第2話 理由を聞かせて その二
「ヒャッハー!」
突然部屋の扉が強引に蹴破られ、いかにもな悪い顔をした男が躍り出てくる。
そして杖をこちらに向けて唱えた。
「《火之球ファイアーボール》!」
「《無効化キャンセラー》」
ジェネクスさんは振り返りながら唱えて、腰に携えていた杖を構えた。
男の魔法が発動していない。
「え、なんだこりゃあ! 魔法がつかえねぇ? そんなばかな!」
「《万力バイス》」
ジェネクスさんが唱えた瞬間、男の頭を挟む何かの黒く四角い物体が現れた。
男の頭の右左上を支配したそれらから、螺子が数本飛び出している。
「うげぇっ!」
「《駆動開始スタート》」
頭を挟んでいる螺子が回転する。
すると男がもがき苦しみ始めた。
「い、いてえー! なんだこれは!」
「良い質問だ。この魔法は『万力』という古代の拷問魔法。属性は土。魔力消費量は数字で表すと5、君が使った『火之球』の消費量は3となる。
理解出来たかね? 痛みで気が散ってそれどころではないだろうが」
「うう……あああああ!」
螺子がどんどん回転していく。
古代の拷問魔法と言っていたけど、どういう魔法なんだろう?
「その魔法は古代に実在した道具『万力』を任意の場所に顕現させる。魔力が足るならば複数個顕現させることも可能」
男が倒れて、口から泡を吹いている。
意識を失ったのか。
「戦争においてよく使用される魔法の中に『拷問魔法』というカテゴリーが存在する。
拷問は捕虜にした敵の兵から有用な情報を聞き出す為にするものだ。しかし実戦レベルになるとこうまで威力が違ってくる。
全く以て、非人道的だと思うよ」
そう言い終えたジェネクスさんは、ボクを担いだ。
「え?」
「逃げるぞ、刺客は複数存在している」
そう言って、病院の窓を開けると外へ飛び出した。
わけが解らないまま外の冷たい風を浴びて、ジェネクスさんは屋根から屋根へと飛び移る。
その震動にさらされながら思い出した。
「ジェ、ジェネクスさん……」
「どうした?」
「……酔いました」
自分が乗り物酔いが激しいということに気が付いていなかった。
「ふむ、では今日は空き家を失敬しよう。襲撃にも対応出来る」
「そ、それなら街外れの小屋を……」
「了解した」
そのまま数分、酔いが一周回って気持ちよくなってきた頃にボクは思った。
――凄い一日だったなぁ。
本当に、こんな日は初めてだった。
学校に通わずに日々魔法の修練に励んでいたボクを見止め、弟子にさせてくれないかとお願いされ。
襲撃されて気を失って、事情を聞いたらまた襲われて。
一生の半分は驚いただろう。
一日でなんだか賢くなったような気がする。
ジェネクスさん、これからよろしくお願いします。そしておやすみなさい。
そう心の中で告げて、瞼と意識を閉じた。