第二章 首飾りと情報屋 7
「あの、未玲さん」
「なんだい?」
「その左腕は、怪我なさってるんですか?」
未玲の左腕には大量の包帯が巻かれていた。
「もし怪我をしているのでしたら、手当てしますよ。私、治療出来るので」
「ああ、これは別に怪我してるわけじゃないんだ」
「そうなんですか?」
「うん。だから平気だよ、ありがとう」
よく見れば怪我をしているというよりは、まじないのような巻き方をしていた。
追及するのも失礼かと思い、妖宇香は別の話題を探した。
「あの、未玲さんの妹さんはどのような人なんですか?」
「僕の妹?可愛いよ」
妹の話になった途端、未玲は嬉しそうに話し始めた。
「なんとおっしゃるんですか?」
「彩るに草木の芽と書いて彩芽っていうんだ」
「可愛らしい名前ですね」
「ありがとう。聞いたらきっと喜ぶよ」
未玲は妹の顔を思い出しながら、嬉しそうに微笑んだ。
「妖宇香ちゃんのお兄さんは?」
「流れる夏で流夏といいます」
それを聞くと未玲は驚いた。その名前はあまりにも有名だった。
「流夏って、剣と炎の能力で有名なあの流夏だよね?」
「確かに剣術に優れ、炎を操る能力を持っています。ですが、兄様は有名になっていたのですか?」
「知らない人はいないんじゃないかな?有名だよ」
「そうだったんですか」
有名だということも知らないという事実に妖宇香は悲しそうにうつむいた。
「会ったことはないけどね、話には聞いたことがあるんだ。でも、妹がいるなんて聞いたことなかったな」
「今まで隠れて暮らしていたので。今日、バレちゃいましたけどね」
妖宇香の発言に未玲は申し訳なさそうに笑った。
「見付けるの、大変だったけどね」
「未玲さんが見付けたんですか?」
「うん、そうだよ」
ごめんね、と未玲は申し訳なさそうに笑う。
「いえ、未玲さんは私を助けて下さいましたから」
「自分で捕まえて自分で逃がすのも変な話だよね」
そんな二人の前に警備集団のような人達が現れた。未玲を見て驚いた顔をしている。
「貴様、裏切るのか」
「別に。契約内容はすでに満たしたから文句は言えないはずだよ」
「貴様!」
「み、未玲さん」
相手は恐ろしいほどの大人数だった。妖宇香は不安げに未玲を見つめる。
「妖宇香ちゃん、伏せててね」
「だ、ダメです!私のせいで未玲さんに何かあったら!」
「大丈夫、負けないから。信じて」
妖宇香はそう言って笑った未玲から何かを感じ、うなずいて伏せた。
「終わったよ、妖宇香ちゃん」
「え?」
妖宇香が伏せてすぐに未玲に呼ばれて顔をあげた。
「あ、あれ?」
そこには先ほどの集団なんてどこにもいなかった。
「ああ、さっきの人達ならもういないよ。やっつけちゃったから二度とやってこない」
「は、はい」
「ただ、あまりにも無残な光景だからね。女の子には見せられないなと思って」
それにしてもおかしかった。未玲から戦闘したという形跡が全く見られない。
それだけではなく、先ほど集団がいた場所に何もなかったのだ。
血も、何もなかった。
「そういえば」
耳は塞いでいなかったのに、悲鳴一つ聞こえなかった。
「行こう、妖宇香ちゃん」
「はい」
妖宇香はその光景に違和感を感じたが、差し出された右手をとった。