第六話 「本心」
わたしはずっと怖かった。
自分が誰かもわからないまま、光のない暗闇の中を彷徨い続けた。
疲労と絶望がわたしの心の全てを支配した時、光を見つけた。
それはわたしにとって、希望の光だった。
初めて会った時は少し緊張したけど、でもどこか懐かしいような、嬉しくて楽しくて・・・エル君に出会えて良かったって思えた。
しばらく眠った後、エル君に会えなくなった。薄らと光の中に見える彼は真剣で多分私の事を探してくれているのかな。
そうだったら嬉しいな。
また、エル君に会う事が出来た。あの時はとても嬉しくてエル君とお話している間、ずっと心が飛び跳ねている感じだった。
あの時はエル君がいっぱい自分の事や考えてる事も、思ってる事を話してくれた。
私は更に嬉しくなって、わたしも色々な事を話した。
会う度に嬉しくなった。わたしはエル君に憧れた。
いつも真面目で一生懸命で、面白いお話を沢山してくれて、エル君をもっと知りたいし、もっと会いたいって思う。
いつしか・・・本当に会って、彼に触れてみたい。一緒に並んで街を歩いたりしてみたいと思い始めていた。
想像しただけで心の鼓動が速くなるのがわかる。いつからか、私はエル君の事が憧れから好きに変わっていた。
でも今のままじゃ、この気持ちは伝えられない。伝えてはいけないんだ。
伝えても苦しいだけだから。
エル君と会えば会う程自分の気持ちが抑えられなくなる。ずっと胸が苦しいままだった。
そんな時、エル君の書く物語が終わりに近づいているのかな?って思い始めた。
この物語が終わったらわたし達は今まで通り会えるのかな?先の事を考えると少しだけ怖くなった。でもエル君は何も言ってくれない。
その事にあえて触れないみたい。
そのうち無理に話を続けているのだと気づいた。
何でそんな事をするの?せっかくの作品が台無しになっちゃうよ。
わたしのせいかな?
わたしがここに来ちゃったから・・・わたし、エル君の事が好き・・大好き。
もし物語が終わって、わたし達が会えなくなるとしてもここで立ち止まってはいけない。
前に進んでいればきっと本当に辿り着きたい場所へ行けるって信じてるから。
だから、わたしは自分の気持ちを隠して嘘をついた。わたしにとって酷い嘘。
でもあの時の事は決して後悔していない。エル君と会いづらくなる事もわかっていたのに。
だから実際会えなくなった時、胸が苦しくなる程エル君に会いたいって思ってしまう自分がいた。
どうしてこんな選択肢しかなかったのだろう。もっと良い方法はなかったのかな?あれからエル君はずっと物語を書いていない。
わたしはエル君も彼の夢も壊してしまった。
わたしの方から見えるエル君の居る場所はどんどん暗くなっていく。
以前は眩しいくらいに溢れていた光が、今は灯火となっている。
もしかして、この光が無くなったらエル君に会えなくなるのかな?それはいやだ。エル君に会いたいよ。エル君・・・エル君・・・。
真っ暗闇の中で過ごしていた時はとても怖かった。
ずっと暗かった時はとても不気味でわたしはいつも怯えていた。
あの光がどれだけわたしを救ってくれていたか。
この灯火さえわたしを安心させてくれているのに。
わたしは選択を間違えた事に気付いた。
あの光はエル君にとっても希望の光だったんだ。
もっと別の方法があったはずだ。後悔してないなんて嘘だ。
わたしは顔を土砂降りの雨の中にいるように濡らしたながら後悔を続けた。
そしてその灯火だった光もとうとう消えてしまった。