、まだー?」
 私はたまらず文句を垂れた。
「やかましい。そんなに急かすんならお前が先頭歩け」
 お父さんはなぜかイライラしているようだ。
 それに先頭で藪こぎなんで私の役目じゃない。やるならお兄ちゃんだと思う。そう思ったので即答した。ついでに文句もくっつけた。
「無理。それに方向合ってんの? 滝に行くんだよね?」
 ところが。
「滝?」
 お父さんは、素っ頓狂な声を上げた。
「なんでそんなところに行かなきゃならんのだ?」
「は?」
 今度は、私とお兄ちゃんが素っ頓狂な声を上げる番だった。
 お兄ちゃんが狼狽えつつ、お父さんに問いかけた。
「オ、オヤジ、滝に向かってんじゃないのか?」
「だから、誰が滝に行くと言った? 俺は『秘境』に行くとしか言ってないぞ」
 こ、このオヤジは! じゃなによ! 特に目的なく藪こぎしてたんかい!
「じゃぁどこに向かってるの、私たちは?」
「そりゃ『秘境』だろう」
 お父さんはしたり顔で、鷹揚に頷いた。
 私は物凄い徒労感に襲われた。

なぎのき
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なぎのき

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