第三章 妹と目利きと名もなき鳥 8
「忘れ物をしただけだ。また行ってくる」
「そうですか。いってらっしゃい、父さん」
「ああ。じゃあな。お友達や流夏も、また」
「あ、はい!」
「ふん」
流夏の態度に苦笑すると陸は去っていった。
「か、カッコいい……あれが俊輔さんのお父さん」
「流石ですね」
麗羅と万里の言葉に俊輔は少し嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。では、行きましょう」
「ただいま、母さ」
「いらっしゃい!」
扉を開けるとどこか楽しそうな雀が立っていた。
「……母さん、どうしたんですか?」
「今、陸からメールがきたの。いっぱいいるっていうから会ってみたくて!」
「そうですか」
少し呆れ気味の俊輔と怪訝そうな流夏。
「お母さんも美人!家も庭も綺麗だし、流石俊輔さんだね!」
微妙な空気の中、万里が雀に負けないくらい楽しそうに言った。
「あら、ありがとう!えっと、麗羅ちゃんの親戚かしら?」
「事情で遅れてきましたが、麗羅とは双子です!万里です!よろしくお願いします!」
「あら可愛らしい!私のことは『雀ちゃん』って呼んでね!」
「はい!雀ちゃん!」
「呼ぶな!」
楽しそうな二人に流夏から鋭いツッコミが入った。それに対して二人は口を尖らせる。
「流夏ったらひどいわ!」
「そうだよ!流夏さんのバカ!」
「あ、あの!」
突然黙っていた玲花が声をあげた。雀はその声のほうを見るとにっこり笑った。
「あら、家が近いわよね。確か、玲花ちゃん!」
「は、はい!よろしくお願いします!」
「お邪魔します、雀さん」
「あ、じゃあ俊輔!このお菓子持っていって!」
「はい、ありがとうございます」
「流夏もお煎餅持って!」
「は?」
雀はぽかんとしていた流夏に煎餅の入ってる皿を押し付けると、足元のバッグを持った。
「じゃあ、買い物行ってくるわね。留守よろしくね、俊輔。みんなゆっくりしていってね!」
雀は慌ただしく出て行った。
「母がすみません」
「ううん。素敵なお母さんだね」
玲花がそう言って笑うと、俊輔はまた、少し嬉しそうに笑った。
「おい、早く部屋に行くぞ」
「あなたの部屋じゃないんですけどね」
すでに階段を上がってる流夏の後を俊輔も追い、麗羅達も続いた。
「さて、落ち着いたね」
その声に全員が万里を見た。
「麗羅と流夏さんは気付いてたみたいだけど、玲花は目利きなんだよね」
「ば、万里!そんなこと言ったらせっかく友達になれたのに」
「大丈夫だよ。みんな能力者だから」
「え?」
玲花が三人を見ると特に変わった様子はなかった。
「やはりそうか。姫野といえばその家系だからな」
「そうですね」
「え!?」
流夏、麗羅の発言に何故か万里が驚いた。
「お前、知らなかったのか?」
「知らないよ!」
「昔、私と一緒に教わったと思うんだが?」
「覚えてないって!」
それを聞くと流夏は呆れたように首を傾げて、煎餅を食べ始めた。
「俺も知りませんでした」
「ほら!俊輔さんも知らないよ!」
「俊輔さんは長くそういう情報に触れてないだけだ。お前とは違うからな」
「麗羅厳しい!」
そんなやり取りを玲花はぽかんと見ていた。
「みんな平気でしょ?」
「うん」
「そもそもそんなことでいじめるヤツらがおかしいんだよね!」
「ああ、全くだ。気にしちゃダメです、玲花ちゃん」
「ありがとう、二人とも」
玲花が嬉しそうに笑うと万里はニッと笑った。
「ところで麗羅、今日は何か用ですか?流夏まで呼ぶように言っていましたが」
「用がなかったら来ちゃダメですか?」
少し拗ねた口調の麗羅に俊輔は苦笑する。
「いいえ。いつでも歓迎しますけど、流夏を呼んだのが気になりまして」
「流夏さんを万里に紹介したかったんです」
麗羅がそう言うと流夏は、煎餅を食べていた手を止めて顔をあげた。
「ふん、それはいらん世話だったな」
「流夏さん冷たい!」
「それに、玲花ちゃんに知り合いが増えるのはいいことだと思ったので、玲花ちゃんも来ると聞いて、流夏さんを呼んでほしいと頼みました」
麗羅の発言に玲花は嬉しそうに大きく頷いた。
「なるほど。ですが、まだ流夏の紹介は終わってませんよ」
「流夏君、何かあるの?」
万里と玲花が俊輔のほうを向いた。俊輔はにっこり笑うとこう言った。
「流夏は俺たちより二つも年上ですよ」
「えええええ!?」
「る、流夏君が年上?」
「絶対年下だと思ってた!」
「てめぇら……斬られたいのか?」
「流夏さんこっわーい!」
「万里、斬られないように頑張ってね」
「お前もだ姫野!」
「え!?」
そんなやり取りを見て俊輔は楽しそうに笑った。
麗羅は騒がしくなった部屋に小さなため息をつき、そして少し笑った。