同日 同時刻 コウザの砦
彼女は興奮していた。時刻は深夜、見回りの兵士以外は寝静まり、周りは静寂に包まれている。自分の座っている椅子の軋みすらうるさく感じた。
そんな時間に自分はまだ起きている。その事実に彼女は興奮していたのだ。彼女の夜は短い。日付が変わる前に寝てしまうのが普通だからだ。別に誰かに強制されて寝るわけではない。ただ眠いから寝る。起きるときは起きたい時間に起きる。だから彼女が起きるのは昼過ぎ、などという事もざらだった。
せっかくだから何かをしなければ。そう思ったが吉日、彼女は自室を飛び出して砦の屋上へ走って向かう。途中で見回りの兵士が怪訝な顔で彼女を見ていたが、当の彼女はそんなことを気にしない。
勢いよく屋上の扉を開いた彼女はそのままの勢いで走り続け、落下防止用の策を飛び越えた。落ちるギリギリの位置に着地し、足を投げ出してそこへ腰掛ける。
村は寝静まり、物音などは一切聞こえない。風が吹く音だけが存在する唯一の音だ。彼女は普段自分が見られない、感じられない夜中の世界というものに大いに満足していた。
キョロキョロと周りを見渡していた彼女は、ふと村の中心――噴水広場に光が一瞬だけ瞬いたのを見逃さなかった。
こんな時間になんだろう、花火でもしてる人がいるのか。いや、だったら一回だけ光るのはおかしいな。
しばらく彼女は腕を組んでああでもない、こうでもないと理由を考えた。しかし「考えたって分からない」と答えを出すと、またキョロキョロと村を見渡し始めた。興味を無くしたのだ。
一時間ほどそうしていただろうか。先ほどすれ違った兵士が彼女の元に現れ、部屋に戻るように促した。彼女はしぶしぶとその兵士に連れられて自室に戻る。「あの光は明日にでも調べればいいや」とベッドに身を潜らせた。
そういえば明日は何か用事があった気がする。何だっただろう。けど忘れるくらいだから大した用事じゃないか。
そんなことより明日は良い事がありそう――彼女もまた、根拠無くそう思った。
そんな予感に顔をにやつかせ、すぐに彼女は深い睡眠へと落ちて行く。