第三章 妹と目利きと名もなき鳥 6
「麗羅ー!」
万里は廊下に出ると麗羅を発見し、すごい勢いで走って行って飛び付いた。玲花もその後から走って来た。
「なんだ、万里」
「友達が出来たよ!」
「は、初めまして!姫野玲花だよ」
玲花がにっこり笑うと、麗羅も少し表情を和らげた。
「綾刀麗羅です。よろしくお願いします」
「よろしくね!」
「おや、珍しい組み合わせですね」
その声に三人が振り返ると、俊輔と修がいた。
「あ、昨日の万里ちゃん!それに玲花ちゃん!」
修がそう叫ぶと玲花はにっこり笑った。
「笹間君、市川君、久しぶりだね」
「隣のクラスだったんですか」
「うん、そうみたいだね」
「また変な子達にいじめられてない?大丈夫?」
「うん、さっき万里がみんな負かしちゃったから」
「え?」
麗羅、俊輔、修が万里のほうを見る。万里は得意気に笑ってピースした。
「うん!初日から大活躍しちゃった!」
「でも、中途半端に負かしたりしたら万里ちゃんまでいじめの対象になっちゃうんじゃない?」
「いいえ、それはありません」
修の不安を否定したのは麗羅だった。
「万里が負かしたと言ったということは、徹底的に負かしたということです」
「泣いて震えて逃げちゃったからねー!私には逆らえないんじゃない?」
「万里ちゃんこえー!」
修のそんな叫びにニコニコする万里。かと思うと、急に玲花のほうを向いた。
「そういえばさ、玲花はこの二人と知り合いだったんだね」
「さっきも言ったけど、この学校は小学校から同じ人が多いから」
「去年も同じクラスだったんですよね」
「いじめから俺らが庇うと悪化するからあんま守ってあげられなくて」
万里は先ほどの女子達を思い浮かべてうなずいた。
「そうみたいだね。なんか、妬んでるっぽかったし」
「笹間君と市川君はモテるから」
「ごめん、玲花ちゃん!俺らのせいで……え?」
突然固まった修。
「どうかしましたか?」
「俺ってモテるの?」
「らしいですね」
「え、俺知らないんだけど!」
「市川君は、昔からモテるよ?」
「さっきの女の子達の中にもいたね、市川さんを好きな子」
「うおおお!マジか!」
「だから玲花への嫌がらせが悪化したんだね、きっと」
「うわああ!玲花ちゃんごめんなさい!」
「え?ううん、別に」
修の百面相を見てケタケタと笑う万里。そんな彼女の頭を麗羅が軽く小突いた。
「市川さんで遊ぶな、万里」
「あはははは!だっておもしろいんだもん!」
「おや、気が合いそうですね」
「やっぱり?私もそんな気がしてたよ、俊輔さん」
微笑み合う二人に玲花は嬉しそうに笑い、修は顔を引きつらせた。
「なんか俺、寒気がしたんだけど」
「え、大丈夫?市川君」
玲花が顔を近付けると修は顔を赤らめた。
「市川さん、顔が赤いです」
「そ、そんなことないよ!」
「玲花にときめいちゃった?」
「おや、知りませんでしたね」
「早速結託してるし!っていうか、そういうんじゃねぇし!」
「そうだよ!市川君はそういうのじゃないよ!」
「いや、そんなに否定しなくてもいいけどね!」
そう?と玲花は首を傾げた。
「ま、市川さんの恋は私には関係ないし!」
「万里ちゃん冷たい!」
「あ、そういえば今日、俊輔さんの家に行ってもいいですか?」
「あ、私も行く!玲花も行くよね?」
「え、あ、笹間君がいいなら」
「いいですよ」
「なんだよそのハーレム!可愛い子三人も家に呼ぶなんて!」
修がじたばたと暴れるのを見て玲花はクスクス笑う。
「市川君、おもしろいね」
「え、あ、ありがとう」
「おや、青春ですね」
「違うっての!っていうかなんだその言い方!お前いくつだ!」
「さあ?」
「え、笹間君って同い年じゃなかったの!?」
「玲花……」
万里が玲花の天然な発言に和んだ時チャイムが鳴り、万里が慌てて玲花を引っ張った。
「じゃあ、また放課後!」
「ああ、待ってる」
呑気に手を振って笑う玲花に修は再び少し顔を赤らめる。
「市川って姫野さんが好きでしたっけ?」
「違う!そういうんじゃ、ねぇんだよ」
珍しく少し真面目な修に麗羅は首を傾げた。